三流悪役令嬢の災難 14(最終話)
――それから。
学園中に私とクライス様のことが知れ渡り、最初の頃はいろいろ言われていたものの、私が何か言われる度にクライス様が笑顔で牽制するので、今では誰も何も言わなくなってしまった。
セレステちゃんと約束通り新しく出来たカフェでお茶も出来たし、街でたまたま出会ったリュウさんに抱きしめられたりもした。
アレンくんやオリバーくんも、以前のように私を貶めるような発言をしなくなって、安堵している。
驚いたのは、セドリック様に〝おめでとう〟と言われたことだ。そのあとに「彼の相手は大変だと思うけど頑張って」とも言われたが……。
なにはともあれ、今の私はとても平穏な毎日を過ごしている。
◇
「――ところで、アルメリア。ご両親への挨拶はいつがいい? 俺としては、早ければ早いほどいいかなって思ってるんだけど」
「……挨拶、ですか?」
中庭の片隅でクライス様と一緒に昼食をいただいていたら、急にそんなことを言われて首を傾ける。
「うん。結婚の挨拶。俺たち付き合っているんだし、早い方がいいでしょ?」
「けっ、結婚!?」
ついこの間お付き合いを始めたばかりなのに、もうそんな話になるの!?
「そう。……ん? 顔が赤いけど大丈夫?」
人差し指で私の頬をそっと撫でてくるクライス様に、更に顔が熱くなるのを感じる。
「……あっ、い、いえ。そこまで、ちゃんと考えてくれていたことが嬉しくて……ありがとうございます……」
照れながらお礼を伝えると、クライス様が溜め息を吐く。
「――そんなの、当たり前だと思うけど……。それより、あんまり可愛い顔しないでくれる? 手、出したくなるでしょ」
私の首に手を回して、首をこてんと傾けるクライス様。
「……あ、え、えっと、ここは、外ですし……いつ、人が来るか分かりませんので……そ、その……」
「人が来なければいいの?」
「……ぅっ、ど、度合いによりますが……す、少しくらいなら……? と、とはいえ、婚前前の男女があまり、その……」
私がしどろもどろになりながら答えていると、クライス様が吹き出した。
「……ふっ、ははっ。ほんっと、可愛いなぁアルメリアは……。安心して。ここでは、何もしないから」
目をとろりと細めたクライス様が、私のこめかみにちゅっと口付ける。
う、嬉しいけど慣れない……。私が戸惑っていると、クライス様が制服の内ポケットから小さな箱のような物を取り出す。
「――それと、これ」
その箱を私に向けて開けると、中には真っ赤な石の嵌め込まれた指輪が入っていた。
「俺が勝手に選んじゃったんだけど……」
私の左手を取ると、薬指にすっと指輪が嵌められる。
キラキラと光る美しい指輪を呆然と見つめていると、クライス様が美しく微笑む。
「やっと、この指を独占できた」
そのまま手を持ち上げられると、指輪の上から口付けされる。
「……これ、は?」
「婚約指輪。いろいろ厳選して、一番アルメリアに似合うのを選んでみた。他のがいいなら言って? それも買うから」
私は指輪をぎゅっと握りしめると、何度も首を左右に振る。
「これがいいです。……嬉しい……ありがとうございます」
こんな素敵なものを用意してくれていたなんて……。
私がへにゃりと笑うと、クライス様の目がとろりと細くなる。
「良かった。結婚指輪は二人で選ぼうね」
「……はい!」
「――ところでさぁ」
彼の声色が変わると、視線が私の斜め後ろに移る。
「それ、なに?」
『なに? 何か文句ある?』
クライス様の視線を受け、私の斜め後ろに居るサルファーくんが吐き捨てるように言う。
「……えーっと……。あのあと、帰って来てくれまして……」
『……特に行くところもないし、こいつ鈍臭いからオレが側にいてやろうと思っただけだよ』
「――ふぅん。別に必要ないんだけどなぁ……。俺がいるんだし?」
サルファーくんを、じっと見つめるクライス様。
「ほんとに、それだけ?」
『…………当たり前だろ。なに疑ってんだよ。面倒くせぇな』
「…………」
『……ぐっ……』
視線を逸らさないクライス様に、サルファーくんが僅かに動揺する。
「……まあいいか。何かの役には立つかもしれないしね」
クライス様の言葉に、サルファーくんがほっと息を吐く。
「ああ。俺とアルメリアの邪魔はしないでね」
『はあ? ヒトの前でも平気でイチャ付くバカップルのくせに、よくそんなことが言えるな。つーか邪魔なんかしねぇよ。……お前が、なんかやらかさない限りな……』
最後の言葉が小さくて聞き取れなかったので、サルファーくんに何て言ったのかを尋ねてみたら、彼は顔を赤くして私を怒鳴り付けてきた。
『べっ、別に何でもねーよ! バーカ!! もういい! ちょっと出掛けてくる!!』
「お夕飯までには戻って来ますか? 気を付けて行ってらっしゃい!」
私たちのやり取りを見て、クライス様が楽しそうに笑う。
「ははっ、まるで子供扱いだね。まあ、その様子なら心配はないかな」
「心配?」
「こっちの話」
よく分からないが、クライス様が楽しそうだからいいかと、昼食を再開することにした。
◇
――放課後。
クライス様と一緒に帰寮するために、中庭のベンチに座って彼を待っていた。
「(まあ寮なんて学園を出て、徒歩五分くらいの場所にあるんだけど。でも、一分一秒でもクライス様と一緒に居たいし……)」
そんなことを思いながら、にやけてしまう顔を引き締めると、カランと音を立てて何かが足元に落ちる。
「何かしら? ……ああ、午後の授業で作った魔法薬。ポケットの中に閉まったままだったわね」
成功したものは先生に渡してあるので、これは失敗してしまった物だ。
――失敗した魔法薬……?
そこで、私はゲームのイベントを思い出す。
かなり終盤のイベントで、ヒロインが失敗した魔法薬を誤って口にしてしまい、眠りに就くというものだった。
そして眠りから目を覚ますには、好きな人からキスをしてもらわなければならないというもので……。
えっ……ちょっと、待って……。
つ、ついに私にもこんなヒロインムーブ全開のイベントが!?
思わず拾った魔法薬を持つ手が震えてしまう。
これって、クライス様と結ばれたから……? な、何だかちょっと照れくさいかも……。でも悪くないわね、ヒロイン……。
あと少しでクライス様が来てしまう。その前に飲んでおこう。
キスしてくれるかな? 一筆書いておいた方がいいかも? いえ、きっとクライス様なら気付いてくれるはず!
彼を信じようと、私は魔法薬の瓶を開けると中身を一気に飲み干した。
「――うっ、げほっごほっ! まっっず! で、でも、これで、ようやく私にも美味しいイベントがやってまいりましてよ! お〜ほほほほ……でげす」
…………は?
えっ、私……今なんか変な言葉を口にしなかった?
「な、なんか、口が勝手にでげすとか……でげす」
待って待って待って待って、ほんと待って!?
え、何これ!? でげすって何!?
ていうか、何で私は眠らないのよ!?
ま、まさか……この魔法薬って……。
「語尾が〝でげす〟になる薬……とか? でげす」
あ〜〜絶対にそうッ!! 何でよ!? 主人公が美しく眠りに就いて、攻略相手にキスしてもらうイベントが、なんで語尾がでげすになるイベントになってんのよ!! そもそも、でげすって何なの!? ふざけ過ぎでしょ!!
私が頭を抱えていると、後方から爽やかな声が掛けられる。
「――おまたせ。アルメリア」
「く、クライス様でげす!? 」
「……? げす?」
私は急いで口を押さえるが、クライス様の目が輝いていた。
「――もしかして、また何か面白いことになってる?」
「なってませんでげす!! ……くっ!」
「――あはっ、君ってば本当に……」
クライス様が私の指に自身の指を絡ませてくると、恍惚とした笑みを浮かべている。
「可愛くて、可愛くて、最高に面白くて大好き♡」
「……いっ……いやあああああああでげす!!」
三流悪役令嬢アルメリア・スピネルの受難は、まだまだ終わりそうにないのであった。
◇おわり◇
最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
これが最終話ではあるのですが、また何処かでクライス視点やエピローグ的なものを書きたいと考えておりますので、また見に来てもらえると嬉しいです。
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