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三流悪役令嬢の流儀 7



 呆然としている彼女たちを無視して、私は話しを続ける。

 

「貴方たちがこれを書いたのですよね? 話し合いとかの前に、ちゃんと消してくださる? 人の机に汚い文字を書いておいて、なーにが『話し合いましょう? たっぷりとね』ですの。早く消さないと先生に言いつけますわよ?」

「……は、はあぁ? そこは、話し合いを受けるものでしょう!? 何なんですの、あなた!」


 それはこちらのセリフだ。何なんだ、この人たちは。

 

「貴方がたと話すことなんて、何もありません。こんなことをされたショックよりも、初等部の子たちでもしないような虐めをする精神に呆れてしまいましたわ。ほんの僅かな間でも貴方を友人だと思っていた自分が恥ずかしくて仕方ありません」

「……なっ、なっ……なっ……」


 オルパさんが顔を真っ赤にして震えている。周りの女子生徒たちも、こちらを睨みつけていた。


「お黙りなさい! れ者が! 元はと言えば貴方が調子に乗ってクライス様と親しくなさっているからっ……!」


 そこでオルパさんは、焦った表情になり口を押さえる。


 ……なるほど、そういうことかぁ……。

 クライス様は気付いていたのかな……話した時に疑っていたものね……。


「クライス様と関わっている私のことが気に入らなくて、こんなことをなさったの? 突然、声を掛けて来た理由もそれかしら?」


 大方、仲良くしておいてから裏切るとか、表面では仲良くしておいて陰でいじめるつもりだったのだろう。

 いや、それにしては計画性がなさすぎるな? 今ここで自分がやりました、なんて言うのはさすがに軽率すぎる。もっと、追い込んで辛い目に遭わせてからっていうのがセオリーなのでは? もしかして、めちゃくちゃ気が短いのかな?


「……っ、そうですわ! 私たちのクライス様に馴れ馴れしく近付いて……貴方のような最悪な人間に付き纏われているクライス様が気の毒でなりません! さっさと貴方を排除して、一刻も早く自由にしてさしあげたかったのよ!」


 ……何処に目を付けてるの、この人? 私が付き纏っている? 逆なのだが?


「――貴方、クライス様を主軸に置きすぎて物事を正しく見れてなさすぎなのでは? さすがに、それは危険なので少し冷静になられてはどうでしょうか?」


 私の言葉に、目をカッと開きぶるぶると震え続けるオルパさん。


「なぜっ! この私がっ! 貴方みたいな、残念な人に窘められなければなりませんの!?」 


 ――確かに私は、残念で最悪な三流悪役令嬢かもしれないが……。


「それは貴方が、私よりもずっとおバカさんだからですわ」


 呆然とするオルパさんと、彼女の側にいる令嬢たち。その沈黙を破ったのは、場違いな笑い声だった。


「ふっ……ははっ……あはは!」

「……クライス様……」


 私が呟くと、オルパさんたちが勢いよく振り返る。


「く、く、クライス様!?」

「ああ、ごめんね。あまりに面白くて……あははっ!」


 耐えきれなかったのか、またもや爆笑するクライス様。


「あ~笑った、笑った。――あのさ、君たち教室の外まで丸聞こえだよ?」


 その言葉に扉の方を見てみると、騒ぎを聞きつけたのか人集りができていた。


「……それで、なに? アルメリア嬢、いじめられてたの?」 

「いじめられてたというか、いじめられかけていた……? いえ、すでに机に暴言を書かれているので、これは見紛うことなきいじめです!」

「わぁ、ほんとだ。……思ったよりひどいこと書いてるね。ブス、目障り、調子に乗るな、淫乱? ……ねぇ、何でこんなこと書いたの?」


 すっと目を細めて、オルパさんたちに問いかけるクライス様。


「そ、それは、その……アルメリアさんが調子に乗っていらっしゃったので、窘めようと……」

「……ふぅん。アルメリア嬢、なんか調子に乗ってたの?」

「はあ!? お供に見捨てられて、ぼっちを極めている私の何処が調子に乗っているというんですの!? 仮に調子に乗っていたとして、なぜ関係ない貴方がたに窘められないといけないのですか? だいたい、窘めるって……机にこんな汚い言葉を書くことが、ですか? 品性が下劣すぎません? それでも貴族令嬢ですの?」


 オルパさんが、目を真っ赤にして睨みつけてくる。


「ひ、品性が下劣ですって!? よくも、そんなことをクライス様の前でっ……!!」

「事実でしょう? 気に入らないからなんて最低な理由で、こんな卑劣で低俗なことがよくできましたわね。人の机にブスなんて書く貴方がたの方がよっぽど、おブスなのではなくて?」

「……っ、このっ!!」


 手を振りかぶるオルパさん。

 恥をかかされた怒りで暴力だなんて……と呆れてしまうが、とりあえず一発貰っておいて殴り返そうと考えていたら、手が頬に触れるよりも先にクライス様に肩を掴まれ、彼の方へと引き寄せられてしまう。 

 細身の見た目からは、想像のつかない肉厚な胸板に思わず驚いてしまった。

 手が空振ってしまって唖然としているオルパさんに、クライス様は冷たく言い放つ。


「――いい加減にしなよ。これ以上は俺が許さないけど?」


 その言葉に、床にへたり込むオルパさん。両手をぎゅっと握りしめると、うぐぅ……という声を漏らす。

 

「……っ……だ、だって、あなたがクライス様と親しげになさっているからぁ……悔しくて……悔しくてぇ……うぅ……ぐすっ……ごめんなしゃいぃ……」


 彼女につられて、他の女子生徒たちも泣き始めてしまった。


「……す、すみませんでしたぁ……」

「……もぅ、しましぇん……」

「……ゆ、ゆるじでぐだじゃいぃ……」


「……だって。どうする?」


 私の肩を抱いたままの、クライス様が問いかけてくる。

 どうするったって……うぅん……こんな衆人環視の中で自分たちのやったことがバレて、彼女たちにとって憧れであるクライス様にも冷たい態度を取られてしまって、可哀想といえば可哀想……なのかも?


 まあ、こんな三流悪役令嬢が愛しのクライス様と仲良さそうにしていたら、腹が立つし悔しいかもしれないな……多分。だからといって、あんなことをしていいわけじゃないけど。

 ぐすぐすと泣き続けているオルパさんたちを見て、私はため息を吐くと口を開く。

 

「……もう、いいです」

「いいの?」

「ええ。ですが、二度とこんなことをしないでください。当然ですが、二度はありません!」


 私の言葉に、彼女たちは一際大きな声を上げる。


「あ、ありがとうございますぅ!」

「もう二度としませんー!!」

「しゅみましぇんでしたぁ!!」


 一件落着の流れが見えた頃、その声は聞こえてきた。

  

「あの〜……そろそろ授業を始めてもいいかな?」


 担任教師の一言に、全員が大急ぎで本来の場所へと戻って行くのであった。




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