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【連載版】お払い箱になった三流悪役令嬢はなぜか厄介な激重執着キャラに付きまとわれている  作者: スズイチ
―第一章―

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10/22

三流悪役令嬢の流儀 10



 ――時は過ぎて、校外学習の日。


 学年全員で、いつもの森に来ていた。

 今回出された課題は妖精の鱗粉を持って帰ってくること。 

 交渉して鱗粉を譲ってもらうか、奪い取るか……妖精は小さくて可愛いが、気まぐれで厄介な存在なので後者を選んだ場合は、あとあと面倒なことになる。結局のところ交渉以外の選択はないのだ。


「アルメリア嬢、今日はよろしくね」

「ええ。こちらこそ、お願いいたします」


「……は? クライス様のペアってアルメリアさんですの?」

「冗談でしょう……え、本当に……?」

「なぜ、よりによってあの残念美人と?」

「クライス様でしたら、もっと相応しいペアのお相手がいらっしゃったでしょうに……」

「優秀でお美しい、セレステさんのような方……」

「そうね、セレステさんでしたらクライス様のお側にいても納得できるかもしれませんわ」

「アルメリアさん……容姿は非常に整っていらっしゃるし、スタイルも素晴らしいのかもしれませんが……ねぇ?」

「家柄はともかく、ご本人は平凡そのものですし……」

「なにより、毎回セレステさんに叩きのめされていた時の無様なお姿ときたら……ぷぷっ」

「およしなさいな……ふふふっ……」

「もう、可哀想でしてよ……くすくす」


 相変わらず私に対して手厳しいなぁ。セレステちゃんとの対決は、傍目にはそんなにもアレなものだったのだろうか……。ゲーム内だと様式美ようしきびだったので、深く考えたことがなかったのだけれど……もう少し、あと先考えて行動すべきだったのかもと今更ながらに反省する。


「――アンバーくん、少しいいかな?」

「はい。……ごめんアルメリア嬢、少し待っててくれるかな?」

「はい、どうぞ行って来てください」


 そんなことを考えていると、クライス様が先生に呼ばれて行ってしまう。

 他の生徒たちがペアで森の奥へと進んで行くのを、ぼんやりと眺めていると視線を感じたので振り返る。

 すると先日、精霊の湖でクライス様に見惚れていた妖精が木の陰からこちらを見ていた。

 

 妖精は、くるくると舞い何度も羽根を動かす。よく分からないが、こちらに来いと言っているのだろうか……?

 今回の課題は妖精の鱗粉を持って帰ってくることなので、ここで妖精に会えたことは幸運なことではあるのだが……だからといって、この場を離れるわけにはいかないのでジェスチャーで無理と返すと、どこかへ行ってしまった。


「(……なんだったんだろう? 惜しいことしたけど、またすぐに別の妖精が見つかるだろうし、まあいいか……)」


 小さく息を吐くと、先ほどの妖精の居た場所から細く透明な触手が見える。


「(ヌメ太!?)」


 なんで、こんな所に!? もっと奥の方にいるはずじゃ……人懐っこい子だから、誰かに絡んだり絡まれたりして嫌な目に遭ったらどうしょう……どこかに隠れているように伝えようと、木の側まで行くとそれは触手ではなく、透明な植物だった。


「なぁんだ、良かっ……」


 ほっとした次の瞬間、とてつもなく強い力で口を塞がれる。


「(……っ、ゴーレム!!)」


 なんでゴーレムが!? 驚いていると、ゴーレムの肩の上に先ほどの妖精が乗っていることに気付く。


「(この妖精が、ゴーレムを操っているの!?)」


 逃れようと必死に藻掻くが、肩に担がれてしまい、そのまま森の奥へと進んで行ってしまう。


 辿り着いた先は、足を踏み入れたら最後……二度と這い上がることは出来ないと言われている底なし沼だった。


「ひぇ……」

 

 ゴーレムは私を沼に投げ入れようとするが、必死にしがみついて何とか阻止する。

 側で妖精がケラケラと楽しそうに笑っている姿を見て、やっぱりあの時のこと根に持っていたのだと、うんざりする。本当に妖精というのは厄介な存在だ。


「ふざけないで! 絶対に落とされたりするものですか!!」


 ゴーレムから離れようとしない私に痺れを切らした妖精が、何かを指示するするとゴーレムは私を抱えたまま沼に入って行く。


「はああ!? ちょっ、なにしてるの!?」


 慌てて飛び降り降りようとするが、当然ゴーレムは離してくれない。


「離しなさい! 離してっ!!」


 ――ダメだ、沈んで行く。このままでは、本当に……。青ざめる私を見て笑い続ける妖精がゴーレムから離れようとするが、私はそれを逃さずに捕まえる。


「逃がすものですかっ! どうせ死ぬのなら貴方も道連れよ! 一人で死んでなんてやるものですか!!」


 手の中でバタバタと暴れるが、絶対に逃さないように強く握りしめる。


「私と心中するのが嫌なら、何とかなさい!!」


 必死に首を振って、逃げようとする妖精。パニックになっているのか何もしようとしない。


「ちょっと、ほんとに沈むわよ!? 早く何とか――」


 混乱していた妖精は、目を回してぐったりしている。


「は!? 気絶したの!?」

 

 操縦者がいなくなったことで、ゴーレムが崩れ落ちてしまう。


「まっ、待って……!」


 水の中に足が浸かると、一気に腰まで沈み込む。

 ――まずい。これは、どう考えてもまずい。


「……だ、誰か……っ……」


 手を伸ばしてみるが、空を切るだけであった。


「……ぁ……あっ……ク……ライス……さ……」


 あれ、私……なんで、クライス様の名前なんか呼んでるんだろう……。


「……がっ……ごふっ……」


 口の中に水が入って来る。

 私、死んじゃうの!? ……ここで、こんな所で……?

 ああ……何もかもが中途半端なままだったなぁ……悪役令嬢なんかやってたけど、いっぱい友達が欲しかったなぁ……可愛いお洋服もたくさん着ておけば良かったなぁ……一度でいいから誰かを好きなってみたかったなぁ……誰か……。

 

 そこで、クライス様が浮かんでくる。

 なんで、この状況でクライス様が出てくるのよ……私の困っている様子見て面白がるような悪趣味な人……でも、いっぱい助けて貰ったな……可愛いワンピース着たとき褒めてくれたな……そんなに悪い人じゃなかったのかも。


 でも今のこの状況を見ても、あの人はまたいつものように笑って見てるだけなのだろう。私が自分で解決しようとしない限り、彼は助けてはくれない。

 けど今は死にかけてるし、さすがに今回は助けてくれるのかな? まあ見つけてもらえたらの話だけれど……。


 私が、ふっと小さく笑って静かに目を閉じた次の瞬間――。


「アルメリア嬢!!」


 彼の声が耳に届いた。


 


 

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