第124話 デュラハン
「はぁはぁ」
「はぁはぁ」
柳生と鬼道が共闘を始めてから、何分経っただろうか。
二人は呼吸を乱しながらも、デュラハンと一進一退の攻防を繰り広げている。デュラハンの膂力は、二人の膂力を合算しても正面から押すのは難しいらしく、二対一でも追い込めていない。
「柳生流・参之型」
柳生は刀を逆手に持ち替えた。
刹那、過去最高の振りの速さで、刀を振り抜いた。あのデュラハンであろうと不意を突かれたようで、剣では受けずに背後へと飛び退いている。不意を突かれても、避けることはできるというのが、圧倒的な実力を持っている証明となるだろう。
「――」
柳生の背後に居た鬼道が、デュラハンへと追い打ちを掛けるために走る。後ろへと跳んだため、デュラハンの体勢は若干だが崩れている。剣と大剣がぶつかった。ダンジョンを揺らす衝撃波が、俺たちを襲う。
「――」
俺たちは再び壁に叩きつけられる。これは分かっていようと、どうしようもない。天井同士の戦いは、下々の人々からすれば天災と同義。人の手ではどうしようもできない物なのだ。
「はぁぁ!!」
鬼道が吠えている。鬼道が流れを掴んだ。巨大な大剣を軽く振り回し、デュラハンに反撃の隙すら与えない。体力が尽きるまで、一方的に攻め続けるつもりのようだ。
「――」
これまで瞼を閉じ続けている、左腕に抱えられたデュラハンの頭。それがカッと目を見開いた。刹那、身体に痺れが走る。
状態異常
俺でも直ぐに分かったんだ。歴戦の猛者である二人も、喰らった瞬間に気付いているだろう。しかしどうにもできないのが、状態異常だ。まいちゃんが気絶していなければ、どうにかなったのかもしれないが、先刻のぶつかり合いで再び気絶してしまっている。
「――」
「――ッ!!」
デュラハンの剣が、鬼道の身体を捉える。斬撃を受けると同時に、状態異常が解けたため、鬼道は後ろに飛び退いた。身体に傷は刻まれたが、受けたダメージは必要最低限に済んだのだろう。
「ただの傷ではないか」
鬼道は、絶えず血が噴き出し続けている胸を触れる。するとまいちゃんが回復系の力を使った際に放たれる優しい光と同系統の光が、鬼道の胸元で光った。だが傷は塞がるどころか、噴き出る血液の勢いが増している。
そこから分かること、それはデュラハンの斬撃には回復を妨げる呪いのような物が付与されているということだ。
「まあいい。この程度の傷であれば、死にはしない!」
鬼道は弾丸を思わせる速度で跳躍した。当然、その先に居るのはデュラハン。その勢いに任せて、大剣を横薙ぎに振り抜く。
「――」
鬼道によるその一撃は、デュラハンを吹き飛ばした。俺たちが座り込んでいる場所とは正反対のところまで、デュラハンは吹き飛んでいる。デュラハンが膝を付くのは、これが初めてのことだ。柳生と鬼道にとって大いなるチャンスになる。
「終わらせるぞ」
「言われなくても、分かっている」
二人が駆ける。デュラハンは既に立ち上がっているが、二人が足を止めることはない。駆ける勢いに任せて、各々の武器を振り抜く。
柳生と鬼道による斬撃は、デュラハンの全身鎧にエックス状の傷を付けた。デュラハンは倒れる。しかし立ち上がらないのにも拘らず、魔石へと変わらない。
「どういうことだ?」
数多のダンジョンに関する知識を抱えているであろう【先駆者】の柳生ですら、その状況に首を傾げている。魔物は生命活動を維持できなくなると、魔石となって消えゆく。これがダンジョンにおける普遍的な事実。多少の例外的事象があれど、完全停止した魔物が一切変化を見せないということはなかった。
「江梨子、念のため破壊しろ」
「……研究に使えそうだが、今はそういう事態ではないしな」
エリザベスは倒れるデュラハンへと近付く。
ある一定の距離を取ったまま、詠唱を始めた。相変わらず意味の分からない発音の羅列だが、今までの比ではない長さであることだけは分かった。それも終わる。
「“――”」
技名。ダンジョンを容易に溶かす大火力。それがデュラハンの身体だけを狙って、集中的に浴びせられる。
「……魔石が残っていない」
「鬼道、魔石が落ちていないのは本当か?」
柳生も目が見えずとも、音の反響でそこにあるべきはずの魔石がないことは分かっている。しかし信じられず、目が見える鬼道に聞いた。
「ああ、魔石はおろかデュラハンが居た痕跡すら残っていない」
「ダンジョンが元に戻っているということか?」
「そういうことだ」
まばたき。その後、世界は変わっていた。
「なるほど、そもそもデュラハンなんて魔物は存在していなかったというわけか」
「我々全員に幻術を見せる……未踏破ダンジョンのラスボスに相応しい魔物だ」
見慣れぬ場にて、目の前の魔物が吠える。
【洞爺湖ダンジョン】の氷龍とは比べ物にならないエネルギーを孕んでいる龍。
幻覚龍。
未踏破ダンジョンを締め括るに相応しいラスボスだ。
超高難易度ダンジョンでありながら、最終階層が浅い理由
→複数ダンジョンが混ざった結果、一階一階の難易度が爆上がりしているが、階層数自体は元となったダンジョンの階層数に準ずるため。
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