第5話 父親はそれ以上のクソだった
その時の挙動ったら、ちょっと面白かった。
あいつの反応を見てやりたくて、ちょっと斜めに倒れておいて正解だったな……なんて思いながら盗み見ていると、文官が「どうされたのですかっ」と焦り混じりに言ってくる。
「お立ちください!」
無視だ、無視。
聞こえないふりで、ふて寝する。
すると、流石の文官も「やばい」と思ったのか、やっと俺を抱き上げた。
……まぁ、俺に触りたくない感じ万歳だったが。
「まったく、これだから三十五番目は」
何だコイツ、今俺を番号で呼んだか。
つくづく失礼なこの男に、また意趣返しがしたくなった。
ちょうど先程、誰が歩いたか知れない廊下に寝そべったばかりだ。
意識がないふりをして身じろぎし、その体を文官の几帳面にアイロンがかけられた、神経質なまでにパリッとした服にこすり付けてやった。
ざまぁ見ろ。
あとは、せっかく呼びに来た国王の息子が、お前のせいで力尽きて倒れた責任を取れ。
たとえ王命でも、意識がないのだから応じようもない。
ブッチせざるを得なくなった国王からの呼び出しは、すべてこの男のせいだ。
俺はこの後自室に戻され、そのまま具合悪いふりをして本当に寝る。
これでこの文官の面目も丸つぶれ――。
「仕方がない。このまま連れて行こう」
はっ?!
何で!
まるで何事もなかったかのように、スタスタと歩いていく文官に、一応意識がない体の俺が抗議する訳にもいかない。
心の中で「ふざけんなっ」と叫びながら、負のオーラだけ出してみたものの、この文官が鈍感だからか、まったく気づく様子もなく、結局そのまま、無駄に横に広く立派なのに、妙に人通りの少ない廊下を抜けて……。
「《《三十五人目》》をお連れしました」
どでかく豪奢な扉の前で、男は俺を抱えたまま、そう告げる。
扉が開いた。
扉の前にいた警備の騎士たちも、俺を見ても微動だにしない。
薄っすらと目を開けてみると、異世界ファンタジーもののアニメで見た事のなるような、日常生活ではおおよそ見慣れない景色があった。
多分コレ、謁見室だ。
もしかして俺、予定通り謁見室に連れてこられた……?!
やっぱり、という気持ちと、何でだっという気持ち。
両方同居しているのは、きっとこの文官の人格については諦めつつ、しかしまだ心のどこかで「俺はまだマシな環境に身を置いている」と思っていたからかもしれなかった。
しかし俺を取り巻く環境は、本当にどうしようもないらしい。
「連れてきたか。起こせ」
「申し訳ありません、陛下。あまりに軟弱で、連れてくる途中で倒れまして」
寝ている子どもを自分のために「無理やり起こせ」という国王――つまり、俺の父親。
そして暗に「起こしても起きないかもしれない」と答える文官。
改めてのクズさに辟易としたところで、国王の煩わしそうなため息が聞こえてきた。
「三十五ともなると、私の遺伝子を以てしても流石に『出涸らし』か」
は?
なんて事言うんだ、自分の子に。
っていうか、こいつも俺の事を『三十五』って。
自分で子づくりして産ませたくせに、番号呼びとかふざけんな!
文官も十分クソだと思っていたが、それ以上のクソがいたらしい……なんて思っていると、それに女の声が答えた。
「まぁ、所詮はメイドが孕んで生まれた子。そもそもの素地が悪いのだから、碌なのが生まれないのも当然ですわ。陛下もそろそろその手癖の悪さと悪食はどうにかなさいませ」
「もうありはせん。それはお前が一番よく知っておろう? 王妃よ」
王妃らしい。
何でそんなふうに断言できるのかは知らないが、どうやらこれには王妃も納得しているようだ。
フンッと少し不機嫌に鼻を鳴らしはしたものの、王妃からの追及は来なかった。
――それにしても。
これほどまでにあからさまな蔑みがこの世にあるなんて。
思わずそんな感嘆の念を抱いてしまうくらい、王妃の言葉からは明らかな蔑みが感じ取れた。
まぁ自分の夫が手当たり次第にメイドにお手付きしているのだとしたら、嫌味を言いたくなるこの女の気持ちも分からないではない。
しかし、それにしたって夫の貞操観念の緩さを権力弱者であるメイドに向けるのは、些か八つ当たりが過ぎるような気もする。
顔は見ていないから人相は分からないが、『人柄は人相に出る』という言葉もある。
この嫌味な女の顔は、もしかしたら如何にも嫌味を言いそうな感じなのかもしれない。
しかし悪い事ばかりでもない。
そうか、俺の母親はメイドなのか。
新事実だ。
「さぁ、コレのために時間を使うのが惜しい。とっとと用事を済ませてしまおう」
国王がサラリと話を変えた。
その言葉を受けて文官が、少し困ったように「しかし、陛下」と声を発する。
そう。
俺は未だに寝たままだ。
この状況で済ませられる用事など、果たしてあるのだろうか。
「別に構わん。私が呼び出し、この者が応じた。その形式は整ったのだ。あとは王命を《《聞かせた事にすればいい》》」
え、もしかして。
そう思った瞬間に、バッとマントが靡くような音が聞こえてきた。
同時に一瞬、ふわりと無重力になる。
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