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最終話 《見えなくても》

 蝉が合唱をしている炎天下、今日も私は裕也と一緒に魂を探して街を歩いていた。

 ここ最近は色々な依頼もあり忙しい日々が続いていたからこういう何もない日がありがたい。

 私は歩きながら先日見た黒いロングコートの男性を思い出し裕也に話した。

 

「そういえばこの前病院で変な魂を見たんだよね」

「変ってどういうことだ?」

「暑いのに冬の格好している人だったんだよ」

「魂は暑さも寒さも感じないし亡くなった時の格好や自分がよく着ていた服で現れるからな」

「そうなんだね。でも今どきロングコートなんて着ている人がいるんだね。昔の洋画に出て来そうな感じだったよ」

「ロングコートの男性……」


 私がロングコートの男性というワードを言った瞬間に裕也は足を止めた。

 心当たりがあるのか少し手が震えているように見えた。


「どうしたの? 何か心当たりでも……」

「ん? いや、なんでもないよ。ちょっと昔の事を思い出しただけだ。暑いし魂願所に戻ろうか」

「うん……?」


 裕也は過去にロングコートの男性を見たのかも知れない。

 それにしてもなんだか反応がおかしかった。

 魂願所に戻りここ最近あった事件や事故の記事を整理してその日は終わった。

 翌日、私は学校帰りにこの前の病院へ向かった。

 あの黒いロングコートの男性が気になっていた。


「(あのロングコートの男性に何かあるのかな?)」


 病院の中庭や屋上通路などを探してみたがそれらしきものは見当たらなかった。

 やっぱりあの時、成仏したのかと思い私は病院を出て家に向かった。

 暗く、人気(ひとけ)のない道を歩いていると正面から誰かが歩いてくる。

 外灯に照らされ確信した。それはあの時見た黒いロングコートの男性だった。


「(あれは……影もないしやっぱり……)」


 私はその黒いロングコートの男性に近付こうとした。

 するとどこからかやって来た裕也が私の腕を掴んでロングコートの男性とは逆の方向に走った。


「ちょっ! 裕也!? どうしてここに?」

「たまたま近くに魂が見えたから成仏させていたんだ。そしたらアイツが見えたから」

「アイツって?」

「詳しい話しは後だ。取り敢えず逃げるぞ」


 私と裕也は無我夢中で走り魂願所へ向かった。

 何やら様子がおかしい。

 私の手を掴んでいる裕也の手が震えているのが分かる。

 あのロングコートの男性は一体……

 魂願所に着き、ヘトヘトになった私たちはソファに腰かけた。


「ここなら大丈夫だろ」

「一体何なの?」

「やっぱり由紀が見たのはアイツだったか」

「どういうこと?」

「落ち着いて聞いてくれ。アイツは人間でも魂でもない」

「それじゃぁ……」

「分かりやすく言えば“死神”だ」

「死神……? それが何で今現れるようになったの?」

「今更ってわけじゃないんだけど。なんで由紀は魂が見えるようになったか分かるか?」

「そういえば昔はそんなこと無かった気がする。魂が見えるのと関係があるの?」

「魂というのはこの世とあの世を間にあるんだよ。それが見えるってことは死期が近いってことだ。そしてそれを終わらせるのがあの死神。アイツに掴まったら俺たちはそのままあの世ってことだな」

「見える人は死期が近いって言うけど死神に捕まらなければ大丈夫なの? それとも……」

「捕まらなければ大丈夫……と言いたいが俺も詳しくは分からないんだ。今日はもう遅いから車で送るよ」

「ありがとう」


 私は裕也の車で家まで帰った。

 裕也も過去に死神について色々調べていて、いくつか分かったことがあった。

 死神は昼夜問わず現れるが家の中までは入っては来なく、そこら辺を徘徊しているだけ。

 そして主に成仏した魂の近くに現れるらしい。

 まだ分からないことがあるため取り敢えず気を付けることしかできない。

 その日から私はなるべく裕也と共に行動をするようにした。

 今日も裕也と共に仕事をしていると遠くに死神が見えた。


「裕也、向こうに居るのって死神だよね?」

「そうみたいだな。まだこっちに気づいて無いみたいだから早めに行くか」

「だね」


 私たちは荷物を片付け死神から反対方向へ歩いて行った。

 先にある路地を曲がると突然目の前に死神が現れた。


「えっ!?」

「何でここに居るんだよ!? 早く逃げ―――」


 私たちは振り返り逃げようとしたが死神から出た黒い靄に飲み込まれてしまった。

 あっという間に周りは真っ暗になり宙に浮いたかのように私の身体は地面から離れているようだった。

 どうやら私は死神に掴まって死んでしまったらしい。

 

「あっという間の人生だったなぁ……もっといろんな事したかった……」


 脳裏に今まであった色々な思い出などが過った。

 これが走馬灯ってやつなのだろうか? 涙が溢れてくる。

 無の空間を漂っていると誰かが話しかけてくるような感じがした。


「誰?」


 その声は直接脳に語り掛けてくるような感じだった。

 謎の声をよく聞くと聞いたことある声だった。


「裕也なの? ねぇ! どこかに居るの?」


 私は真っ暗な空間を見渡すと遠くに何かが見える。

 そこへ向かうと大きな扉があった。

 

「この扉の向こうから声が聞こえる気がする」


 巨大な扉を開けるとその先は真っ白な空間が広がっていた。

 そして気が付くと私は病院のベッドの上で寝ていた。


「ここは……」

「よう、目が覚めたか」

「っ!?」


 起き上がるとベッド横の椅子に裕也が座っていた。


「裕也無事だったんだね」

「それはこっちの台詞だ。お前1週間以上寝たきりだったんだぞ?」

「1週間も? って死神は!?」

「アイツならもう見えない」

「見えない?」


 私が寝ている1週間の出来事を裕也から聞いた。

 死神の黒い靄によって裕也は魂が見えなくなってしまったらしい。

 もちろん私も魂が見えなくなっていた。

 どうやら死神は私たちの死期を持っていく存在だったらしい。


「魂が見えないなら今後はどうするの? 魂願所は……」

「それなら大丈夫。一応普通の探偵業もやっていたからな」


 魂が見えなくなった裕也は探偵事務所として魂願所を続けることにした。

 魂関係以外の依頼なども受けていたらしく何とか続けることが出来るらしい。

 無事退院した私はというと裕也の助手をすることにした。

 やっぱりこの仕事が好きだ。

 今日も私は魂願所で依頼書をまとめていると扉をノックする音が聞こえたので扉を開けた。


「いらっしゃいませ。魂願所へようこそ」


読んでいただきありがとうございます。


今回で最終話です!



新作情報等はツイッターにてお知らせしています


Twitter


@huzizakura

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