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メランコリックな少女は今日も眠れない

作者: 睦月 巴

注)DV表現を含みます。閲覧は自己責任でお願いいたします。

 何か自慢できるものを持っているわけでもない。

 何か得意なものがあるわけでもない。

 好きだとか、嫌いだとかも、よく分からない。

 ただただ、毎日を無駄に消費して生きている。そんな感覚がする。

 だからだろうか、母はいつも私を怒る。

 学校では、「真面目に頑張っているのはよく分かるけど、その努力がなかなか結果に結びつかないね」と、先生に言わせてしまっている。

 そんな私の生きる価値って何だろう?

 分からない事だらけで、どんどんと虚しさだけが増えていって、苦しくなる。

 私は、本当に生きているんだろうか?


 いつものように、朝が来ては学校に行き、時間になれば家に帰る。ただそれだけ。

 そんな毎日を過ごしている。

 つまらないくらいに平凡で、何もなくて、私らしくて、嫌になる。

 嫌な事はいっぱいある。

 勉強も嫌だし、つまらない毎日も嫌だし、生きる事も嫌になる時だってある。

 けど、嫌いかと聞かれたら、嫌いとは何だろうってなる。

 嫌だとしてもやらないといけない事、当たり前でなければいけない事で、それが嫌いというには、拒絶したいわけでもなくて、ただ、なんとなく嫌になるだけ。

 誰かに話すつもりはないけれど、言ったところで理解はしてもらえない気がする。

 別に理解を求めているわけじゃないから、理解してもらえなくてもいいけど。

 逆に好きなものを聞かれても分からない。

 周りで過ごしている人たちは、あれが好きだとか、これが好きだとかよく言っている。その感覚がよく分からない。

 可愛いものが好きという人が女子生徒には圧倒的に多い気がする。確かに可愛いものは可愛いんだろう。けど、それが好きって何だろう?

 好ましい?

 なんで?

 私には分からない。

 私は人間のはずなのに、何かが欠落しているようだ。

 昔から、周囲とは馴染めなかった。

 仲間外れにされたからと言って、別に何とも思えなかった。

 今でも「一人が好きなんでしょ?」って言われる事がある。好きというわけではないけど、一人だろうと特に不便を感じさえしなければそれでいいと思う。

 困るとしたら、授業とかでグループを作るように言われた時とかだ。

 私は誰と一緒でも構わない。けど、他の人は仲のいい人と組みたいらしい。

 そうか、そういうものか。そんな風に思っていたら、いつの間にか一人取り残される状態になる。そしたら、見かねた先生がどこか人数の少ないグループに私を放り込む。

 ああ、迷惑を掛けてしまっているなぁ。

 そんな事を思いながらも、次に同じ事があった時の対処の仕方が分からない。だって、組みたいという願望すらない。きっと私はそれさえもどうでもいいんだ。

 過去に誰かが私に聞いてきた事がある。「学校が嫌にならない?」と。

 学校は飽く迄も勉強するところで、そういう場所だ。だから、学校自体が嫌というわけじゃない。

 だから「別に」と返すと、変な顔をされてしまった。

 勉強は嫌。誰かと一緒に作業しなければいけないのは面倒。でも、だからと言って、しなくていい理由にはならないし、学校を嫌いになる理由とも違う気がする。

 その考えはその一言では伝わらないのは分かっていた。

 けど、どうも私は『変わった人』と認識されてしまったようだ。

 それならそれでよくって、どうでもよかった。


 学校が終われば家に帰る。きっとそれは当たり前。

 家には帰りたい。帰れる場所があるんだと安心したいから。けど、帰るのが嫌に思う事が多くて、足が重くなる。

 家に近付くだけで胃がキリキリと痛む。

 どうせ、母はまた私を怒鳴るのだろう。

「どうして勉強してないの? どうして頑張れないの? もっとちゃんとしなさい!」

 どうして、どうして、どうしてと、五月蠅くて、まるで真面な人間でないのだから、もっと人間らしくなれと言わんばかりに怒鳴り散らかしてくる。

 耳を塞げば、その手を掴んででも耳元で叫ぶように怒ってくる。気に食わなければ、その手が私を打ってくる。

 痛いのは嫌だ。

 私が顔を顰めると「貴女が悪いんでしょ!」と、より一層大きな声で怒鳴りつけてくる。

 どうやら、母にとって私は悪そのもののようだ。

 何をしても、何もしなくても私を責める。

 そんな母が家にいると思うと、ますます胃が痛くなる。

 そう思いながら、玄関を開けると、案の定、怒鳴り声が聞こえてきた。

「一体どこに寄り道していたの! 帰ってきたのなら、ちゃんと勉強しなさい!」

 その怒鳴り声に顔を顰めたら、より強い怒号が飛んでくることくらい分かっている。だから、表情を変えずに「ただいま」と言って、靴を脱いだ。

「ちょっと、何か言ったらどうなの?」

 どうやら、帰ってきたという挨拶だけでは駄目なようだ。

「別にどこにも寄ってないよ。今から自分の部屋で勉強するから」

 怒号で耳が痛むが、それを我慢しながら言うと、母はぶつぶつと何やら言いながらリビングに戻っていった。

 私はその様子に少し安堵して、逃げるように自分の部屋に飛び込んだ。

 家にいる時はなるべくここで過ごす。

 けど、それでも母は偶に乗り込んで、私の城を侵害してくる。

 今日がその日でない事を祈りながら、嫌々ながらに勉強を始めた。


 夕食時になると、母はリビングから叫ぶように私を呼ぶ。

 本当は食事も摂りたくない。痛む胃に優しくないメニューを見ると、吐き気が込み上げそうだ。

 それさえも我慢して、私は「いただきます」とだけ言って、食事を口に押し込んでいく。この作業は本当に苦手だ。

 飲み込むには、胸の奥がつっかえて、食べ物を押し出してきそうになる。

 そうさせない為にも次々押し込んで、自分の皿が空になるまで繰り返し、最後は水で胃に流し込む。

 食べた物が出てこないように気を付けながら「ご馳走様」とだけ言って、食器を片付ける。その時でも母は嫌そうな顔で何かをぶつくさと言っている。

 それを真面に聞いてしまったら、より鬱々とした気分になってしまう。

 そうなる前に、私は自分の部屋に逃げ帰る。

 一日の汚れを落とすお風呂だって、憂鬱になる。誰もいない時間を見計らってこっそりと、なるべく音を立てないように素早く入らなければいけない。

 あまりに長く入っていると、後からぐちぐちと文句を言われるし、音を立ててしまった時なんかは、その音なんかよりずっと大きな声で怒鳴り散らかされる。

 ああ、本当に嫌になる。

 それでも、家族というものを嫌いだと思わない。きっと、嫌いと思う程には関心がないんだろう。

 だから、逆に嫌われても、それは構わないと思えてしまうんだろう。

 私の心は死んでしまったのかもしれない。

 体より先に心が死んで、空っぽになって、そこに虚しさやら、悲しさやらが、その時々に溜まっていっているんだろう。

 虚しさで満たされてしまった時は、本当に何も考えられなくなる。ただ、ぼんやりとして、痛みも何もかも、分からなくなってしまう。

 悲しさで満たされてしまった時は、何が元々悲しかったのかも忘れて、ただただ涙が溢れてしまう。

 それでも、私は心に感情を溜めては置けないようで、それらもいつの間にか抜け落ちてしまう。

 そうして、私の心は空っぽになる。


 夜になると眠らないといけなくなる。

 けど、私は上手く眠れない。

 色んな方法を試した事がある。落ち着いた音楽を聞く事も、眠りやすくなるというハーブティーも、アロマも、ただただ何も考えずに横になる事も全て試した。

 けど、眠った感覚が得られず、朝を迎えてしまう。

 人間はあまりに眠らないと気が狂って死んでしまうらしい。

 未だ死んでいないところを見ると、ほんの僅かでも眠ってはいるんだろう。

 それでも、眠った感覚を得たい。

 今日は水飲み鳥が揺れ動き続ける様をぼんやりと眺める事にしよう。

 人はあまりに単調な動きを見続けるとつまらなく感じるそうで、つまらないと眠たくなる事があるらしい。

 私に効果があるのか分からないけれど、ただただ同じ動きを続ける水飲み鳥をベッドの上で眺め続けた。

 何か感じられる事もなく、いつの間にか空は白んできてしまった。

 どうやら、これも無駄だったようだ。

 ああ、憂鬱だ。今日も私は眠れなかった。

 それでも、そんな事は誰にも関係はない。

 私は今日も制服に身を包み、家から逃げるように学校へと向かった。


 学校では楽しそうな声が飛び交っている。きっとこういう人たちには、世界がキラキラと輝いて見えるのだろう。そして、人はそれを青春と呼ぶのだろう。

 それと全く対照的なのは私だろう。

 何一つ輝く事を知らない私の世界は、色をなくしてしまっているかのように鮮やかさの欠片すらない。

 ああ、何が楽しいのかさえ分からない。本当に私はどうしてここにいるのだろう……。

 色褪せた日常が当たり前のように過ぎていく。


 たまに、何をどうするべきか、どうしたらいいのか、そういった事が分からなくて、焦燥感に襲われる。

 その度に私は自分の部屋に籠っては、自分の顔に爪を立て、引っ搔くようにしながら顔を包み込む。

 自分の荒い息、どくどくと五月蠅いまでに鳴り響く鼓動、じわりと広がる痛み。

 それらに感覚を研ぎ澄ませていくと、そのうちどうでもよくなる。

 何もかもがどうでもよくなると、その身をベッドの上に投げる。

 ああ、これでも私は生きているのか。

 そんな事を思いながら、今日もそれをした。

 けど、どうしてだろう?

 なんとなく、胸の中に不安が満ち満ちていく。

 ここにいてはいけないような、そんな気持ちに駆り立てられる。

 誰も彼もが寝静まっている夜中。私は制服のまま、ふらりと家を出た。

 誰も私が夜道を歩いている事に気付かない。

 その事実に不思議な気持ちに包まれた。

 何故だろう、足が軽い。

 私の行く先なんて高が知れている。

 それでも、夜の学校に忍び込む度胸が自分にあるなんて思わなかった。

 もし見付かって、通報なんてされてしまったらどうしよう。

 そんな考えが過らないわけでもなかった。それでも、私の足は真っ直ぐと学校に向かった。

 学校は施錠されているが、抜け道というものがあって、簡単に敷地に入ることができる。そして、この学校は侵入者を見付けるようなセキュリティがないというのは噂で知っていた。

 噂は事実だったようで、簡単に敷地内に入れた。

 私はこの間見付けてしまった事がある。

 きっちり施錠された窓の鍵。けど、一か所だけ、鍵が緩んでいるのだ。

 私はその窓のところに行った。そして、その鍵をノックするように外から叩くと、私を招くように開いた。

 招かれたのなら、中に入るのは道理だろう。

 私は躊躇する事もなく、校舎の中に入り、昇降口に向かった。

 あまり土足で歩き回る事は褒められた事ではないだろう。そんなところだけ律儀な自分に少しだけ笑えた。

 靴を履き替えると、自分の教室へと向かった。

 そして、自分の席に着き、窓の外を眺めた。

 そこには見事なまでに大きな月が浮かんでいた。

 普通の人はそれに対して、何か感想を口にするのかもしれない。けど、私はただぼんやりとその月を眺め続けた。

 月の沈むのも見守り、朝日が徐々に昇る様子もただぼんやりと眺めた。

 次第に、生徒達が登校する時間となり、静かだった教室に活気のある挨拶で溢れ始めた。

 そんな中でも、私はいつもと同じで、何事もなかったかのようにそこにいた。

 それには少しだけ安堵した。

 ああ、今日も眠れなかった。今日はきっと家に帰れば怒鳴られるだろう。それを思うと憂鬱なはずなのに、どうしてだろう。今は安堵だけが胸にある。

 そんな私は静かに、少しだけ口角を上げた。

 今日の夜は眠れるだろうか?

 そんな事を思いながら、憂鬱な日常が幕を開けた。

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