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第九話:ここまでくると逆に凄いポンコツぶり(公爵家メイド視点)

 何が嫌って、あの令嬢があまりのポンコツぶりで、裏表なんて綿埃程も無いから……って、諜報部隊の皆が私にあのポンコツ令嬢の監視を一任してきたことだと思う。挙げ句、皆、私に「だって女神様とか呼ばれてるし?」 なんてニヤニヤしながら押し付けたし。そのニヤニヤ、アンタ達には似合わないっつーの。気色悪い。とはいえ、確かに裏表がここまで無い貴族令嬢で、しかも独り言垂れ流しているから何を考えているのか解らない、という事など全くないポンコツぶりだから、私一人でもどうにかなるんだけど。

 でも、ここまで来ると逆に凄いって褒めたくなるほどのポンコツぶりなんだけど。ゼウデス様が、第二王女に目を付けられた、とか言ってたけど正直なところ、このポンコツに? と疑っちゃったんだよねぇ。でもホントだった。というか、このポンコツ令嬢、国王陛下からの命が第二王女の差し金だって信じて疑ってないところが凄い。でもまぁそうかぁ。

 第二王女に「お父様はわたくしの言うことは何でも聞いてくださるの」 みたいなことを言われたら、普通は信じるかもね。国王陛下は、そこまで第二王女に甘いわけじゃないけど、娘が言うなら……とは思う、か。いや、それにしても。


(この子、本当にゼウデス様と第二王女が相思相愛だって信じてるの⁉︎ あんなにゼウデス様が嫌っているのに⁉︎ 茶会とか学園での言動とか見てれば……)


 独り言垂れ流してるポンコツ令嬢の独り言を聞くと、ゼウデス様と第二王女が相思相愛だと信じていることに、お前の目は節穴か⁉︎ と言いたくなったんだけど。……ふと気づく。この子がモンバル侯爵・ユーズ家に引き取られたのは七〜八歳の頃だと聞いた。そこから貴族生活に慣れるために、マナーに教養に貴族家の相関図とか諸々を勉強して来たことだろう。当然、家庭教師やマナー講師が合格を言い渡さないうちに社交に出てくるわけがない。何年も教育を受けて来たはず。大体この国では子どもの社交として、同じ年頃の子達が集まる茶会や公・侯・伯爵位の子達が集まる茶会・子・男・準男・騎士爵位の子達が集まる茶会が開始されるのは十歳前後。ちょうど人前に出しても恥ずかしくない程度のマナーや礼が取れる頃合い。

 多分その頃にはまだ、教育終了はしていなかっただろう。早くても十二歳前後のはず。でも、私だけじゃなくて、エレメ公爵・キッドル家の誰も……ゼウデス様もアポメス様もその存在を知らなかった。もしかしたら当主様も知らなかった、かもしれない。とすれば、学園に入学するまで、ユーズ家はこのポンコツ令嬢の存在を隠していた……?

 だから、子ども達の社交である子ども同士のお茶会には居なかった?

 だとすれば、ゼウデス様が第二王女を嫌っていて、あからさまではないものの、やんわりと拒絶をしていたことも知らないだろうし、学園に入ってからも、早々に第二王女に目を付けられて、極力ゼウデス様を含め、他人と関わることを制限されていたとするなら……第二王女の妄言を信じても、おかしくないのかも、しれない。


(ゼウデス様は第二王女と相思相愛どころか、嫌っているから距離を置いてるよ。って言いたいけど。私が勝手に判断して口にしていいことじゃないしなぁ……)


 なぁんて思いながら、ポンコツだけど、意外と能力の高い令嬢を見守る。

 いやぁ……平民生活を送っていたからなのか。

 ドレスを着ることは無いし……まぁ着るとしたら人の手を借りないといけないから、着ないのかもしれないけど……動き易い服を自力で調達するわ、本人はこっそりと、のつもりみたいだけど、バレバレで平民街に行って食糧を調達して来て簡単ながら料理は作るわ、洗濯も自分でやるわ、嫁いでいるわけじゃないからユーズ家から支給される令嬢が使えるお金も金の勘定もしっかりしていて無駄遣いしないで管理するわ……生活能力が高い。

 しかも、この婚約は第二王女が国王陛下に頼んで命じられた、と思い込んでいるから、婚約が破棄だか解消だかされる、と考えて。ユーズ家に帰ることなんて爪の先ほども考えていないように、平民になって自活する気満々みたいで、住む場所を探してる。それも、治安が良さそうな物件を選んでいて、契約時の料金だの家賃だの聞いてる。……時折独り言呟きながら、だけど。


 令嬢が独り言垂れ流してるのが衝撃的だったから、ポンコツで自活なんて出来ないと思い込んでたけど。小さな頃のはずなのに、随分と平民生活に詳しい。……この子、寧ろ令嬢生活の方が窮屈なんじゃなかろうか。私がこの子の友達だったら、この子の自由にしてあげたいな、と思うくらいには生き生きとしている顔。でも、私はエレメ公爵・キッドル家に仕えているから。全てゼウデス様に報告している。ゼウデス様は興味深そうに聞いているけど。


「平民生活? させるわけ、ないよね。私の妻になることが決まっているのだから」


 ……って爽やかな笑顔のはずなのに、何故か空気が冷たくて背筋が寒くなった。

 ゼウデス様はかなりあのポンコツ令嬢がお気に入りらしい。まぁゼウデス様の面白い、という発言は解る。監視している私も面白いなって思うから。この子なら、ゼウデス様と結婚して、「奥様」 ってお仕えするのは嫌じゃない、かな。……そんな風に私が思っていた、矢先。


 ーー第二王女が帰国して、ポンコツ令嬢に接触してきた。


 速攻でゼウデス様に報告。ゼウデス様が第二王女と何を話してくるのか、探ってこいって言うから、お城の侍女服を拝借してシレッと王女の侍女として紛れ込んだ。前から第二王女は使用人を“人間”と思っていない人だったから、使用人の前、なんて関係なく色々と話してくれるだろう、と思ったけれど。


 私が見たのは、第二王女がポンコツ令嬢に膝を付かせる姿だった。


 何をやってるんだろう。

 何をやらせているんだろう。

 そう思うのに、ポンコツ令嬢は悔しそうな表情も見せず、淡々としている。

 ポンコツ令嬢からゼウデス様に婚約破棄を突き付けるように命じて、王命に逆らったから処刑だとかなんとか、相変わらず自分とお気に入り以外の人を下に見て、その人間に対する扱いが酷い第二王女。

 ポンコツ令嬢は、自分の命よりも、拾ってもらった恩のあるモンバル侯爵・ユーズ家にお咎めが無いよう、訴えてる。多分、ゼウデス様との婚約とか、他にも色々、きっとこうやって脅されて来たのだろう。言い返す言葉に慣れ、を感じた。


 ーーこれ、ゼウデス様に報告したら、かなりお怒りになりそうだな。


 第二王女とのやり取りを終えたポンコツ令嬢の後ろ姿を見ながら、お怒りのゼウデス様を想像して身震いした。










お読み頂きまして、ありがとうございました。

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