池ポチャ神降臨―超短編―
「あなたが落としたのはこの金の斧ですか。それとも銀の斧ですか。」
「いや、どっちも俺が落としたんだけど。」
「強欲なあなたに返すものはありません。では」
「いや、なにすんだよ。それ俺のだって…!」
女神は俺が斧を落とした池の中に潜っていく。
「は?おい!なに持ってきやがってんだよ!その斧俺のだって!」
そのまま女神は沈んで行ってしまった。
「いや、ないって!20年だよ、20年。それだけかけてやっと手に入れた金の斧と銀の斧なのに、こんな訳の分からん池に住む女に持ってかれないといけないの。拾得物横領じゃねえか。うわ、最近流行ってるし、この池の水全部抜いてもらうか。許せんわ。」
「ちょっと待ちなさい。」
勢いよく女神が水面から顔を出す。
「そのようなことをしてはなりません。あなたの末代まで呪われてしまいますよ。」
「あなたは俺が落とした斧をパクったわけですよね。なんで俺の末代まで呪われなきゃいけないんだよ。」
「本当にあなたがこの二つの斧を落としたんですか。」
「そうだっつってんだろ。…なに笑ってやがる。」
「いや、20年?でしたっけ。それだけかけて使い道なさそうな斧2本って、変り者なんですね。もしかして末代まで呪う必要はないですかね。」
「てめぇ!いいだろ別に、斧が好きなんだよ。人の趣味に口出すな!」
「友達とかいらっしゃいます?」
「…友達はどこからどこまでを指すんだ?」
「質問を質問を返すのは馬鹿だって習わなかったんですか~。人と話さないとそんなことも知らないんですね!」
「うるせぇ…。いいから返せよ、斧。」
「んー、本当に金銀の斧が落とされた場合のマニュアルはないんですよね。どうすればいいんでしょ」
「それは、うちの村では伝統のある斧なんだ。数十年に一度、腕を認められた者のみが授けられる斧だから、返してはくれないか。」
「ふむ、そういわれてしますと返したくなってしまいますが…。一つ質問させていただいてもいいですか。」
「なに。」
「なぜ、そのような大切な斧を池ポチャさせてしまったのでしょう。もっと丁重に扱うものだと思うのですが。」
「それは、この池の周りに微妙に大きな岩が並んでるからこけたんだよ。」
「村の教徒たちが並べてくれたものですね。結界に引っかかるということは、あなたは不潔なものということです。やはり…ン?」
突如、池の向こう側から、巨大な竜が現れた。
ぐあああああああああああああああ
ぎゃああああああああああああああ
「結界が壊れたから…」
恐怖する女神と目を合わせる。
「斧貸して。」
「でも、あなた」
「いいから、あれを倒す。」
俺は女神の手から斧を奪い取り、竜に向かった。
竜のブレスをジャンプで回避し、距離を詰める。薙ぎ払われる尻尾を二つの斧で受け流し、体を逸らして爪の攻撃を回避。噛みつきをバックステップすると、両斧を首元に振り落とした。
突如首元から噴き出した血しぶきが黄金に煌めく。
「その斧はもしかして」
「そうだ、古より伝わる竜を封印するために鍛えられた斧がこの二振りだ。」
竜は煌めきに包まれたまま収縮し、池の中へ沈んでいった。
「で、こんな大切な斧を貴様は返してくれなかったわけだが?」
「あなたが、こけて結界を破壊したせいですけど?」
睨みつけると女神が一言こぼす。
「まあ、あなたが末代になるという言葉は撤回してあげないこともないです。」