表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

7

「……こんなものかしら。」


混ぜていた手を止め、息をつくとリオと目が合う。


「面白くないでしょ?」


そう聞いた私の言葉にリオは、組んでいた腕を下ろして感心するように呟いた。


「手馴れているんだな。」


「まぁ、私の資金源だもの。」


少し俯いてフッと笑うと、黙ったまま表情を変えないリオをじっと見る。


「……何故だかは聞かないの?」


私が静かにそう問うと、私を見たまま眉を顰める。

その様子に首を傾げると、リオは少し迷って口を開いた。


「……探られたくないことは誰にでもある。」


リオ自身に経験があるような言い方に、「そうね」と言って俯く。


「……でも、私は貴方なら不快では無いわ。」


私の言葉に続きを待つようなリオから顔を背け、片付けをしながら話し始めた。


「……私はね、望まれない子だったみたいだわ。勝手に全てを決められ、政略の駒として生きていた。……それが嫌だったの。もう二度と戻らないつもりで家を出たわ。やっと自由になれたの。」


「……強いんだな。」


「……そうかしら?自分ではよく分からないわ。……自由のために頑張っただけだもの。」


私の言葉に俯いてしまったリオにゆっくり近づいた。そっとリオに手を伸ばして、頬に触れると深い青に見つめられる。


「……なんだ?」


「なんだか、リオが悲しげに見えて。」


そう言うとリオは私の手に大きな手を重ねて、擦り寄るように目を瞑った。そっと頬を撫でると、目元がピクリと動く。


「何も、聞かないのか?」


私の手を押えたまま、ゆっくりと目を開け私を見る。


「……聞かないわ。……話を聞かなくても、そばに居ることはできるもの。」


迷子の子供のような顔をするリオに、胸が苦しくなる。今にも崩れそうなリオを支えてあげたくて、掴まれた手をリオの頭へ伸ばす。そのままそっと引き寄せて、リオを抱き締めた。


「……何してんだ。」


「さぁ?」


短くそう呟くと、リオは私の体をふわっと抱き締めた。私の体温でほんの少しでも、心の傷を癒してあげることが出来れば、それで良かった。


その日以来、ギルドで部屋を借りて治癒や調薬をする私を、リオは時折見に来るようになった。

何かを話すわけでも、私に何かを要求する訳でもなく。ただ静かに私の行動を見つめていた。


薬草が切れると、リオが護衛を買って出てくれた。


静かで、何も言わなくても隣にいてくれるリオは、雛鳥のようだなと思っていた。

そんなリオと過ごす時間が、私も心地よく感じていた。


そんな日が半年ほど続き、本格的な寒さを感じる季節になったある日。

リオと薬草採取へ行く予定だった私は、ギルドのクエストボード横の掲示板を見て、足を止めた。


『探し人ーーカイラ・バーディン』


似てもにつかない姿絵の載った紙を見て、両手をぎゅっと握りしめる。


「……どうした?……っ!?」


リオに尋ねられ、顔を上げると驚いたように目を丸くしていた。きっと私の顔が青ざめていたのだろう。呼吸がしずらくなって、その場にしゃがみ込み蹲る。


「おい。しっかりしろ。……俺の声は聞こえるか?」


リオの問い掛けにコクコクと頷くと、何があったのか1つずつ確認される。どれもに首を振り応えると、リオは「場所変えるぞ」と言って、背中を摩っていた手を私の腰へ回した。

そのまま支えるように立ち上がり、私の膝裏に腕を当てると抱き上げた。


「……ゆっくり呼吸しろ。」


鼓動を聞かせるように、私の頭を自身の胸元に寄せたリオは、耳元で優しく声をかけてくれる。


「……そうだ。ゆっくり。……いい子だ。」


リオの声に少しづつ落ち着いた私は、力が抜けてリオに凭れてしまう。そんな私を気遣うようにリオは、人目のない部屋に入った。

ようやく意識がはっきりしてきた頃、私はリオの膝に乗せられて頭を撫でられていた。ぎゅっと握ったリオの服は、シワができてしまっていた。


「……落ち着いたか?」


上からリオの声が降ってくる。


「……ええ。ごめんなさい、取り乱して。」


私がリオの服を離してそう答えると、リオはまだここに居ていいと言うように、私の頭を撫でた。


「……何かあったか?」


ゆっくりと見上げると、心配そうに瞳を揺らしたリオが見えた。首を振って俯くと、心臓の辺りがザワザワとして、両手を強く握った。

すると、リオは私の顔を両手で包み自分へ向ける。大きな暖かい手に包まれて、少し安心してしまう。


「……俺は、お前の味方だ。」


宣言するようにはっきりと告げたリオは、じっと私の目を見ている。

リオの言葉が嬉しくて、今まで我慢していたものがボロボロと崩れていく。頬を伝う涙が止まらなくて、私は顔を歪ませた。


「……泣かれると、どうしたらいいか分からないな。」


小さく呟いたリオは、私の前髪を上げてサラサラと撫でると、額に口付けた。ポカンとしながらポロポロと涙を流す私へ、幼子を慰めるように顔中に口付けを落とす。

カチンと固まった私は、顔に熱が集まるのを感じた。


「……止まったな。」


リオにそう微笑まれ、私の思考はどこかへ飛んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ