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3話   「過去2」

 

 「当たり所がよっかったのか、息はあります。ですが、植物状態となっていて、治すのは困難かと」


 「……そうですか……」


 話を聞いたところ、慌てた様子で道路に突っ込んだところを、車ではねられたらしい。不幸中の幸いか、運転手が即座にブレーキをかけてくれたお陰で、大事には至らなかった。


 裕香がこんな深夜に慌てて道路に突っ込んだ理由は、恐らく「ママが死んでしまったかもしれない」という恐怖感を消すために、ママを探しに外へ飛び出していったからだろう。


 つまり、今回の事故の原因は車でも裕香でもなく、裕香にこんなことをさせてしまった……


 俺の……せい……


 「あの、手術でどうにか治せないでしょうか……?」


 「手術は出来ますが、成功する可能性は正直低いです。最悪の場合、どうなるかわかりませんが、それでもやりますか?」


 「……いえ、遠慮しておきます」


 そうして俺は、病院を出て町をぶらつくことにした。


 涼を失った挙句、裕香までこんな事になるなんて……それに、裕香のことに関しては完全に俺の責任だ……


 じゃあ俺は、どうすれば良かったんだ?真実を初めに伝えておけば良かったのか?6歳の娘相手に?それとも、あんなストレス極限状態の状況であんな事を言われて、冷静さを保っていろと?


 ふざけんな、無理に決まってんだろ。こっちからしたら一年間もクソみたいに大変な生活をしてきたんだぞ。耐えられる訳がない


 ……考えれば考える程、どうすれば良かったのかわからない。最高の妻を失った挙句、最愛の娘までこんな目にあうなんて……


 「……ああああああああああああああああ!!!」


 叫んだ。とても大声で叫んだ。何かを考えるのが嫌だったから。何も、考えたくなかったから。


 もうめんどくせえ。何もかもめんどくせえ……いっそ自殺でもするか?


 いや、俺が死んだら誰が裕香の入院費を払うんだ……こんな、こんなに不幸な目に遭って、その上死ぬことさえ出来ないのかよ……


 ダメだ、裕香と涼のことを考えると、俺がいつ耐えられなくなって、裕香を見捨てて自殺してしまうかわからない。


 そこで、ある一つの考えが思いついた。


 「――そうか、全部無かったことにすればいいんだ!」


 今の俺が絶対にやらなきゃいけないことは、裕香の入院費を払うこと。逆に言えば、それさえやってしまえば後は俺の自由に生きていいってことだ


 裕香と涼のことを考えると生きていけなくなるのなら、考えなければいい。ただ俺は病院に行くことだけを考えていればいい。そう、それだけでいい。


 まあ、考えなければいいと言ってはものの、涼と裕香のことを考えないというのは俺にとって相当難しい


 だが、裕香のためだと思えばいけるかもしれない。涼と裕香のことを考えないことで俺は自殺せず、入院費を払える。俺が現実逃避をするのは自分のためではなく、裕香のため。                                 

 愛する娘のためなら、涼と裕香のことを考えないようにすることも出来るだろう。


 その決断が、正しいのか間違いなのかはわからない。まあ、恐らく間違いなのだろう。でも、バカな俺には他に方法がわからなかった。


 そうして俺は、二人のことを忘れられるようあらゆる努力をした。もちろん、最初はそう上手くは行かなかったけど、徐々に上手くいきつつあった。                          


 あと、病院に行けばイヤでも思い出してしまうから、一年間の入院費を前払いして、病院に行かないようにした。



 そんな生活が、一か月続いたころ。


 「……あれは?」


 仕事帰り、一人の女子小学生が歩いているところを見かけた。


 「……裕香……?」


 裕香だった。いや、俺には裕香に見えて(・・・)いた(・・)。


 「裕香!よかった、無事だったのか……」


 「……誰ですか?」


 「誰って……お前のパパだよ。久しぶりに会ったから、忘れちゃったのか?」

 

 「……イヤ、こないで!不審者!!」


 そう言って、少女は走って逃げていった。


 不審者?どういうことだ?あの子はどう見ても……


 裕香、じゃない。何で?何で間違えたんだ?顔も全く似てないのに……あれ?裕香の顔ってどんなだっけ?裕香のことを忘れようとしてる内に、顔のことも忘れてたのか。


 つーかそもそも、何で俺は裕香のこと考えてんだ?忘れようって決めたはずなのに……理性では割り切っていても、俺の本能はまだ裕香のことを求めてるのか?


 結局、今後も同じような出来事が多々起きた。どうやら俺は小さな女の子を見ると、裕香だと勘違いしてしまうらしい。


 その度に不審者呼ばわりをされるのがイヤになった俺は、小さな女の子を見かけても声をかけることは絶対にしないと心に誓った。


 ――その数日後、俺はまた小さな女の子を見かけた。


 「お~い、裕……」


 じゃない!いかんいかん。声をかけるのはだめだった……でも、どうしてもあの子が裕香に見えてしまって、放ってはおけない……そうか!


 俺は電柱の後ろに隠れて、その子を見守ることにした。


 これなら、小さい女の子達に逃げられずに、あの子達を守ることができる。


 思えばこの時から、俺のストーカーとしての生活が始まった。


 ――そうして、半年が経過した。


 その間、何度も小さい女の子を見かけては、ストーカー行為をしている内に、ある疑問が出てきた。


 そう言えば、何故俺はこの子達を見張っているんだ?どうしてか、この子達を見ていると放ってはいけなくなる……何故?


 この頃の俺は、もう裕香のことを完全に忘れていた。


 もしかして、俺は幼女がタイプなのか!?見かけたら必ずストーカー行為をしてしまう程に!?マジか……自分のことながら引くわ……


 でも、どうしてだろう。ストーカーだとわかっていても、幼女のことが心配で、この行為をやめられない……俺は、そこまで幼女が好きだったのか……


 こうして俺は、今の俺と同じ人格となった。



 ――そんなこんなで、裕香の事件から一年後、物語は現在まで遡る。


 そうか……全部思い出した。俺が今日突然、病院に行きたくなったのは、裕香の入院費を払うためだったのか……


 「――――!!」


 なら、これからどうする?さっきもう一年間の入院費は払った。これで後は、今までしてきたように、涼と裕香のことを忘れればいい


 「――さん!!」


 だが、本当にそれでいいのか?俺が今まで幼女にストーカーをしてきたのは、裕香を守りたいという気持ちからだとわかった。なら、俺は本当は、忘れることを望んではいないのか?もう……何もわからない。俺は、どうすれば……


 「おじさん!!」


 「…………!?」


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