表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

9

「ミラ。」


いつものようにリオが私へ手を差し出す。その大きな手にそっと乗せると、きゅっと握られる。満足そうに頷くリオに手を引かれ、ギルドへ向かう。


「……そんなに心配しなくてもいいのに。」


可愛くない言葉が口から漏れるが、リオの体温に安心している自分もいる。そのことを分かっているのか、リオは私へチラっと顔を向けるとフッと笑う。


「俺がしたいだけだ。」


その言葉に何も言えなくなった私は、賑やかな通りをリオと歩く。冬になり、冷たくなった空気を吸い込んで、気持ちを落ち着かせた。


リオへ打ち明けたあの日以来、私は一人で出歩くことがなくなった。リオの態度は余り変わらないものの、時折熱の篭った瞳で見つめられ、触れられることが増えた。

そんな状況にドキドキして嬉しいと思う私は、既にリオに落ちているのだと思う。


リオに見送られ、ロアナの受付へ並び話をする。


「ーー分かりました。……あ、ミラさん。」


話が終わり、受け取った依頼料をカバンへ仕舞っていると、ロアナに呼び止められる。


「なぁに?」


顔を上げると少し心配そうなロアナが、私へ顔を寄せて小さめの声で話し出す。


「……最近、リオさんの雰囲気が柔らかくなってきて、女性冒険者から人気なんです。……その……。気をつけてください。……ミラさん、戦闘経験は……?」


「……え?そんなに野蛮なの?」


「……いえ、でも、ゴロツキに依頼する人もいるので、リオさんから出来るだけ離れないように。」


心配そうなロアナに頷くと、気遣ってくれたことに感謝を告げて外に出る。ロアナの言った通り、リオは人気なようで女性に囲まれている。

腕に手を添えられ、話しかけられているが、リオは全く反応を示してはいない。それでもほんの少しだけモヤモヤとしてしまうが、返事を返してもいない私が、何かを言うのは間違っている。


言葉を飲み込んで、リオに話しかけようと歩き出したとき、背中をトンと誰かに押される感覚がした。


「えっ。」


バランスを崩して転びそうになるところを、ギリギリで踏とどまる。体制を立て直して振り返ると、私を睨んでいる女性が見えた。


「……あんたなんなの?」


知り合いでもない顔に、首を傾げると怒った彼女は私へ掴みかかる。驚きはしたが、先程ロアナに教えて貰っていたおかげで、後ろへ跳んで避ける。しかし、咄嗟だったこともあり、フードが外れてしまった。

私の顔が晒されたことにより、周りの人が息を呑む音が聞こえる。


「ミラ。」


騒ぎに気づいたリオは、私を隠すように抱き締める。


「……おい。ミラに何をした。」


低く鋭い声を放つリオは、目の前の女性に問いかける。リオに凄まれ、固まってしまった彼女は、悔しそうに顔を歪めた。


「……なんでそいつなのよ!私の方が先に声をかけたじゃない!」


「だからなんだ?俺が好きでミラと居るだけだ。」


そう言ってリオは一蹴すると、私の手を引いてその場を離れた。雑踏の中をリオの後ろをついて歩く。ちらりと見上げた横顔は、なんだか悔しげに見えて不思議に思った。


「リオ?」


リオを見上げ、首を傾げると私の手を引いて建物の陰に入る。リオはそのまま何も言わずに私を抱きしめ、腕に力を入れている。


「どうしたの?」


いきなりの行動によく分からず、リオに問いかける。「なんでもない」と顔を上げたリオは、無理に作ったような笑顔で私は何も言えなくなった。


その日から、顔が見られてしまったことにより、ローブを被ることはなくなった。ローブを被っている方が、フードを外そうと、近づいてくる者が多かったからだ。

ライラック色の髪は肩につくくらいに伸び、今日も風で揺れている。

そんな私に視線が集まるのは、私の貴族らしい容姿のせいだろう。


ため息をつきながらリオの後ろを歩いていると、いきなり腕を掴まれる感覚に肩が跳ねる。思わず手を振り払って振り返ると、ローブを深く被った背の高い人物が立っていた。


「……なに?」


私の声で振り返ったリオに抱き寄せられ、ほんの少し安心した私は、目の前の人物を睨む。

目の前の人物は、ほんの少しだけたじろぐと、何か言いたげに口を開いて閉じる。


なんなのだろうと警戒していると、ゆっくりとローブを脱ぐ。その男の顔を見て私は息を飲んだ。


「……今更、なんなのでしょうか。」


顔を顰めてゼオンに低く問いかける。

そんな私に、ゼオンは酷く痛みを感じているようで、苦しそうな表情をしていた。


「……君を、迎えに来た。」


意味のわからない言葉が聞こえ、眉が寄る。


周りがザワザワとし始め、注目されていることに気づく。ハッとした私は、ゼオンへ冷たく突き放した。


「……お帰りください。私と貴方の関係は既に他人です。」


「待ってくれ!」


ゼオンに背を向けた私を、必死に呼び止めるゼオンにため息をついた。人だかりができてしまいそうな雰囲気に、リオの手をぎゅっと握って、仕方なくカフェの個室へ入ることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ