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003[孤立部隊合流支援/Break the siege](前)/1

 災暦四三年八月八日夜。因幡重工領北方。

 ハーミットとその乗機、真迅改は輸送用大型ヘリによって運ばれている最中だった。腰部には相変わらず外付けの大型ブースタ、脚部には小型ミサイルが数基取り付けられている。そして、普段なら背中に一対のシールド一体型レーザーブレードを装備している所を、その片方――右背には代わりに大きな円形のレーダーを背負っている。

 そんな乗機のコックピットにて、ハーミットは予め聞かされていた作戦内容について、思い返す。


『依頼主は因幡重工。因幡重工領の北方にある離島――海樺島(かいかとう)において、因幡重工の前線基地が明華(ミンファ)企業群の部隊から襲撃に遭い、孤立しているとの事だ』

 ハーミットの中にある“男性”としての記憶において、日本をモデルとした国家“菊花皇国”を母体とする企業“因幡重工”。経営巧者、政治巧者というよりは、職人気質を存分に発揮している企業だった。そういった事もあってか、災暦という混沌とした世界の中において、敵に回している陣営が少ないというのが、この世の中におけるアドバンテージとも言えた。

 しかしながら、そんな因幡重工でも対立関係にある企業が一つ。それが、明華企業群だった。因幡重工、明華企業群はどちらとも主だった領地は接していないのだが、ただ一点。どちらからも一定の距離にある離島、海樺島――こちらの利権については清暦の頃から争い続け、災暦の一時期に限り因幡重工がその利権を手にしていた時があったものの、ここ数年では明華企業郡の勢いもあって戦況としてはより混沌を深めており、未だに解決していない。つまり、国家の頃からの因縁とも言える関係にあるのが全てと言える。

 互いに主権を主張し合う海樺島には、大災害時に隕石が落下しており多くの資源が眠っているという試算がなされている。清暦の終わりから災暦の始まりの頃に飛来した隕石の落下地点には新資源が眠っている。それが、災暦に於ける常識の一つであった。それもあって、その権利については両社共に譲れず今に至るという訳だった。

『輸送ヘリで因幡重工領空からSGを投下、大型ブースタで因幡重工の海樺島前線基地を包囲する明華企業群の部隊を強襲。包囲網に穴を開けて孤立した部隊と本隊の合流を支援する――というのが、因幡重工からの要請だ』

 この海樺島の領土を得る事は、島に眠る新資源の利権を得る事に等しい。互いに島の部隊に陣取り合戦をしているというのが現状であり、前線の位置は常に動き続けている。その中で近年勢いを増している明華企業群が攻勢を強めた結果、因幡重工は後退を余儀なくされ前線基地の移動が間に合わなくなり包囲されてしまった、という事のようだった。

 それを受けて因幡重工は孤立した戦力を支援する為に兵力を集めたようだが、大きな部隊というのは動きが遅いというのが常だ。かといって、小規模な動きの速い部隊を向かわせた場合、その部隊も孤立してしまう可能性がある。その為、時間はかかる事を承知で本隊を動かし、傭兵――ハーミットには、単騎で孤立した前線基地の支援をしろ――というのが、この依頼の本質だった。ハーミットにかかる負担の大きい依頼ではあるが、これまでの実績からこれ位はやってくれるはず、と依頼のハードルが上がっているせいというのがあった。

『敵戦力だが、事前に確認できている分では、戦闘車両及び戦闘ヘリが十数以上、明華企業群製SG“焔牙(イェンヤ)”二機に“焔鳥(イェンニー)”が四機。増援も十分に考えられる。因幡重工側の戦力も十分に利用しろ』

 明華企業群製SG“焔鳥”は明華企業群の主力量産型SGに該当する機体で、安価ながら強固な装甲とSGとしては平均的な機動性の両面を兼ね備えた機体と言えた。尤も、基本設計が五年以上も前の機体という事もあり、名機ではあっても脅威的な機体とは言い難い。しかしながら、“炎牙”は今年から実戦配備されたばかりの新型SGだった。既に戦場での目撃情報が数件あり、高性能らしいというのは、ハーミットの耳にも十分に入って来ていた。そして、特筆すべき事項として、“炎牙”にはある特徴がある事も。

「片方の背面装備はレーダー?」

『ああ、既に準備させている』

 炎牙はハーミットの真迅改同様、ステルス及びジャミングを標準装備としているSGであった。その為、無策で向かえば一方的にやられてしまうというのが明らかだった。真迅改自体も索敵能力は高い方であるが、何事にも不測の事態はつきもの。念には念を入れて、ハーミットは自機に追加でレーダーを装備させた方が良いと判断し、機体の準備をしているアルカナ機関側も同様の判断を下していた。


 そして、今に至るという訳だった。右背のレーダーは、ステルス及びジャミングへの対策という訳だった。これで武装が両手のアサルトライフルに、左背のシールド一体型レーザーブレードの三つに、脚部の外付けミサイル数基。これが今の真迅改の武装の全て。総火力という意味では不安は残るにせよ、相手に索敵能力を妨害する機体がある以上は索敵能力の向上を図ろうとするのは自然な事だった。

 意味もなく息を一つ吐きながら、ハーミットは思案する。今回の作戦について考えるというのは大前提だったが、海樺島という場所である事柄を思い出す。それは、彼女が“とある男性ゲーマー”だった頃の記憶。“ルート・ゼロ”のストーリーモード――特に因幡重工陣営において、この海樺島という戦場はあまりにも意味が大きい。

 因幡重工陣営におけるプレイヤーキャラは海樺島の基地に配属された後、前線基地へと異動する。同じ基地に所属する面々の様子だとかを色々描写した上で、序盤の最難関ミッションとして、前線基地からの撤退というものがあった。他陣営と比べても難しい局面を迎えるのが早く、因幡重工陣営はハードモードとも呼ばれていたのを、ふと彼女は思い出していた。

 最近のハーミットは、“ルート・ゼロ”本編への介入を完全に諦めていたのだが、本人の意志とは関係なくアルカナ機関の選択した依頼で本編に少しは関われるという事実を受けて、無意識に気分を高めていた。操縦桿を握る手の力が強くなっている事にも気づかない。

『ハーミット、作戦領域が近い。準備はいいか』

 そんな中輸送ヘリに同乗している通信士からの声が耳に届く。意識外の声に目を大きく見開いて驚きつつも、一瞬で平静を装って「問題ない」とだけハーミットは返す。気を抜いている暇はない。気持ちを切り替えろ、と左手で左頬を軽く叩く。

 そうやって気持ちを静めた後、ブースタ点火のボタンに指を合わせ、ペダルに足を合わせる。いつヘリから投下されても、即座にブースタを作動させて出発するための準備が整っていた。

『投下十秒前。……五、四、三、二、一、投下!』

「――ブースタ点火。これより作戦を開始する」

 ガコン、という音をたてながら輸送ヘリとSGを固定していたアームがSGを離す。そのタイミングで、ハーミットは外付けブースタと背部メインブースタを点火させて真迅改を因幡重工領北方の夜空へ飛ばしたのだった。


 同刻、海樺島。島中央近辺にある因幡重工の対明華企業群前線基地。

 隕石の落下地点に程よく近く、新資源の湧出も確認されている。いわば新資源を調査する拠点とも言い換える事ができた。災暦という紀年法になってすぐ、この海樺島の実験を握ったのは因幡重工だった。因幡重工は他にも新資源の湧出地点を確保しているが、それらを抑えるよりも前に確保していたのがこの地点であった。

 しかしながら、ここ近年は明華企業郡がその勢力を強めていた。清暦の終わりにかけての騒動もあって、明華企業郡は他の陣営と比べて出遅れていたのだが、その遅れを取り戻すかのように急成長を遂げていた。それもあって、この海樺島においても因幡重工は徐々にその戦線を後退させていく事となってしまっていた。

 今では他の資源も抑えている因幡重工ではあれど、この海樺島の資源を手放す事は明華企業郡により力をつけさせてしまう事になる。そうなると、地理的には極めて近い両社の位置関係もあって、より大規模な正面衝突が予想される。しかも、勢いに乗っている明華企業郡とである。今の勢いのまま本土にまで攻めて来られる訳にはいかないという状況にあった。

 状況は極めて厳しいの一言に尽きる。海樺島の南方には因幡重工の大きな拠点が用意されてはいるものの、島中央の前線基地の周囲は完全に明華企業群の軍勢に包囲されているのが、誰の目から見ても明らかだった。戦闘ヘリのローターの音が実際に聴こえるわけでもないのに、聴こえてくるように感じられる。レーダー、マップにもその様子は明らかに示されており、その様子を見た因幡重工製SG“雷閃”の後部座席で索敵担当をしている第二パイロット、田中三尉の焦った声が耳に届いていた。

『敵兵力更に増えています!』

 報告はありがたかったものの、そのような声を出されては焦りが周囲にも伝播してしまう。その事に、同じく因幡重工製SG――IS-S-39“震雷”に乗っている前線基地所属のSG部隊隊長――武内一尉はため息を一つ。そして、すぐさま叱責の声を飛ばす。

「田中三尉、なんだその声は! 報告に感情を乗せるんじゃない!」

 その言葉に、『申し訳ありません!』と怯えた声が返ってくる。ここまで怯えているとなると、何を言っても逆効果かもしれないと武内は内心では焦りながらも、それを声には出さないようにしながら別の部下に問いかける。

「今我々がやらなければならない事はなんだ! 言ってみろ鈴木三尉!」

『は! 敵の散発的な攻撃に耐え続け、隙を見て包囲網を突破し、本隊と合流する事であります!』

「その通りだ鈴木三尉! それまでは勝手に動くなよ! いいな!」

 焦って怯えている田中とは違い、まだ平静さを装えるだけの余裕がある鈴木の様子に武内は安堵の息をふぅ、と一つ吐いた。部下に対して強い言葉を発している武内だが、内心は田中と同様の焦りと怯えがあった。しかしながら、それを周囲に知られる訳にはいかなかった。

 この前線基地が包囲されてから既に数日。本格的な総攻撃を受けていないというだけで、散発的な攻撃が続けられている。本来、その程度の襲撃なら迎撃できるだけの戦力がこの前線基地にはある筈だった。しかしながら、同時に補給路を潰された事で状況は一変してしまった。地道に迎撃し続け、未だに前線基地は落とされずに済んでいるものの、補給や修理がままならないまま。武内や田中、鈴木の乗るSGは勿論、他のSGや戦闘車両、戦闘ヘリも消耗が激しい。装甲が剥がれた箇所に無理矢理金属板を外付けして誤魔化している機体や車両ばかりだ。

 本隊が近くに来ている――と、武内は前線基地の司令から聞かされてはいたが、だとしても状況は良くない。敵戦力に対抗できる大規模な部隊は移動が遅く、早く前線基地の方に来られる小規模な部隊では敵戦力に歯が立たない。それがわかっているだけに、耐え続けて待つというのはかなり厳しい、というのが武内の心の内だった。

 自身の乗機、震雷の性能は悪くない。田中三尉の乗る雷閃と比べてより純粋な戦闘兵器に仕上がっている他、後にロールアウトした因幡重工の最新鋭機、真迅及びその改修機と比べた場合、扱いやすいという特徴があった。真迅はとにかく最高速度や機動性に特化した面があり、その結果として正面からの撃ち合いという点においては不安があった。その点で言えば、振雷は真迅と比べると速度や機動性の面ではやや劣るものの、装甲は強固で被弾する場所、角度に注意すれば高威力な火砲でも多少は問題ないという強みがある。

 しかしながら、それは状態が良ければの話である。満足な補給や整備が行えない状態で幾度となく戦闘を繰り返し、既に各関節は悲鳴をあげていて、装甲も劣化している。携行している武器の残弾も乏しく、まともに戦闘ができる状態ではない。そのような状況で、楽観的に考えられるような幸せな脳を彼は持ち合わせてなどいなかった。

 そのような不安に武内が押しつぶされそうになっていると、マップ上にマーキングされている敵機の反応が一つ、また一つと消える代わりに新たに一つの機体反応が増えたのを確認した。

『隊長、基地南方より救援の傭兵のようです!』

 その機体反応の方にメインカメラを向けると、たった今大型のブースタを投棄しながら戦闘ヘリを蹴散らしながらこちらへ迫ってくる自社製SG、真迅改の姿が映っていた。その光景に目を丸くしていると前線基地の司令、渋谷一佐からの通信が入った。

『傭兵――ハーミットが来た。これより全戦力は前線基地を放棄して南方へ離脱。本隊と合流せよ。いいな』

 この通信は、前線基地に配属された全兵士が耳に入れた。長い間包囲されたまま孤立していたこの基地に、まともな防衛能力は残されていないし、物資も乏しい。このままでは、前線基地が陥落するのは時間の問題。そうであるならば、基地を放棄してでも本隊と合流するのが最善であるという考えのものだった。

 だがそれは同時に、この前線基地は失われる事を指している。その事実を感じ取り、武内つい疑問を口にする。

「――司令は、どうするのでありますか?」

『お前らしくないな武内一尉! 生意気だった頃のお前はどこ行った!』

 その言葉に、「い、いえ!」と声を漏らす。すると、一機のSGが起動して立ち上がり、基地の北方へ砲身を向けていた。それに呼応するかのように、数機の戦闘ヘリが上昇し、戦闘車両の数両がSGの横に並ぶ。

『何。運動不足でな。少し暴れようと思っただけだ』

 その言葉に、武内はそのSGには渋谷一佐が乗っているという事を察した。それに追従する戦力は、予め渋谷一佐が声をかけていた者達なのだろう、という事も。

 渋谷一佐の乗るSG、因幡重工製SG――IS-A30“三笠”。災暦三○年に実践投入された旧型SGで、今はこの前線基地に予備機という名目で放置されているものだった。当時は厚い装甲と重武装で大きな戦果を挙げた機体だったが、今では骨董品扱いの一機に過ぎない。この放置されていた予備機は、災暦三○年頃にSGパイロットとしてのピークを迎えていた渋谷一佐が当時搭乗していたかつての愛機そのものだった。“地を駆ける火薬庫”とも評される三笠で多くの敵機を撃破し、爆散させていった事で“戦場の花火師”等と言う二つ名持ち。それが渋谷一佐だった。

 今でこそだらしない体型で、如何にも後方に控える指揮官らしい風貌の渋谷だが、実際に戦場で大暴れしているのを当時新兵だった武内は見た事があった。二つ名に恥じない暴れっぷり、敵機が次々と打ち上げられる花火のように爆散してゆく。その様子に武内は見惚れて、渋谷に気を抜くなと叱責される事も少なくなかった。

 だが、幾ら当時は大暴れしていたと言っても、現行の機体との性能差が間違いなくある。この災暦の世では、つい最近の新技術が、ほんの僅かな期間に時代遅れと評される事も少なくなかった。例にもれず、当時最新鋭SGとして知れ渡った三笠は、災暦四○年の時点で因幡重工が保有しているものは、この前線基地に放置されていた渋谷の愛機を除けば一機もなかった。残りの三笠は、既に戦場で撃破されたか、独立傭兵に安価で横流しされたか。ともあれ、既に公にはその姿を消しているといって差し支えない、そんな機体だった。

 そのような機体に今更どうして――と武内は思う。その援護をするのが戦闘ヘリや戦闘車両のみというのも気になっていた。そもそも、渋谷と共に戦う戦力の中に武内がいないというのも、余計に武内の心を揺さぶった。

 しかし、既に機体に――それも、かつての愛機に搭乗している以上、その意思は固いというのも理解できていた。それに、武内の率いる部隊は少なくとも現役のSGや戦闘車両ばかりだ。本隊と合流して補給ができれば、また戦う事ができる。今のままでは、渋谷の支援はおろか、足手まといになってしまう。そこまで考えてから、武内は右の平手で自身の右頬をパシン、と叩く。そして、息を一つ吐いてから口を開く。

「……了解! 我に続け! 居残ると司令の邪魔になるぞ! いいな!」

 こうして、決死の撤退作戦の幕が上がった。


 腰部の外付けブースタを投棄しながら、戦闘車両や戦闘ヘリを脚部の外付けミサイルで蹴散らしたハーミットは、真迅改の姿勢制御ブースタを吹かしてクルリと一八○度ターンをしながら着地をする。着地直前から下方向にブースタを吹かし、落下速度を軽減する事で脚部関節への負担を軽減する、という小技も手癖のように行っていた。

『こちら因幡重工北方前線基地司令の渋谷一佐だ。お前がハーミットだな?』

 いきなり耳に届いた通信の声に、「はい」と彼女は返す。すると、『子供? ……いや、確かアルカナ機関出身とだったか。“そういう事”か』と何かに納得したような声が耳に届く。前線基地司令、佐官という立場ともなれば、アルカナ機関について多少の情報を知っていてもおかしくはなかった。

『安心してくれ。これから死ぬ予定がある。――それで文句ないだろ、アルカナの』

 アルカナ機関を秘密を知ってはならない、というのは災暦の世に於ける暗黙の了解というものだった。それに従ってなのか、渋谷一佐は『生きて話すつもりはない』という事を明言していた。

 前線で戦う兵士たちは何気なく使っているが、あらゆる兵器のブラックボックスには必ずと言っていいほどアルカナ機関が関わっている。各企業が最新技術を開発しようとも、その更に一歩先に常にいるのがアルカナ機関だった。そのような力があればあらゆる陣営から狙われるのが自然だというのに、そのような気配は一切ない。企業の上層部にとって、アルカナ機関が如何に不気味な存在であるかというのは周知の事実だった。

 そうであっても、アルカナ機関には頼らざるを得ない。それくらい、既に各企業が用いる技術の中に、アルカナ機関で生み出されたものが混じっている。今更、各企業はアルカナ機関抜きに戦い抜く事はできない。だからこそ、アルカナ機関の闇、暗部に対しては誰もが手を出さない。

「今は前線基地の戦力と海樺島南部の本隊との合流が第一です」

『それもそうだな!』

 愉快そうに、「一本とられた!」との声も漏らしながらガハハと笑う渋谷一佐。その様子を見て、ハーミットは僅かに狂気を覚える。大きな笑い声。それはまるで、自身の精神を高ぶらせる為の薬のように感じられた。

 そのようなやり取りの後ろ――ハーミットの背後には、前線基地に取り残されていた全戦力――戦闘車両や戦闘ヘリ、SGが次々と起動していく。そして、起動した機体達は続々とハーミットがこれまで通って来た道――南方から本隊と合流すべく動き始めた。

「ご武運を」

『そっちこそ、こっちのバカ野郎どもの防衛を頼むぞ。アルカナの』

 渋谷一佐のその通信と共に、前線基地の全戦力が南方へと歩を進める。戦闘ヘリが、戦闘車両が、SGが――つまり、全てがこの前線基地からの撤退すべく動き始めていた。それを見てからか、渋谷一佐が因幡重工製SG三笠の全火器のトリガーを引いた。両手に保持されている二九式三○ミリ|SG腕部携行用回転式多銃身型機関銃ガトリングガンから一瞬にして弾丸のシャワーが形成されて、基地北方に展開していた明華企業群の戦闘ヘリを数機がそれを浴びて爆散する。同時に両背に積まれていた二八式一二○ミリ試験型|SG背部携行用電磁投射砲レールガンは、超高速の弾頭を戦闘車両に叩き込んで貫通してゆく。そして、次なる獲物に叩き込む為の再装填が行われる。

 ド派手に基地北方で暴れるSG三笠と、脱出準備を始めている部隊を背に、前方に展開している明華企業群の軍勢へと肉薄する。そこには、退却中の部隊を仕留めようと迫る戦闘ヘリや、戦闘車両の群れ。先程の外付けのブースタによる接近、脚部外付けミサイルによる明華企業群のSGや戦闘ヘリを撃墜していた。背後で退却中の部隊は、既に消耗していて反撃能力に乏しい。ハーミットの支援なしに彼らが無事退却できるようには到底見えなかった。

 メインブースタを吹かして地を這うように飛び、明華企業群の戦闘車両に肉薄しながら両手のライフルを連射する。清暦以前の戦場において、陸の王者といえば戦闘車両であった。厚い装甲に覆われ、上空からの爆撃や地雷など上下からの攻撃は兎も角、正面から撃破するのは至難だった。――だが、災暦四三年の今、陸の王者はSGである。正面装甲よりはやや薄い側面からの攻撃、それを幾度となく同じ個所に叩きつけられる事で、最終的には貫くに至る。燃料タンクや砲弾などに引火して、戦闘車両が爆発四散する。

 その様子を見届ける事無く、ハーミットは次の敵機へと意識を移す。右手のライフルで戦闘ヘリを手早く撃ち落としながら、左手は背中に背負っていたシールドに持ち替え、レーザー刃を展開して戦闘車両へと肉薄する。戦闘車両の上部砲塔がぐるりと回り、ハーミットの駆る真迅改を返り討ちにしようと砲弾を放つ。だが、その瞬間に真迅改は地面を蹴ってメインブースタの推進力を上方に変更する。進行方向が変わった事で砲弾は空を切り、ハーミットはそれを確認しないまま前方――戦闘車両の方へと真迅改を向ける。戦闘車両上方からの急速接近。砲塔の照準は間に合わない。

 左腕を水平に一振り。切断面がレーザー刃によって熱され、赤く染まる。見届ける事無く、真迅改は先を進む。背後で先頭車両が爆散するのをマップ上でのみ確認したハーミットは、一機のSGをメインカメラに捉える。明華企業群製SG焔牙。間違いなく、明華企業群の最新鋭機体。乗り手は恐らくエースなのだろう、とハーミットは推測する。

次話、003[孤立部隊合流支援/Break the siege](前)/2

2025/01/29 21:00頃投稿予定



2025/02/20 18:18 一部誤字修正

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