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「なあ母ちゃん、ハインツ救済計画はどうなってるの?」
ダンは夕食をとりながらアリシアに聞いたところ
「順調だよ」
そういって楽しそうにご飯を食べている。
「内容はやっぱり教えてくれないんだ」
「まあね、情報を知るものは少ない方がいいからね。
ぬふふふふ、好きにできるのも今のうち、覚えとけ」
と、両手をぱりぱりさせながらにやりと笑うのだ。
ダンは背筋に冷たい汗が流れ、
母親には絶対に逆らわないようにしようと改めて心に誓った。
結婚式の朝、その日は
「空が素晴らしい真っ黒さ」
「空気も天気にふさわしい重苦しさ」
「なんだか蒸し暑くてイライラする湿度」
「結婚したらどうなるか未来が見える天気だな」
「ああ、あ、ハインツが団長たちと話してるな」
「お、本当だ」
「なあハインツチベットスナギツネに憑依されてね?」
「ああ、見えるな、背中にスナギツネ」
「あんなに遠い目をしたハインツ見たことないぞ」
「がんばれハインツ、きっと母ちゃんが絶対なんとかしてくれてるから」
「おばちゃんなら絶対大丈夫!な、ダン」
「うん、両手ぱりぱりさせてたからかなり自信があると思う」
「お、おぅ」
「母ちゃんが『あんたたちは絶対に何があってもハインツ君を守るのよ』って言っとけって」
「がんばる」「俺も」「俺もだ」
今日はハインツを守る日なのだ。
ハインツが待つ場所まで何故か腕を組んで団長とマリアが歩いてきた。
「普通は父親じゃないのか?」
「なんでも花嫁の願いだったらしいぞ」
「団長もデレデレで、間違えた、ノリノリで引き受けたそうだし」
「あ、ははは」
「あの団長がねえ」
「うん、なんかちょっと違和感しかないな」
「そういえばそうだな」
団長夫妻の前にハインツとマリアが並んで立った。
団長は後ろの祭壇に置いてあった騎士団の剣をすらりと抜くと、そのまま高く掲げた。
「わが騎士団は強い絆で結ばれている仲間。
その一人、ハインツの結婚の儀式を始めよう」
そう宣言した時だ、バーンと扉が開く音がした。
「その結婚ちょっとまった!!」
驚いたハインツたちが振り返るとさっそうとこちらに歩いてくるマルクの姿が。
「ま、マルク???」
驚きのあまりハインツは固まっている。
「え??え??」
「ちょっと待ったってなになになに?」
「ドドドどういう状況?」
ダンたちは大慌てだ。
そんな中、通常運転?な人が一人。
ハインツの手を握って目をウルウルさせながら語り始めた。
「ハイ君、ごめんね。
マリアずっと苦しかったの。
マルク様に会った時からマルク様がマリアに惹かれてるの気が付いてたの。、
マルク様もハイ君の友達だからずっと苦しんでたと思うの。
でもでも、マリアもだんだんマルク様の事を・・・・。
そんな気持ちでマリア結婚できない~。
ごめんね、ハイ君、ハイ君のためにもマリアしあわせになりますっ。
マリア王族になっちゃうけど、ハイ君の事は忘れないわ。
ハイ君、今までありがとう」
そして、ハインツの手を離すとパッと顔を輝かせて
「あ~ん、マルク様ぁ~、やっぱりマリアの事迎えに来てくれたんですね。
マリア嬉しい~。
マルク様の気持ちに応えますわ~
マリアは今マルク様のおそばに行きますわ~」
そういってドレスの裾を持ち上げてマルクに駆け寄ったのが、マルクはマリアの存在を丸っと無視したままそのまま進んでいく。
「え?あのマルク様?マリアここ・・・」
抱き着こうとした両手をそのままにしてマリアは置き去りにされている。
マルクはそのままハインツに近寄っていくと、
「ハインツ、行こう」
そう声をかけるとはっとしたハインツはうんうんと頷きながらマルクに背中を押されながら扉の方へと歩き始めた。
ぱり
髪の毛が逆立つような雷撃が走り、ダンたちは立ち上がった。
「「「「「いたっ!!あ、ちょっとまった~」」」」
「マルク、いや、マルク殿下だけじゃずるい」
「俺も行くぞ」
「僕もだ」
「俺も!」
そういってダンたちもハインツに駆け寄った。
ハインツはそんなダンたちを見てクスッと笑い、
「ああ、俺もお前らと行きたい」
そういったところ、全員が大笑いしながら扉から外へ出て行った。
残されたマリアはぽつんと取り残された。
「ど、どういうこと?マリアを迎えに来たんじゃないの?
キィーせっかく優良物件の騎士から最優良物件の王子様で玉の輿だと思ってたのにぃ・・・。
あ、そうだ、団長様ぁ、ハイ君のお父様ぁ、マリア悲しいですう」
そういって二人に駆け寄ったのだが、団長はちらりとマリアを見ただけで何も言わなかった。
ハインツの父はおろおろしながらハインツの母の顔と団長の顔を交互に見ているだけだ。
「ハイ、お疲れでおま」
パンパンと両手をたたきながらアリシアがなんと祭壇の上から現れた。
「だれ?」
「初めましてマリアちゃん、私はアリシアでっす」
「アリシア?なんなのよ、おばさん」
「おばちゃんはなんと魔法省勤務の公務員にして、ダンの母上である、おっほん」
(何故威張ってる?)
「ダン君の?それがなにの関係が?今日はマリアの結婚式・・・」
「残念~、今日は結婚式風な騎士団と魔法省合同訓練大会
作戦名【ハインツ救済のついでに訓練しよう】でした~。
皆さまお疲れさまでした~。
今日のそれぞれの立ち位置からのレポートは各部の上長に提出くださいね」
「は?何それ?意味わかんない」
「意味わかって参加してマルク様〜なんてやってんならすごいびっくりなんだけど?
頭の中ラフレシアしか咲かない系?
騎士団と魔法省の訓練が一般人に知らせてやるわけないでしょうが。
知らなかったのはマリアちゃんとハインツ父伯爵だけだよ」
「ななんでそんなことを、マリアはハイ君と結婚式だと思ってたのに。
だますなんてひどい。ひどいわ
マリアのパパとママだってわざわざ来たのにひどいわ」
マリアはそういってシクシクと泣き始めた。
アリシアはう~んと少し顔をしかめるとマリアの父母を手招きした。
「パパ、ママ、このババぁ、コホン、このおばさんひどいの。
パパもママも一緒に抗議しよう!」
そういって二人の手をつかんだ瞬間、ゆらっとマリアの父母が揺らいだ。
「いやっ、何?」
そこには2枚の布が落ちていた。
「これはね、新たに魔法省が開発した特定の人物をそこにいるかのように見せる魔法。
本邦初公開!まだ、他言しないでね~」
すると参列していた人々がワラワラと湧いてきた。
「初めて使ったけどコレ使えるね」
「本当に、屋外はわからないけど、室内での利用はできそうね」
「短時間だけなら警護も楽になるし、もっと周囲に気を回せるな」
騎士団員と魔法省の職員がワイワイと魔法の検証をしている。
「もういい、マリア帰る!みんな許さないんだから!!」
無視されたマリアはプリプリと怒りながら退出しようとすると、
「あれ?動けない」
そこから動くことができないでいた。
「残念!マリアちゃんはまだ帰れません」
「ちょっと、何すんのよこのばばあ!」
「ちょっと固定魔法?てへ」
「何でそんなことすんのよ、早く解除して!!」
「え、無理」
「は?何言って「だってマリアちゃん臭いんだもん」」
アリシアの言葉は周囲に響き、一瞬静寂が訪れた。
マリアの顔は怒りと恥ずかしさで真っ赤になっている。
「アリシア、あんた、思ったことがそのまま出すぎ」
同僚のマーガレットがそういってポコッとアリシアの頭をたたいた。
「痛っ、だって魔法臭い」
「だ・か・ら、そのままいうな!」
「うぅ」
「アリシア先輩・・・」
「アリシアさん、魔法捕獲準備できましたので、解除お願いします」
「は~い」
アリシアが魔法を解除した瞬間、マリアは騎士団によって魔法網で捕獲された。




