My courage
「えー今年体育祭の運営やらないといけないの?」「まじでめんどくさい」「だるいからテキトーにやろう」
僕は今年で高校2年生。高校1年生は新人すぎるし、高校3年生は受験があるし、高校2年生は丁度いい時期だ。だからなのだろう、学校行事の大半は2年生が中心になってやらないといけない。体育祭もその1つなのだ。クラスのみんなはやる気のない様子で僕を含め4人の体育祭実行委員の話に耳を傾けている。
「地域の人を案内する役、アナウンスで司会をする役、校庭の設営役、各競技のサポート役…って感じです。」
「4つなら体育祭実行委員の4人だけでやればいいじゃん!」
クラスのガキ大将が叫ぶと、周りのみんなもケラケラ笑い出した。体育祭実行委員は4人とも気が弱い人で言い返すこともできない。でも、僕は内心憤慨していた。すごく不愉快だった。
「体育祭実行委員なんて体育祭でしか仕事しないんだし、頑張ってもらわないと。」
彼がそう言うと「そうだな」「たしかに」と共感の声が湧いて僕はもう耐えられなかった。
「みんなで協力しないと意味ないんだよ。それに4人だけでやるのが大変だからみんなにもお願いしているんだ。ちゃんとやるべきことはやろうよ。」
言葉は喉まで来ているのに言い出せない自分がいた。ここで自分がこんなことを言ってしまったら、クラスみんなが敵になってしまうのではないかと怖くてたまらなかった。バカまじめだとレッテルを貼られてこれから仲間外れにされてしまうかもしれない。
「じゃあもうさっさと帰ろうぜ!てか、今日金曜じゃん!いえーい!」
クラスのみんなが席から歩き出そうとしたその時だった。
「なんかかっこ悪いよね。」
低くて静かな声が教室に響き渡った。ザワザワしていたクラスのみんなが一気に静まり返る。僕は驚いて自分の隣にいる川村さんを見た。川村さんはぱっつん前髪でおかっぱ頭の大人しい女子だ。クラスでは影が薄くて休み時間はいつも1人で本を読んでいる人だ。そんな彼女が下を向いたまま、拳を強く握っている。
「は?なんだよ川村。調子乗ってんの?」
ガキ大将が彼女に近づいてくるが、川村さんは話を続けた。
「楽な道を選ぶだけが人生じゃないんだよ。たとえどんなにやりたくなくてもめんどくさくてもやらなきゃならないことだってある。やらなきゃいけない時だってある。そんなことも分からないの?」
「川村、てめえ…!」
「ちょっと待って!!!」
僕は今まで生きてきた中で1番大きな声を出した。クラスのみんなはびっくりした様子で僕を見つめる。川村さんがきょとんとして僕を見つめていたから僕は力強くうなずいた。
「僕たち体育祭実行委員はみんなと一緒に体育祭をやりたい。たしかに期間限定の委員会だけど、だからこそ情熱を持ってこの仕事をしてるんだ。今もほぼ毎日放課後残って一生懸命準備してるけど、僕ら4人だけじゃ手が回らないことも多くてみんなに助けてほしいんだ。みんなのことを信頼してるから頼んでるんだよ。どうか、お願いします!」
僕が90度お辞儀をすると、川村さんを始め他の体育祭実行委員もお辞儀をした。
「お前ら、ほぼ毎日残ってやってるのか?」
1人の男子がポツリと呟く。すると他の女子たちが「知らなかった、すごく大変なのね。」と気の毒そうに僕らを見た。しかし、ガキ大将は納得しない様子で僕らを見た。
「勝手に俺らのこと巻き込むんじゃねえよ。俺らは別にお前らと一緒にやりたいなんて思ってねえし。楽したいって思うなんて人間当たり前だろ。」
「いや、それは違うよ。」
僕は彼の目の前に立ってはっきり言った。
「誰かのために何かを達成したい。そういう想いがあれば、楽したいなんて思わないんだよ。むしろ自分にできることを精一杯やって喜んでほしいと思うんだ。君にもそういう気持ちが必ずあるって僕は信じてる。」
ガキ大将は何も言わずに唇を噛みしめている。
「だって僕、知ってるよ。君はすごく優しい人だって。みんなをまとめるリーダーシップがあって、いつもすごいなぁって思ってるよ。君みたいな人がこのクラスにいてくれて本当に良かった。」
「そんなこと…そんなことねえけどよ…。」
「お前はいつもクラスの中心にいてくれるよな。」「そうね、いつも最初に意見言ってくれるし。」
クラスのみんなも僕の言葉に共感してくれてガキ大将はさらにタジタジになった。隣の川村さんも嬉しそうにその様子を見ている。いつの間にかさっきまでとは違うほんわかした空気感がクラス全体を覆っていた。
「仕方がないな…じゃあ役割決めるぞ。みんな4つに分かれればいいんだろ?」
ガキ大将の言葉にクラスのみんなが拍手を送る。僕は「ありがとう!」と心からお礼を言った。
そして僕はもう1人、お礼を言わない相手がいることに気付いた。
「川村さん。」
僕が名前を呼ぶと彼女はちらっと僕を見て首を傾げた。
「本当にありがとう。勇気を出して声を上げてくれて。川村さんがいなかったら僕は話せてなかったよ。」
「ううん、こちらこそありがとう。きっとほんの少しだけでも勇気を出せば変えられるんだよ、なんだってね。」
彼女の言葉がすとんと僕の心に落とし込まれてとても気持ち良かった。教室の窓から入ってくるそよ風に初夏の匂いを感じて僕の清々しい心を優しく包み込んだ。
完
少数派として声を上げること、その勇気ある一歩が大きなムーブメントを生み出す。
…とは言えども、みんなが「イエス」と言っていることに自分だけ「ノー」と主張できる人はなかなかいないのではないかと思います。どうしても同調圧力があったり、省かれることを恐れたりする感情が渦巻くはずです。しかし、自分の気持ちや考えを押し殺すことなく正直に伝えられるような、そんな勇気を出せる人たちが少しでも多くなっていけたら素敵だなと私は心から思っています。どんな人の意見や考えもその人にしかない唯一無二の素晴らしいアイデアであることに間違いないですから。