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【連載版】お払い箱になった三流悪役令嬢はなぜか厄介な激重執着キャラに付きまとわれている  作者: スズイチ
―第二章―

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三流悪役令嬢の災難 4


 ――寮の自室に戻ってベッドの上で大の字になりながら、ぼんやりと考える。


 これから、どうするか。運命の相手とやらを見付けて結ばれないと、私は死んでしまうらしい。不安はあるけど、あと五日で死ぬなんて実感がない。


 指輪をじっと見つめて、溜め息を吐く。


「呪いの指輪……ねぇ」


 運命の人と結ばれなければ、毒針に刺されてしまう。クソアイテムだけど、妙にロマンチックだな……。最低のセンスには変わりないけども。


「……運命の相手かぁ……いるのかな、そんな人」


 セレステちゃんなら、攻略相手が運命の相手なのだろうけど、果たして悪役令嬢の私にそんな人がいるのだろうか?


 見付けるのでさえ困難なのに、結ばれるって……仮に見付かったとして相手に恋人や婚約者がいたら? 既婚者だったりしたらどうするんだろ?


「精霊くん居ます? 居ますよね? お返事ください」

『…………』

「聞こえてます? おーい。……確か、リュウさんに貰った針がこの辺に……」

『何だよ! うっさいなぁ! ゴミアイテムで脅してんじゃねぇよ!』

「あ、精霊くん。ちょっと、お聞きしたいことがあるのですが」

『あんたもあんたの周りも、話全然聞かないのな……』


 呆れる精霊に、先ほどの疑問を投げかけてみた。


『はあ? 知らないよ、そんなの。仮にも運命の相手なら、そんなの乗り越えて結ばれるんじゃないの? 知らんけど』

「そんなものなのかしら?」

『じゃあオレは、もう戻るから!』

「ええ、ありがとうございました。おやすみなさい」


 精霊は私を一瞥すると、ふんっとそっぽ向いて指輪の中に戻って行った。


 小さく息を吐くと、私も休むことにした。



 ◇


 翌日のお昼休みに人の多い場所へと行き、行き交う生徒たちを眺める。


「(あ〜……全然分かんない。運命の相手って、どうやって見付けるの!? トゥンクすればいいの!?)」


 通り過ぎる男子生徒を見ても、何も感じないと嘆いていると、攻略キャラの一人であるセドリック様を見付けた。

 この国の第一王子でもある彼と目が合うと、柔和に微笑みかけられる。相変わらず綺麗な顔をしているなぁと思いながら軽く会釈する。

 そこでふと、クライス様は何処にいるのだろうと考える。


 今日は珍しく絡みに来ない。こっちでも何とかすると言ってくれていたので、もしかしたら私のために動いてくれているのかもしれないなぁ。

 以前なら私一人で何とか必死に動いていたけど、誰かが手助けしてくれるというのは本当にあり難い事だ。


 ――放課後。

 先日のお礼も兼ねて、街で買っておいた有名店の茶葉をクライス様に渡そうと、ご本人を探していた。


「どこにいるのかな……。いつもは向こうから来てくれてたから、クライス様の居そうな場所が分からない……」


 教室に図書室、カフェテリアなども行ってみたが見当たらない。


「……うぅん。いざ、探すとなると難しいものだなぁ……」


 彼は、あんなにも簡単そうに私を見付けていたというのに。


「……まあ、別に明日でもいいか……」


 今日は、どうしよう。図書室で何か参考になる本を探すか、どうにか名簿を手に入れて学園の生徒の中に運命の相手がいないか探してみるか……。


 そんなことを考えながら、バラ園の前を通り過ぎようとした時――。


「……え?」


 美しいバラで出来たアーチの向こうで、クライス様とセレステちゃんが楽しそうに笑っている姿が見えた。


「……ぁっ……」


 ――何だろう、この感情。

 血の気が引くような、胸を突かれるような……。


「……っ……」


 風が吹いて花びらが舞うと、セレステちゃんの艷やかな髪にそっと落ちる。それを、手に取るクライス様。

 

 ――ワンピースを買ってもらった時にも思った。なんて、お似合いな二人なんだろうって……美男美女で絵になるなぁって。

 私のことはいいから、セレステちゃんと仲良くしてほしい……私じゃなくて、セレステちゃんの側に居ればいいのにって。


 なのに……何で今は、こんなにも動揺しているのだろうか。


 セレステちゃんに微笑みかけるクライス様を見ていると、胸の中に黒いインクを落とされたような、薄暗い感情が広がる。

 もやもや、ぐるぐる、むかむか……。なに、これ? なに、この感情……。


 もしかして、私……この方のことを……?


 いや……いやいやいや! 待って! そんなわけ……。あり得なさすぎて、乾いた笑いが漏れた次の瞬間――クライス様を見て、ドクリと胸が跳ねた。


「……は?」

 

 ま、まさか、これがトゥンクってやつなの? いやいや、ただの動悸かも!


 違う、そんなわけがない……と自分に言い聞かせていたら、突然これまでのクライス様との出来事が脳裏に過ぎる。

 初めて声を掛けられたとき、ワンピースを褒めてくれたとき、オルパさんに叩かれる前に引き寄せてくれたとき、ヌメ太と一緒に遊んだとき、校外学習で助けてくれたとき……。


 え? なにこれ、走馬灯? 私、死ぬの? まだ早くない?


 私は胸の辺りを、ぎゅっと押さえて息を吐く。


 いや、これは……これは……。間違いない、これは……。


「(私、クライス様が好きってこと〜〜!?)」


 ああ〜〜……よりによって、何でクライス様!? 確かに仲良くなったけど! いっぱい助けてもらったけど! あの人、攻略キャラだよ!?


 頭を抱えながら、アーチの向こうに居る二人を見つめる。


 そう、クライス様は攻略キャラなんだ。

 何があろうと、最後はお供の二人みたくセレステちゃんを選ぶはずだ。


 好きになったところで、あの方は私の運命の相手ではない。

 

「(――私は悪役令嬢だ。自分の立ち位置を忘れるな!!)」


 はっと息を吐くと、頬を数回叩く。


「……よし。自分で何とかしよう。今までは、毎回あの方に助けてもらっていたけど、今回は自分だけで解決してみせますわ」


 大丈夫、何とかなる。

 そう自分に言い聞かせて、私はバラ園を後にした。




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