第11話 食事
病院での治療を終えた。
なんとその医療費は今回のダンジョン探索で得た収益とトントン。つまり借金の返済を行うことも、今日の食費を賄うこともできない。
そんな俺が今いるのは、とある女性の家だ。
まあ知り合いの女性なんて、一人しかいないんだが。
「大丈夫そうですか?」
「うん、美味いぞ」
冷静に言葉にしたが、心臓はバクバク鳴っている。
異性の家に行くなんて、小学生ぶりくらいに久しぶりで、しかも手料理を食べさせてもらえるなんて、初めての経験だ。
テーブルの上に置かれているのは白米、鮭の焼き魚、みそ汁。
日本食の定番と言われて思いつく料理たち、そんな料理を作ってくるとは想像もしていなかった。
あまりのギャップに心がキュンとなりそうになったが、これまでのイカレた言動を思い出すことによって、自衛することができた。だが、
「良かったぁ」
「――」
と柔らかな笑顔でホッとしている様子に、完全に心が揺れ動いてしまった。それは表面的にも現れ、いつもであれば落とすことでないであろう、箸の間から米を茶碗の中へと落としてしまう。
『本日――渋谷ダン――Aラン――氏が――体――発見――した。――はダンジョン嫌――と――られています』
バクバクと鳴る心臓がうるさすぎて、テレビで流れるニュースが聞こえない。
身体が硬直して食事を再開することもできず、凜々花も恥ずかしそうにしていて、何も話そうとしないため、この大きな心臓の音が部屋中に鳴り響いていると錯覚してしまう。そんな状況が、さらに心臓の音を大きくさせていた。
「コン!」
そんな気まずい状況を打破してくれたのは、ゴン太の元気そうな鳴き声だ。
こんな時も助けてくれるなんて、本当にゴン太は命の恩人だな。
ゴン太の鳴き声により気まずい空気が消し飛んだため、食事を再開した。それにしても俺の好みドンピシャな味付けだなぁ。
――危ない危ない、キモイことを考えそうになった。俺はおじさんなんだということを自覚していかないと……自分で言っていて悲しくなってきた。
だが悲しくとも、既に取ってしまった年齢を偽ることはできないし、一生向き合い続けなければならないんだから、気にしない方がいいよな。
「悟さん、量は大丈夫でしたか?」
「ああ、見てわかる通りちょうど良かったよ」
結局、米粒一つ残すことなく完食した。
食事を盛られる前よりもピカピカになったと錯覚するほどにキレイに食べた……ってのは盛りすぎだが、一切残すことなく完食したのは事実だ。
おっさんの域に足を踏み入れて、食が細くなってきた中、ここまでの食事を取れた自分に驚いている。
「良かったぁ」
「――」
心臓がバクバク鳴る――なんてことはなく、二度目である以上、ある程度の耐性が付いていたようだ。
まあ相変わらずギャップは感じているから、頬が熱くなっているような気がするけどな。
「ふぅ、美味しかったなぁ」
「良かったぁ」
「……」
さっきから「良かったぁ」しか言わなくなった。
botと化した凛々花に、何か声をかけてあげたいが、変に声をかけて悪化されても困るため、こちらは無言でいるしかなかった。
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れる。
どうしたものか。立場的にも、年齢的にも、俺から会話を始めるべきなんだろうが、これといった会話が思いつかない。
冒険者についての話題が一番いいんだろうけど、俺の知識はかなり浅いからなぁ。
「今日はありがとな」
チキった俺は帰るための布石を投じた。
このままの流れで行けば、解散の方向に持って行けるはずだ。
「いえ、悟さんがこうなってしまったのは、私の責任が大きいので」
本当にどっちが本当の凛々花なんだろうか。
そもそも命を預ける相手のことを全然知らないんだよなぁ。だって未だに苗字を知らないしな。
「全然気にしないでくれ」
「そ、そうですか?」
「一番の元凶はギルド長だからな」
そう、俺がこんな立場に陥れられた原因の大半はギルド長だ。あいつの計画によって、俺は冒険者を辞められなくなった。
まあ計画に加担している以上、心の底から許すなんてことは、借金を返し終わるまで無理だけどな。
「明日からの探索もよろしくな」
「はい!」
よし、自然な流れで帰宅の方向へと持っていけた。
「お風呂は先に入りますか?」
「はっ?」
訂正だ。
凛々花相手に自然な流れなんてなかった。そして凛々花の本性はイカレた一面なんだな。
はぁ、俺の平穏はいつ帰ってくるんだろうな。
悟の味方はどこに?
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