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出来るだけ国から離れたかった私は、3ヶ月かけて国を2つまたぎ、アリュール王国という国に行き着いた。

途中の町で売り払った髪とドレスの資金はもう少しあるが、ここまで離れたら私を探すことは困難だろうと、少し息をつくことにした。


「この国は、確か魔法使いが少ないって聞いたわね。」


事前に調べていた情報を思い出しながら町を歩く。魔法使いが少ないせいか、魔道具の多い通りは人で賑わっている。門から続く大通り、中心の噴水がある広場に近い場所に建つ、ひときわ目立つ大きな建物に入った。武器を携えた男女が談笑しており、掲示板のようなボードには、依頼書が沢山並んでいる。私は簡素な室内にある受付の一つに、静かに並んだ。


「登録を。」


冒険者ギルドで、身分証を発行するのが平民の間では普通だと学んだ私は、ギルド登録に来ていた。

ギルドについての説明を聞きながら、渡された用紙に個人情報を記載していく。


「では、こちらミラさんのカードです。これに魔力を少し流してください。」


前世の名前から『ミラ』と名乗り、差し出されたカードを受け取る。

渡されたカードは魔道具のようで、魔力を少し流すとほんのり光を放つ。これで私の魔力を覚えたのかと、興味深く観察していると、私の書いた用紙を見ながら受付の女性は話しかけてきた。


「ミラさん。今日は登録のみと言っていましたが、良ければ依頼を受けませんか?」


受付嬢の言葉に不審に思った私は、続きを促すように彼女を見た。そんな私の視線を感じたのか、慌てたように説明を始めた。


「今、魔物の繁殖期で怪我人が多いんです。ミラさんは治癒魔法が得意なら、依頼としてギルドがクエストを出すので、それを受けていただきたいんです。」


「……ギルドに治癒士はいないの?」


「ミラさんはこの国出身ではないんですね。……この国で治癒士は貴重なんです。貴族の為に王宮にはいるようですが、我々の為に派遣されることはないんです。」


受付嬢の言葉に納得した私は、少しだけ考えて、フードを被ったままの格好でよければと答えた。

私の言葉に明るく笑った受付嬢は、すぐに上に話してくると走っていく。


(元気ね。……この国の貴族は面倒なのかしら?それとも、魔法使いが少ない影響かしら?)


魔法使いが少ない影響であれば何も問題がないが、貴族が管理しているのであれば、治癒士として活動はよくない。早めに国を出ることも、視野に入れることにした。


「ミラさん、こちらにお願いします。」


パタパタと戻ってきた受付嬢は、依頼書を私に渡すとギルドの奥に案内した。受付嬢についていきながら、依頼書の内容を確認していた私は、金額の欄を見てつい足を止めてしまった。


「ねぇ、この金額合ってる?」


私の言葉に足を止め振り返った受付嬢は、苦笑した。


「薬だと時間がかかります。その間剣を握れない者は、仕事がないのと同じなんです。」


確かに貴族の治癒代よりは安いだろう。しかし、魔法薬の十倍程の値段は、平民では出し渋るものだ。

眉を下げた彼女に「そう」とだけ返すと、何も言わずにまた案内してくれた。広い会議室だと思われる部屋に通され、一斉に視線が刺さる。私は椅子に座ると、早く治せなどと、面倒なことになる前にくぎを刺しておくことにした。


「私は傲慢な態度をとる者は、たとえ貴族でも治さない。全員治す魔力はある。重傷者からとりかかるから、呼ばれるまでおとなしくできない者は帰っていいから。」


そう言って睨んでくる者に退席を促せば、全員が大人しく座りなおした。それを見て、私は重傷者を分けてもらい一人ずつ対応していった。


重傷者を特に苦労もせず治す私に、周りの視線が変わる。治癒魔法は、体の構造を理解している私からしたら、軽傷でも重傷でも難易度は変わらない。

軟化した、周りの態度に安堵しながら治療を進める。


最後の軽傷者まで終わり、伸びをしたところで背中から声が掛かった。


「なぁ。」


振り向くと一番最後にみた、綺麗な銀色の短髪に、吸い込まれそうな青い瞳の青年が立っていた。鋭い目は睨んでいる訳ではなく、ただ私を観察しているようだった。


「なにか?」


何か失敗したのかと問いかけると、眉間にしわを寄せた。


「……お前、何者だ?」


フードを深く被っているため、私の顔が見えず不審に思ったのだろう。


「……人に聞く前に自分が名乗ったらどうなの?」


言い返した私に言葉が詰まった彼は、静かに「リオ」と名乗る。案外素直な性格なのねと、笑ってしまった。


「素敵な名前だね。……ミラ。この国に流れ着いた、ただの治癒士。」


そう言って手を差し出すと、おずおずと握られる。その手を見て私は固まってしまった。そんな私をリオは不思議そうに見た。


「……ねぇ、この傷。何をしたの?」


リオの腕に残る大きな傷は、刃物で割いたような痕と、傷から管のように延びる蔓のようなもので、禍々しく見える。

私がそっと確認のためになぞると、リオは痛みで顔を歪めた。


その反応で症状がわかった私は、腰に着けたアイテムバックを漁り、魔法薬を取りだした。


「おい。薬は効かないぞ。」


「……普通の薬はね。」


彼の傷には呪いが含まれている。普通の治療法が効くはずがないのだ。しかし、私は特殊な薬を研究していた。その中に、呪いに効く物も含まれていた。

リオを椅子に座らせ、丁寧に傷痕に薬を塗り込んでいく。


「1年ほどで良くなると思う。……痛かったでしょう?」


この傷の痛みを想像して、自分の腕を摩ってしまう。

そんな私を、リオは穏やかな表情で見ていた事に、気づくことは無かった。

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