悪役令嬢に転生したと思ったけどそうでもなかった話
悪役令嬢とやらに転生してしまった。
侯爵家の一人娘として産まれ、父に先立たれたが、母が何とか侯爵代行として立ち、私の成人をもって女侯爵になる予定である。
婚約者には第三王子。
王子の婿入りを機に次代より公爵家(我が国に於いては王家の血を入れた、侯爵以上の貴族にのみ許される爵位である。王家の血が入ってから3代までが公爵でその後は侯爵に戻る事となる。貴族年金は侯爵の三割増し)となる。
……公爵になる、というのは喜ばしいのだが、問題は、もしかして多分、この世界が乙女ゲームもしくは悪役令嬢ざまあ小説の世界である可能性が高いのではないかなーという事だ。
参勤交代的な、もしくは洗脳教育的な理由により貴族令息及び令嬢は成人前の三年間貴族学校に通う事になっている。
ヒロインとやらは天真爛漫な男爵令嬢か、市井から引き取られた割にはおとなしい子爵令嬢のどちらかであろう。
攻略対象は、まず我が婚約者殿。
第三王子で、可もなく不可もなく一見穏やかだがお約束を考えるに優秀な兄二人に鬱屈を抱えている可能性があるのではないだろうか。
私は跡取り教育も終えている事だし、伴侶に優秀さを求めていないので思い詰めないでほしいものである。
婚約者ではあるものの、会話をしていると一定の線引きをされているようで、婚約者の義理以上に仲良くはなれていない。
宰相子息。
交流がないのでよくわからない。眼鏡。次男。
娘しかいない子爵家に入婿予定。
騎士団団長子息。
同じく交流がないが、声がでかいので脳筋だということは聞こえる内容から判断できる。五男。騎士になりたいらしい。婚約者なし。
伯爵令息。
従兄弟殿。チャラ男。
伯爵も伯爵夫人も愛人がいる事は社交界では有名な話で、両親の華やかな容貌を受け継いだ美男子ではあるのだが、両親を反面教師として真実の愛を求めているとか言っちゃう夢見がちボーイ。あちこちの令嬢と交流している。婚約者なし。
その他多分ヤンデレ枠とショタ枠があるのだろうなと予想しているが、現役貴族と跡取り予定子息以外は大した交流がないのでよく分からん。
ある日、図書館の書棚の陰、従兄弟殿が男爵令嬢とキスしている所に行き合った。
男爵令嬢は私に見られた事で恥ずかしがって逃げて行った。
ちょっと次期伯爵夫人としては家格もマナー面でも難しい相手ではないかね?
あんまり関わりたくはないのだがね、放置して問題になるともっと手がかかりそうだし、今のうちにつついてみるか。
「アレが貴方の真実の愛?」
「そうだね……そうであれば良いと思っているよ」
「…………そう。貴方の真実の愛は相手依存で決まるものなのだな」
「相手、依存?」
つん、と従兄弟殿の胸を人差し指で指し示す。
「相思相愛でなければ真実の愛ではないと思っているのだろう?だから『そうであれば良い』なんて言葉が出てくる。……例え相手が他の男を愛していたとしても、貴方の胸に燃える愛があるのならばそれは真実の愛と呼んでも良いのではないのか?」
「お、俺は」
「愛が返って来なければ不安で本気になれない?本気になれない時点で真実の愛とは呼べないのではないか?」
「…………だったら、きみはどうなんだ」
「他者に喧伝するような事でもないがね」
従兄弟殿にのみ聞こえるように一歩だけ近寄って囁く。
「私は我が侯爵領を愛しているよ」
「そっ…………その、答えは、趣旨が……ずれるだろう……?」
「貴族家の跡取りにとって一番大事な愛だと思うけれどね」
恋愛にばかり気を取られていないでよくよく考えるといい。
「伯爵令息と仲が良いんだね」
婚約者殿とのお茶会で突然の一言。
「従兄弟ですので」
にこりと笑って端的に返す。
何が言いたいのだか。
浮気を疑ったり疑われたりする程の親密さを許してくれる訳でもないくせに。
「彼とはどんな話をするんだい?」
この話題のまま続ける気なのか。
「前回は侯爵領を治める私の心構えの話をしましたわ」
「ふぅん」
何なんだそのふぅんって!
その後はお茶とお茶菓子の話、近隣の領の新しい産業の話、次の社交会の衣装の話をした。
侯爵令嬢
小鳥のような小柄で可憐な見た目の女傑。
父の死後飴玉に集る蟻のように寄ってくる金に困っている親戚と呼びたくない親戚を母と共にちぎっては投げちぎっては投げした。母も年齢不明な可憐さを持つ女傑。
伯爵家は金に困ってないので普通に付き合いがある。
第三王子の事は好きだし好かれたいけど、好かれるとは思ってないしどうせ婚約破棄されるんでしょと思っているので侯爵領をきちんと治められるなら他はいいやって諦めてる部分がある。
卒業パーティーでもどうせ婚約破棄……と思っていたけど普通にエスコートされ普通に卒業してスムーズに結婚まで進んで鳩が豆鉄砲食らったような表情で初夜を迎えた。
第三王子
婚約者が可愛くて可愛くて喋る時めちゃくちゃ緊張するし図書館で伯爵令息と仲良さそうに話してたとか聞こえてきてハァ!?僕の婚約者だけど!??ってなったけど直接聞いてみたら心配ないよ♡って言ってもらえたし(言ってない)でも他の男には気をつけて欲しいしもっと頻繁にお茶会したいけど会うと緊張するし(以下略)
侯爵家に婿入りする予定なので王族としての側近は従えていないが侯爵家の役に立ちそうな人材はそれなりに声をかけている。
優秀な兄達との鬱屈なんてなかったし、兄達がいるから何の心配もなく好きな子のお婿さんになれる!サンキューアッニ!
勉強よりも実務に向いてる人。つまりお似合い。
伯爵令息
侯爵令嬢は見た目は可憐だけど怖いし、親戚だから恋愛相手には考えてないけど「(侯爵領を)愛している」って言われてドキッとした。
ドキッとした流れでちょっと男爵令嬢への気持ちが冷めたので跡取りとして少し真面目に考えるようになった。
なんだかんだで伯爵領の産業と相性が良い産業を持つ領のお家の地味めの令嬢と結婚して、それなりに幸せになって、オッサンになって学生時代を思い返して「ああ、俺の奥さんが真実の愛だったんだな」って実感すると思う。
両親のアレコレを諦めてからが人生の本番。
宰相子息
ちょっと男爵令嬢に憧れを抱くも手すら握らないまま婚約者の家に婿入りして嫁の尻に敷かれる。
騎士団団長子息
騎士にはなれた。
おとなしい子爵令嬢
爵位は持ってないが王城務めの文官と結婚した。
天真爛漫な男爵令嬢
数多くの子息をふらつかせた(恋愛的な意味で)が、デビュタントで会った二回り年上の男性に一目惚れして後妻になった。
年上の息子ができました。