三流悪役令嬢の災難 1
「アルメリア」
中庭の端っこで一人で昼食を食べていると、後ろからクライス様に抱きつかれる。
「ち、近いです! 離れてください!」
「そう? 残念」
すぐに手をパッと上げると、私の隣に座ってくるクライス様。
「一人で食べるくらいなら俺と食べようよ。今度から声かけて? それとも俺が迎えに行こうか?あ、それいいね。そうしよう」
にこにこと笑いながら勝手に決めるクライス様。何だか以前にも増して距離が近い。
私が見ていると、こてんと首を傾ける。
「なぁに? どうしたの?」
眩しいな……目が焼かれそう。なんだ、その顔。私が一般女子生徒なら焼かれて死んでたぞ。気をつけて欲しい。
「……勝手に決めないください。ちょっと、お花を摘みに行ってまいりますわ!」
こうでも言わないと彼が付いてくるので、そう言ってクライス様から離れる。
「いってらっしゃい」
手を振るクライス様に息を吐く。
彼の距離がこれほどまでに近くなったのは、校外学習のとき以降だと思う。
確かに死にかけのところを助けられたし、名前も呼び捨てになったし、前より仲良くはなったのかもしれないが、それにしても近すぎる。
気軽に抱きついてくるようになったし、前のように一歩引いてる感がないというか……今のあの人なら、私が死にかけたら秒で助けに来てくれると思う。それくらいに変わったように見える。
「……何か、思うところでもあったのかしらね……」
ため息を吐くと、さらりと葉っぱの揺れる音がして顔を上げる。
「……大きな木。そういえば、この木の側で主人公が〝運命の指輪〟を拾うのでしたっけ?」
懐かしくなって木に触れてみる。すると、足元で何かが光った。
「……なにかしら?」
しゃがんでから、確認しようと手を伸ばすと、左手の薬指に何かが巻きついてくる。
「ひっ!?」
ガチャン、という音と共に左指に嵌ったそれは、繊細な作りの美しい指輪だった。
「……なっ!? これは、いったい……」
『あはは! やーい! 引っ掛かってやんのー!』
突如、指輪から声がする。
「は!? な、なに!?」
指輪から、するりと半透明な何かが抜け出てくる。形状が変わると、それは精霊の形になった。
「……精霊? え……ていうことは、これは〝運命の指輪〟?」
〝運命の指輪〟は、ゲームに出て来た特殊な指輪で、中に精霊が閉じ込められていてるのだが、助けてくれた主人公を運命の相手へと導いてくれるのだ。
ここが分岐点で、その後は事あるごとに精霊のサポートがあり、そのお陰で幸せなエンディングが迎えられる……はずなのだが……。
『なに、そのダッサイ名前。そんな名前じゃなくて、これは呪いの指輪』
「の、呪い!?」
『そう。一週間後以内に運命の相手を見付けて結ばれないと、指輪の中に仕込まれてる毒針で刺されて死んじゃうの! あははっ!』
……なに、そのクソアイテム。一週間後以内に運命の相手? 見つかるわけないでしょう、そんなもの!
「ふざけないでください!」
指輪を抜こうとするが、微動だにしない。
「どうなっていますのよ!?」
『むりむり〜! 運命の相手見つけて結ばれないかぎり抜けないから~! あんた、一週間後には毒針に刺されて終わりだね〜! あはは!』
私は精霊を掴もうと手を出すが、すり抜ける。
『それも、むり〜! オレは捕まらないよ〜だっ!』
べーっと舌をだされると、あははと笑いながら指輪の中に戻って行った。
――なんなのよ、これ。
最初は、素敵なキラキラ妖精の羽イベがグロい寄生生物イベになり、ちょっとえっちな触手イベが愉快な触手イベになり、今度は運命の指輪が呪いの指輪ってか!?
いったい私、これからどうなっちゃうの――!?
胸の中で叫びながら、私は頭を抱えるのだった。




