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おっさんテイマー~趣味のキャンプ飯を間違ってダンジョンでやったら魔物に懐かれました〜  作者: Umi
第1章 焔が輝く狐火

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第113話 海に潜る

 エリザベスと柳生が向き合ってから、どれくらいの時が経っただろう。先刻の柳生と鬼道が戦った時とは違い、エリザベスたちによって作り上げられる張り詰めた空気は、時間の流れすらも歪ませている――そう錯覚してしまうほどには強烈なものだった。


「……」


「……」


 二人は動くこともなければ、口を開くこともない。ただ向き合って圧を発し続けているのみ。そして部外者たる俺たちは、その様子をただ見届けることしかできなかった。


「……はぁ、江梨子の覚悟がそこまで出来ているのなら、これ以上止めはしない」


 先に折れたのは柳生だった。

 鬼道を余裕を持ったまま降せるだけの実力者である柳生ですら、エリザベスの覚悟には勝てなかったようだ。


 柳生が折れたことにより、未踏破領域である三十二階層へのエリザベスによる転移することに決まった。


「では向かうとするか。日本最強の冒険者である麗華ですら、踏破することが叶わなかった未踏破領域、大海の三十二階層へ」


 大海の三十二階層……その言葉から想像できる三十二階層の姿は、たった一つだけだ。

 しかし三十二階層の様相を頭に浮かべるよりも早く、三十二階層の様相は自分の瞳に映った。


「ここが三十二階層……」


 足裏にこれまでとは違う感覚を得たため、足元の方へと目線を向けると、そこには真っ白な砂浜が広がっている。そして目線を再び前へと向けると、そこは日本の海岸線に立った時に見えるような、雄大な大海が広がっていた。


 日本から見えるものと同じとは言っても、海面から顔を出しているのは水生動物ではなく、水生魔物だ。当然、化け物じみたサイズをしていたり、凶悪そうな顔をしていたりと、地上では見ることのできない姿をしているものが大半を占めている。


 そしてこの階層が未踏破領域となっている理由も、この階層に転移してきて直ぐに分かった。

 この階層はあまりに広すぎるのだ。これが平原だった場合は、いくら広くても時間を掛ければ――相応の実力を持ってという枕詞はついてしまうが、踏破するのは可能だろう。

 だが三十二階層に広がるのは大海。麗華の魔法によって凍らせることができたとしても、この階層を全て凍らせるというのは現実的ではない。

 だからこの階層以降は未踏破領域になってしまっているのだろう。


「だがどうやって突破するんだ?」


「先刻述べたように、この階層は私たち先駆者でも、突破することは困難だろう」


 俺の独り言に応えたエリザベスは、こちらの方を指差している。

 自分を差されているとは思えず、後ろを振り返ってはみたが、そこにはゴン太たちの姿しかない。


「君……もっと詳しく言えば、君の従魔である亀之助くんがカギを握っている」


「亀之助……亀之助の水を割る力ですか?」


「そうだ。亀之助くんは海を割り、【内浦湾ダンジョン】へと突入し、未踏破だったダンジョンを踏破してみせた」


「確かにあの時は海を割って、【内浦湾ダンジョン】へと向かいましたけど、ここは規模が違いすぎますよ」


 確かにあの時は海を割ってダンジョンへと挑んだ。

 しかし内浦湾というように、海そのものを割ったとは言い難い状況だったはずだ。それにここはダンジョンで、魔物から襲われることも考慮しなければならないだろう。


 それに地平線が見えるということは、ここから視認できる範囲に階段はない可能性が高いということ。そんな広範囲を探索するのに、亀之助の体力が持つとは思えない。


「それに魔物だって大量に居るので、同条件とは言えないですよ」


「確かにそうだ。だがダンジョンを踏破しなければ、スタンピードが止むことはない。入口の門が開かれた状態は、ダンジョンを踏破しなければ戻ることはなく、時間が経てば魔物たちは再び地上へと現れる」


「それなら、出てくるたびに討伐すればいいだけの話では?」


「確かにその考えも一理ある。だがスタンピードを鎮静化させず、地上に出て来る魔物を討伐し続けていると、某国のように連鎖的にスタンピードが起きてしまう……そうなれば取り返しのつかないことになるのは、君にだって分かるはずだ」


 連鎖的なスタンピード……太平洋上の島国で起きた悲劇で、その島は魔物の楽園となり、人間はおろか動物すらも絶滅したと言われている。

 世界ダンジョン会議にて、何度か冒険者の派遣を提案されていたが、航路や空路が魔物の手によって阻まれるため、物理的に不可能だと却下されてきた。


「ですが【先駆者】たちの力があれば、あんな悲劇にはならないのでは?」


「確かに私たち【先駆者】は、冒険者たちとは隔絶した力を有している。だが万能ではない。不死ではないし、もちろん不老でもない。私たちが全盛期である間は、悲劇を防げるかもしれない……だが全盛期が過ぎた後はどうだ? 止められるような豪傑が生 エリザベスと柳生が向き合ってから、どれくらいの時が経っただろう。先刻の柳生と鬼道が戦った時とは違い、エリザベスたちによって作り上げられる張り詰めた空気は、時間の流れすらも歪ませている――そう錯覚してしまうほどには強烈なものだった。


「……」


「……」


 二人は動くこともなければ、口を開くこともない。ただ向き合って圧を発し続けているのみ。そして部外者たる俺たちは、その様子をただ見届けることしかできなかった。


「……はぁ、江梨子の覚悟がそこまで出来ているのなら、これ以上止めはしない」


 先に折れたのは柳生だった。

 鬼道を余裕を持ったまま降せるだけの実力者である柳生ですら、エリザベスの覚悟には勝てなかったようだ。


 柳生が折れたことにより、未踏破領域である三十二階層へのエリザベスによる転移することに決まった。


「では向かうとするか。日本最強の冒険者である麗華ですら、踏破することが叶わなかった未踏破領域、大海の三十二階層へ」


 大海の三十二階層……その言葉から想像できる三十二階層の姿は、たった一つだけだ。

 しかし三十二階層の様相を頭に浮かべるよりも早く、三十二階層の様相は自分の瞳に映った。


「ここが三十二階層……」


 足裏にこれまでとは違う感覚を得たため、足元の方へと目線を向けると、そこには真っ白な砂浜が広がっている。そして目線を再び前へと向けると、そこは日本の海岸線に立った時に見えるような、雄大な大海が広がっていた。


 日本から見えるものと同じとは言っても、海面から顔を出しているのは水生動物ではなく、水生魔物だ。当然、化け物じみたサイズをしていたり、凶悪そうな顔をしていたりと、地上では見ることのできない姿をしているものが大半を占めている。


 そしてこの階層が未踏破領域となっている理由も、この階層に転移してきて直ぐに分かった。

 この階層はあまりに広すぎるのだ。これが平原だった場合は、いくら広くても時間を掛ければ――相応の実力を持ってという枕詞はついてしまうが、踏破するのは可能だろう。

 だが三十二階層に広がるのは大海。麗華の魔法によって凍らせることができたとしても、この階層を全て凍らせるというのは現実的ではない。

 だからこの階層以降は未踏破領域になってしまっているのだろう。


「だがどうやって突破するんだ?」


「先刻述べたように、この階層は私たち先駆者でも、突破することは困難だろう」


 俺の独り言に応えたエリザベスは、こちらの方を指差している。

 自分を差されているとは思えず、後ろを振り返ってはみたが、そこにはゴン太たちの姿しかない。


「君……もっと詳しく言えば、君の従魔である亀之助くんがカギを握っている」


「亀之助……亀之助の水を割る力ですか?」


「そうだ。亀之助くんは海を割り、【内浦湾ダンジョン】へと突入し、未踏破だったダンジョンを踏破してみせた」


「確かにあの時は海を割って、【内浦湾ダンジョン】へと向かいましたけど、ここは規模が違いすぎますよ」


 確かにあの時は海を割ってダンジョンへと挑んだ。

 しかし内浦湾というように、海そのものを割ったとは言い難い状況だったはずだ。それにここはダンジョンで、魔物から襲われることも考慮しなければならないだろう。


 それに地平線が見えるということは、ここから視認できる範囲に階段はない可能性が高いということ。そんな広範囲を探索するのに、亀之助の体力が持つとは思えない。


「それに魔物だって大量に居るので、同条件とは言えないですよ」


「確かにそうだ。だがダンジョンを踏破しなければ、スタンピードが止むことはない。入口の門が開かれた状態は、ダンジョンを踏破しなければ戻ることはなく、時間が経てば魔物たちは再び地上へと現れる」


「それなら、出てくるたびに討伐すればいいだけの話では?」


「確かにその考えも一理ある。だがスタンピードを鎮静化させず、地上に出て来る魔物を討伐し続けていると、某国のように連鎖的にスタンピードが起きてしまう……そうなれば取り返しのつかないことになるのは、君にだって分かるはずだ」


 連鎖的なスタンピード……太平洋上の島国で起きた悲劇で、その島は魔物の楽園となり、人間はおろか動物すらも絶滅したと言われている。

 世界ダンジョン会議にて、何度か冒険者の派遣を提案されていたが、航路や空路が魔物の手によって阻まれるため、物理的に不可能だと却下されてきた。


「ですが【先駆者】たちの力があれば、あんな悲劇にはならないのでは?」


「確かに私たち【先駆者】は、冒険者たちとは隔絶した力を有している。だが万能ではない。不死ではないし、もちろん不老でもない。私たちが全盛期である間は、悲劇を防げるかもしれない……だが全盛期が過ぎた後はどうだ? 止められるような豪傑が生まれるとは限らないだろう」


 確かにエリザベスが言うことは尤もだ。

 比較的若く、【日本最強の冒険者】の二つ名を得て、肩を並べる冒険者のいない麗華ですら、先駆者たちの足元には及んでいない……と思っている。そんな隔絶した実力者が複数いる世代が、全盛期の間に未踏破ダンジョンを踏破しておきたいというのは、尤もな話だろう。


 だがそれとこれとは別の話だ。エリザベスの話は理想論であり、亀之助の力の解釈を最大にしてようやく三十二階層の踏破を可能にしている。現実的な話では、亀之助の力ではこの大海を探索し終えるよりも前に、体力が切れてしまう確率は九十パーセントほどだろう。


「挑戦しなければ、抜きんでることができない。私たち先駆者も未知の存在に挑戦した結果、圧倒的な力を手にしている。君たちがダンジョンに潜る理由はなんだ」


 エリザベスからの問いかけは、俺を思考の海へと沈めた。


――あとがき――

タイトルの海は、思考の海でした


まれるとは限らないだろう」


 確かにエリザベスが言うことは尤もだ。

 比較的若く、【日本最強の冒険者】の二つ名を得て、肩を並べる冒険者のいない麗華ですら、先駆者たちの足元には及んでいない……と思っている。そんな隔絶した実力者が複数いる世代が、全盛期の間に未踏破ダンジョンを踏破しておきたいというのは、尤もな話だろう。


 だがそれとこれとは別の話だ。エリザベスの話は理想論であり、亀之助の力の解釈を最大にしてようやく三十二階層の踏破を可能にしている。現実的な話では、亀之助の力ではこの大海を探索し終えるよりも前に、体力が切れてしまう確率は九十パーセントほどだろう。


「挑戦しなければ、抜きんでることができない。私たち先駆者も未知の存在に挑戦した結果、圧倒的な力を手にしている。君たちがダンジョンに潜る理由はなんだ」


 エリザベスからの問いかけは、俺を思考の海へと沈めた。



タイトルの海は、思考の海でした


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