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最終話  「別れと始まり」

 あの日から、約1年が経過した。


 裕香の手術費を稼いだ俺たち3人は、病院で手術が終わるのを待っていた。


 「なあ、鈴木」


 「ん?」


 「俺たち、頑張ったよな……?」


 「……ああ」


 「頑張った奴ってのは、ちゃんと報われるよな……?」


 「…………」


 「手術が終わりました」


 「……!?」


 手術室から、手術を終えた医者が出てきた。


 「……あの、結果は?」


 「手術の結果は……」


 俺たちはこの一年間、3人とも各々自分にしか出来ない事を精一杯やってきた。


 もしこれで失敗したら、「こうする以外にどうするのが正解だったんだ?」と神様にでも問いただしたいぐらいには精一杯頑張った。


 大丈夫。必ず手術は成功する。大丈夫、大丈夫、大丈――


 「無事、手術は成功です。娘さんは元の状態に戻りました」


 「……ぇ……」


 正直、俺はほぼ失敗すると思っていた。なにせ、ここ最近は失敗ばかりしてきたから。まさか、まさか成功なんて……


 「本当に、成功したんですか……?」


 「はい。中で元通りになった娘さんが待っていらっしゃるので、どうぞ入って下さい」


 そう言われて俺たち3人は、手術室の中へと入った。


 「…………」


 ――そこには、ぱっちりと目を開けて、ベッドの上に座っている裕香の姿があった。


 「……ぱぱ……?」


 「……ぁ……ぁ……」


 その光景を目にして俺は我慢出来ず、無意識の内に裕香の元へと走って、裕香を抱きしめていた。


 「ごめん……今までずっと、ダメなパパで。本当にごめん……」


 俺は、子供のように泣きじゃくりながら、必死に謝罪した。


 「……?何で、謝ってるの?」


 この一年間、ずっと謝りたかった。俺のせいで裕香をこんな目に遭わせてしまったことを。自分勝手な都合で、裕香のことを忘れようとしてたことを。


 「でも、これからは裕香の為に頑張るから。絶対、絶対裕香のこと、幸せにするから。だから……」


 「…………」


 「お願いだから、ずっと……パパのそばから離れないでくれ……」


 「……うん、わかった」


 「……ああ、よかった……本当に、よかった……」


 鈴木と奈留の二人は、中年の男が娘に抱きつきながら大泣きしている光景を、温かい目で見守ってくれていた。



 それから少し時が立ち、裕香を含んだ俺たち4人は、裕香の退院祝いとしてピクニックに行き、楽しい時間を過ごした。


 ――これは、その帰り道


 「なあ鈴木、お前……これから仕事どうすんだ?」


 「……ああ~、まだちょっと悩んでんだよなー」


 「悩んでるって……仕事を続けるか、ニートに戻るかを?」


 「まあ、別にニートに戻りたいわけじゃねえけど、今まで俺が仕事を頑張ってこれたのは優香ちゃんを助けるっていう目標があったからで」


 「それがなくなった今、正直俺が仕事を頑張れるとは思えないんだよな」


 「……頑張れるだろ、お前なら。なんせ他人の娘を助けるために頑張れたんだから。今度は親のために頑張ればいいだけだろ。後者の方がよっぽど簡単だと思うけど」


 「……ああ」


 「それに、お前が辛いときは俺が助ける。優香を助けてもらったからには、どんな時でも俺はお前の味方であることを約束するよ」


 「高井……」


 「俺だけじゃない。優香も、お前には本当に感謝してるみたいだぞ」


 「うん!優香も鈴木さんのお手伝いする!」


 「私も……鈴木さんのこと、嫌いじゃないから」


 「裕香ちゃんに、奈留ちゃんも……まさか、この俺が幼女に泣かされそうになるとは……」


 「それじゃ、またいつか4人でどこかに行こうぜ。今度は、鈴木の仕事頑張り祝いとして」


 「……ハ、なんじゃそりゃ……まあでも、それも悪くないな……」


 俺たちは4人で、吞気にこれからのことについて話し合っていた。


 「……俺がいない間、随分と楽しそうにしてんじゃァねえか」


 「……え?」


 突然、見知らぬ声……いや、どこかで聞いたことのある声が聞こえた。


 「久しぶりだなーーー、高井くぅぅぅん!!」


 「お前……は……」


 俺が涼と付き合う前、涼と付き合っていた涼の元カレであり……


 「涼を殺した殺人犯の、木原君でーーす!いやーーまた会えて嬉しいよー。高井くぅぅぅん!」


 「なんで、ここに……お前は、捕まったはず……」


 「あ?ニュース見てねえの?一年前っくらいに脱走したんだよ。それでずっとお前を探してたってわけ」


 「……そんな……」


 「ダメだよーー、高井くぅぅん。ちゃんとニュースは見ないとーー」


 「……高井、あいつは誰だ?さっきまでの会話で、悪い奴だってことはわかるんだが……」


 「…………」


 鈴木も珍しく困惑していた。困惑している俺たちを見て、裕香と奈留も少し震えていた。


 「……今度は、何をするつもりだ……?」


 「決まってるだろ。俺は、お前の大切なものを奪いにきてやったんだよ」


 「……!?どうして、そんなことを……」


 「は?そんなの……お前が俺から涼を奪ったからに決まってんだろぉぉぉ!?」


 「……お前は、涼に振られたことを全部俺のせいにして、俺に八つ当たりしてるだけだろ」


 「そうだよ?お前さえ……お前さえいなければ、涼は俺のものだったんだ。絶対に……絶対に許さない」


 「……また犯罪行為をしたら、今度こそおまえは死刑になるぞ。それでもいいのか?」


 「全然OK。なんせ今の俺は、お前を絶望させるためだけに生きてるんだからなァァァ!?」


 「……狂ってる」


 「……そんじゃまあ、俺のために絶望してくれやァァァ!!」


 「……!?」


 突然、木原が隠し持っていたナイフを手に取り、裕香の方へと全力で駆け寄る。


 ……まずい、このままじゃ間に合わない。


 ……また、また奪われるのか?涼だけじゃなく、裕香までも。


 ……やめてくれ、これ以上……俺から何も奪わないでくれ……


 そんな思いは、グサッという音と共に、無残にも届かなかった。


「 ……鈴木……?」


 「…………」


 鈴木が……裕香をかばって、木原のナイフに腹を貫かれていた。


 「……鈴木……鈴木ぃぃぃ!!」


 「チっ、邪魔すんなよ……」


 急いで鈴木に駆け寄った俺の叫び声で、周囲の人の目が一気に俺たちに注目したからか、木原は素早く逃げていった。


 「鈴木!大丈夫か!?鈴木!」


 「…………」


 「ごめん、俺のせいで……今、救急車呼ぶから……それまでなんとか持ち堪えてくれ」


 「……それは、ちと無理そうだな……」


 「……ぇ……」


 「……今にも、意識が途切れそうだ……もう、俺は助からない」


 「……そんな……」


 「……鈴木、さん……」

 

 これには、裕香と奈留もショックを隠し切れない様子だった。


 「なあ、高井……」


 「……ん?」


 「最後に、少しだけ……俺の話、聞いてくれないか……?」


 「……ああ。何でも話してくれ」


 「……ありがとう」


 「俺は……ニートの頃、生きる意味が、わからなかった……」


 「生きていても……楽しいことなんて何もない、俺が生きたところで……ただ親に迷惑をかけるだけ」


 「そんな俺に、果たして……生きている価値はあるのだろうか……そんなことをいつもいつも考えていた……」


 「…………」


 「だがある日、お前と出会ったことで……俺の人生は一変した」


 「……!?」


 「毎日、毎日辛くて……苦しくても、助けたい人を助けるために……仕事を頑張り続ける」


 「そんな生活は、俺の人生の中で一番大変だったけど……一番、生きている意味を実感出来た」


 「こんな俺でも、誰かの役に立てるんだって……頑張れるんだって……。こんな俺でも……生きてていいんじゃないかって、思えた」


 「何が言いたいかっていうと、高井……お前といる時間は、俺の人生で唯一……幸せだったかもしれない」


 「……っ……」


 「だから……ありがとな、高井。俺に……生きる意味をくれて」


 「……そんなもん、あげれるならいくらでもくれてやる……だから、生きろよ……生きてくれよ、高井。頼むから……頼むからさ……」


「……それは、できない相談だな。なんせ、俺は今までたくさん親に迷惑かけてきた……そんな俺が、これからも幸せになろうなんざ……虫が良すぎる話だ」


 「……そう思うなら、親に恩返ししろよ。お前が死んだところで、お前の両親が喜ぶわけねえだろ」


 「……そうだな」


 「それに、おまえはもっと幸せになるべきだろ。裕香を助けてくれた分、幸せにならなきゃいけないだろ。なのに……なんで、こんな……」


 「……それに関しては、問題ねえよ」


 「……え……?」


 「それはもう、十分お前に貰った……もう、思い残すことはない」


 「……!でも、でも……」


 「ああ……最後にもう一つだけ、お前に頼みたいことがあった……」


 「……ん?」


 「もし、生まれ変わったら……また俺と、友達になってくれないか……?」


 「……!?そんなの、なるに決まってるだろ……!」


 「ありがとう、高井。お前に会えて、本当によかった」


 「…………」


 「……そろそろだな。言いたいことも全部言えたし、俺はこれで行くとするよ」


 「……くそっ、くそっ……」


 「ああ……その前に、これは言っとかないと……」


 「……?」


 「……じゃあな、親友!」


 「……っ、鈴木ぃぃぃぃぃ!!!」


 ――その後、鈴木は救急車で病院に搬送されたが、結局……目を覚ますことはなかった。


 

 そうして、一年という時が過ぎた。


 その間、特に変わったことはなかった。


 いつも通り仕事をしながら、裕香と奈留の世話……といっても2人ともしっかりしてるから、逆に俺の方が二人に支えられてたりして、普通の日々をすごしている。


 そして、鈴木を刺した張本人である木原はというと、警察に捕まって刑務所に逆戻りし、最終的には裁判で死刑宣告を受けたそうだ。


 「……鈴木」


 今日は鈴木の命日だから、墓参りをしていた。


 ――俺は、あの時どうすればよかったのか。どうすれば、お前を死なせずにすんだのか。


 そんなことを考えながら、お墓の前で目をつむり手を合わせる。


 あれから一年経った今でも、たまにアイツのことが頭によぎっては、あの時のことを後悔する。


 でも、どれだけ過去のことを考えたところで、どれだけ過去を悔やんだところで……過去は何も変わらないし、変わってはくれない。

 

 「おかえりー、パパー」


 「おかえり、おじさん」


 俺に出来ること……俺がやるべきことは、過去じゃなくて「今」という時間に精一杯向き合うことだと思う。


 「……ああ、ただいま」


 そしていつか、俺たちのことを見てるかもしれないアイツが、笑顔になれるくらい幸せな未来をつかむことだと思う。


 それが、正解かどうかはわからない。


 いや、今まで散々間違えてきた俺だから、この考えも……もしかしたら間違ってるかもしれない。


 それでも、たとえ……間違いだらけの人生だったとしても、俺は……最後まで生き続ける。生きて、人生をもがき続ける。


 好きだった人のために……守るべきものたちのために……たった一人の、親友のために……


 ――俺は、この人生を進み続ける。










最後まで見てくださり、本当にありがとうございます。明日の夜に新作を投稿する予定なので、よければそっちも見てってください。

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