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第十一話:その勘違いは腹立たしい(ゼウデス視点)

 第二王女のところに潜り込んだエリイアからの報告を受けて一番嫌悪したのが、第二王女と相思相愛だ、とヘラテナに嘘を吐かれていることと、それをヘラテナに信じられていることだった。我儘で甘ったれの傲慢女のどこを好きになればいいのか、と思うが。何より、ヘラテナにそんな嘘を信じられていることが、私の中で結構衝撃を受けている。とても、そう、これは、落ち込む気分。

 ヘラテナは国王陛下のことを知らないし、王妃・王太子を含む第二王女以外の王族を知らないから、国王陛下が第二王女に甘い、と言われれば信じてしまうだろうとは思う。実際は、国王陛下を含めた王族全員が第二王女を持て余しているのだが。国王陛下としては、何か失態を起こした時点で幽閉したい、と王妃や王太子を含む子ども達に零している。誰も反対しない時点で第二王女が王族にとってどんな存在か解るというものだろう。しかし、ヘラテナはそんなことを知らない。だから誤解をしていると解っている。解っているけれど、その勘違いは腹立たしい。


「訂正をさせて欲しい」


 気付けばそんな風に口にしていた。

 婚約破棄を告げられたことも理解しているが、婚約破棄は後回しだ。


「訂正、ですか?」


 首を傾げて目を瞬かせた彼女は、その柔らかで儚げな顔立ちに似合わない生命力溢れた目を向けた。その目を見て思い出した。

 ーーそういえば、この生命力溢れた目に惹かれていた。いや、囚われていた。その目をこちらに向けたくて仕方なかった。

 ーーやっと、睨まれもせず、逸らされもせず、ただ真っ直ぐに見てもらえた。それがこんなにも胸を震わすものだとは。


「ああ、訂正だ」


 震える胸を抑えるように、グッと奥歯を噛み締めてから彼女に届くように続ける。


「私と、第二王女殿下が相思相愛の間柄というのは、間違いだ」


 またも目を瞬かせて彼女は首を傾げた。


「ですが」


 彼女の言いたいことを遮るように続ける。


「元々、私達は血縁者だから幼い頃から時々顔を合わせることがあった。その頃から一方的に好意を寄せられていた」


「一方的」


「そう。私は、結婚して欲しい、と言われても断っていた。好みではないんだ。子どもの頃から我儘で傲慢で人を見下していた。そして努力も嫌いだから勉強も逃げるし教養も無い。王族としても困った人だが、私の妻ということは、次期公爵夫人ということでもある。努力が嫌いな人が夫人教育を受けるとは思えない。だから断っていた」


 私の話に、成る程……と彼女が呟いて頷く。


「でも、イリス第二王女殿下は、政略的な問題で婚約が結ばれない、と」


 それでもまだ引っかかることがあるのか、そのように続ける。いや、そう言われ続けたのだろう。


「政略的な問題は確かにある。第一王女殿下が政略的な婚約を結んでおられるから。私とヘラテナ嬢も王命という断れない婚約。だけどね、第二王女殿下は政略的な結婚すら結べない」


「それは何故ですか?」


「先程も言ったように努力が嫌いだから。隣国は我が国と言語が同じだが、文化は違う。その違いすら勉強しないような人が政略的な結婚なんて無理だ。だから国王陛下は元から第二王女殿下に政略的な結婚なんて持ちかける気は無いんだ。でも国内の臣下に嫁がせる気もない。夫人教育からも逃げそうだから。国王陛下が第二王女殿下のそういった気質に早く気付けば良かったが、第二王女殿下の教育係が教育は順調だと言っていたのを信用して気付くのが遅れた。気付いた時には今の状態が形成されていて、矯正しようとかなり叱りつけたが意味をなさない。教育係が嘘をついた処罰は与えたが、どうも幼い頃から癇癪を起こして教育係に物を投げ付けていたようで、投げ付けられたくなかった教育係が陛下に嘘をついていたようだ」


「つまり、教育に失敗した、と言うのは簡単だけど、イリス第二王女殿下自身が蒔いた種だ、と」


「そういうことだね」


「でも、陛下が叱責されても聞かないのでは成す術が無いのでは……」


「色々考えているようだ」


 幽閉という手段を取るようだけど、さすがにそこまでは言えない。だから言葉を濁した。彼女は深く尋ねないで頷いただけ。聞いてはいけない、と察しているようだ。


「話を戻すが。だから、相思相愛の間柄でもないし、婚約することもない。当然結婚することも、ない。ところで、私とヘラテナ嬢との婚約は王命だ。逆らうのは謀叛を疑われる類のものだね。君自身はその咎めを受ける気があるようだが。私も多少影響がある、と解るかい?」


「え、ええと……」


「私は、第二王女殿下と相思相愛ではないし、婚約も有り得ない。ヘラテナ嬢との婚約が白紙でも解消でも破棄でも、成立すると国王陛下の命を拒否したことになる。ヘラテナ嬢の有責での破棄でも瑕疵はつくし、白紙でも婚約していたことを知っている貴族は多いし、解消しても、他の相手を探すのが、それこそ色々と政略的なことが絡んできて難しいんだよね。次期公爵の地位やら権力やら富やらを目当てに近付いてこられるのは慣れているけれど。王命の婚約を失くした私と、それでも婚約したい、と思う令嬢は……私自身ではなく次期公爵という立場の私と婚約したいだけだ、と私は考えてしまうだろう。貴族だから愛し愛されることを望むのは難しいかもしれないが、最初から信用も出来ない、と諦めて、結婚したいとは思っていないんだ。それくらいには結婚に夢を持つ私をヘラテナ嬢は軽蔑するかい?」


「いえ、それは……。信じ合う関係を欲するのは間違っていない、と」


 戸惑う彼女に付け入るように畳み掛ける。


「でも、王命の婚約を失くした私に、信じ合える関係のお相手が出来るとヘラテナ嬢は思える?」


「きっと、どなたかは……」


「そうかもしれない。でも、私が、お相手を信じられないかもしれない」


 彼女は、ハッと口元を覆う。

 ようやくそこに気付いてくれたらしい。


「信じられるか解らない相手をこれから探すより、私は、王命で結ばれた婚約でも、きちんと夫人教育を受ける努力をして、その成果を出すことで信じられると思えるヘラテナ嬢とこのまま婚約していたいのだが」


 にっこりと令嬢達がときめくらしい私の微笑みを彼女に見せる。


「ええと……。すみません。わたくしは、婚約を続行しない、と思って引き受けたので……エレメ次期公爵様のお話は理解出来ても、元々貴族として生まれたわたくしではないので、荷が重くて……」


 私の微笑みを見ても、動揺一つ見せない彼女。益々気に入ったのだけど。これは手強そうだ。私の顔が他の令嬢達と同じように麗しい、と思ってくれているらしいが……好みではない、と報告を受けていた。好みではない相手の微笑みだから動揺一つ見せないのか。

 それはなんだか傷つくな。

 さて、では、どうやって彼女の心を婚約続行に変えれば良いのだろう。

 どうも私の顔が好みではないどころか、次期公爵夫人という名声や地位や権力や富も興味が無いようだしな。そういった令嬢だったら楽だったが、そういった令嬢じゃないからこそ、私も興味を持ったわけだし。


 ーーこれは、もしかしたら意外と難問かもしれないな。


 だが、それも、面白い。








お読み頂きまして、ありがとうございました。


次話も引き続きゼウデス視点ですが、王女に引導を渡します。

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