2話 《夕日と初めての依頼》
無事アルバイト先を見つけた私は2年生になった初日の午後、さっそく魂願所へ向かった。
今日から初めてのアルバイト。なんだか緊張する。
私は入り口前で大きく深呼吸した後、勢いよく魂願所の扉を開けた。
「おはようございます!」
中に入ると裕也は奥にあるデスクの上に資料を広げながらパソコンで作業をしていた。
デスク上には山積みになったファイルが今にも崩れそうなくらい積み重ねてある。
「おはよう。今日からよろしく」
「はいっ、よろしくお願いします」
「敬語とかは使わなくて良いよ。昨日みたいに接してくれた方が俺も楽だし」
「そ、そう? それじゃお言葉に甘えて。何か手伝うことある?」
「ちょっと調べものしているだけだから大丈夫だよ。ソファで座って待っていて」
「うん。分かった」
私は裕也が調べものをしている間ソファに座り待つことに。
ソファの前のテーブルには新聞の切り抜きなどをまとめた資料が散らかっている。
手に取って見て見るとどれも事件や事故の物だった。
その切り抜きを見ていると調べのが終わった裕也が私の所へやって来た。
「おまたせ。さて、さっそく仕事を手伝ってもらうよ」
「わかった。それでお仕事の内容って?」
「まずはこれを見て」
裕也はファイルに入っていた新聞を取り出し見せてきた。
新聞には赤丸で囲われた記事がある。
内容は山で行方不明になった男性が翌日、崖下で遺体となって発見されたというものだった。
「このニュース私も見たことある。確かここからそう遠くはないよね?」
「バスで行けるところだから今から行くよ」
「今から!? でもなんで急に……」
「死者の魂がこの世にいる時間が49日なんだ。そして今日が49日目だから今日中に魂のあるところへ行かないとなんだよ」
「そうなんだね。それじゃ暗くなる前に行こう」
私と裕也はバスに乗り目的地の山の近くまで向かった。
バスの車内で私は裕也に今回の依頼について問いかけた。
「そういえば依頼って誰から来るの? もしかして魂が依頼してくるとか?」
「直接来るときはあるけど今回の依頼者はその男性の家族からなんだ」
「家族から? そういえば依頼内容聞いてないけど」
「その家族から男性の遺品が見つかってなくてもしかしたら現場にあるかもしれないから見てきて欲しいって。今日中なら多分魂はそこにまだあるから分かるかもしれない」
どうやら警察もその遺品を見つけることが出来ず魂願所の噂を聞いた家族が依頼してきたらしい。
私たちは目的地近くのバス停で降り、歩くこと数十分ようやく現場が見えてきた。
まだ日は出ているが森の中は薄っすら暗かった。
「なんか不気味な場所だね……」
「確かこの辺りのはずなんだよな」
裕也はスマホでナビを見ながら進んでいると森を抜け開けた崖の近くに出た。
私もその後ろを付いて行くと事故現場だろう場所に一人の男性が立っていた。
「裕也、あそこに人が居るよ?」
「あの人で間違いないみたいだ」
男性の足元には影が無い。つまりあの人が事故で亡くなった男性の魂らしい。
私たちが近づくと男性はこちらに気が付いた。
裕也は何事もないかのように普通にその魂に話しかけた。
「こんにちは、あなたは村田さんですか?」
「おや? 君たちは私が見えるのかね?」
「はい、あなたの家族の依頼で来ました」
「私の家族ですか……。それで依頼とは?」
「あなたが生前大切にしていたカメラが見つかっていないと連絡がありまして」
「カメラですか。隠していたのでたぶん警察も見つけられていないでしょう。必死に探していたみたいなので」
「その場所を教えてもらえますか?」
「近くの茂みにある洞穴に荷物と一緒にありますよ」
男性は草木で覆われた崖を指さした。
そこは日が当たって居なく薄暗い場所だった。
「由紀、あの中茂みの中にあるみたいだから見てきてもらっていいか?」
「分かった。ちょっと見てくる」
私は裕也に言われ草木の奥へ行ってみるとそこには小さな洞穴があった。
薄暗い洞穴をライトで照らしてみるとそこにはリュックとケースに入ったカメラが置いてあった。
「(あった。きっとこれだよね)」
私はリュックとカメラを持って二人が待つところへ向かった。
男性はそのリュックとカメラを見るなり嬉しそうにほほ笑んだ。
「これです。ありがとうございます。なんせこの身体になってから物に触れられないので。そのカメラの中ある写真を妻に見せてあげてください」
「分かりました。必ず奥さんに見せます。安心してください」
「よろしくお願いします……」
「はいっ」
男性は深く頭を下げ私たちも頭を下げた。
そして顔を上げると男性の姿が無くなっていた。
「あれ? 男性は?」
「もう行ったよ」
「そう……なんだね」
初めて会った人だけどこうして実際に見ると胸が痛む。
夕日に照らされた山を私たちは下った。
私たちはリュックとカメラを持って依頼者の家へ向かった。
インターホンを鳴らすと一人の女性が出て来た。
この女性が今回の依頼者であり男性の奥さんらしい。
「こんばんは。魂願所の者ですが」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
「失礼します」
「お、お邪魔します」
客間に通された後、私は奥さんにカメラとリュックを渡した。
「あの、旦那さんから渡された物です」
「確かにこれは夫のカメラとリュックですね。見つけてくださってありがとうございます」
「それと旦那さんからの伝言で撮影した写真を見て欲しいそうです」
「写真をですか?」
奥さんはカメラからメモリーカードを取り出しパソコンに挿した。
フォルダを開くとその山で撮影した写真がいくつも出て来た。
花、川、木々を撮った写真が色々表示される中ある写真が表示されると奥さんの目からは涙が零れた。
その写真にはとても綺麗な夕焼け空が写っていた。
私は気になり奥さんに問いかけた。
「夕焼け空ですか?」
「はい。私、夕焼けがとても好きなんです。そしてこの場所は夫が私にプロポーズをしてくれた場所なんです……お二人とも本当にありがとうございました」
奥さんは私たちに深くお辞儀をした。
きっと旦那さんはこの景色を見せたかったみたい。
気が付くと私の目から涙が頬を伝って垂れていた。
この時ようやくこの仕事の本当の意味、必要性が分かった。
読んでいただきありがとうございます。
初めてのジャンルなので少々書くのに時間がかかりました;
次回もよろしくお願いします
@huzizakura