第一話:暴言を吐く婚約者(ヘラテナ視点)
最初から暴言有り。不快な方は回れ右で。
地の文は語りかけ。
「あなたのような平凡顔のデブと一緒に暮らすなんて、わたくしが可哀想ですわ!」
皆さま、ご機嫌よう。わたくし、ヘラテナと申します。
モンバル侯爵家の養女でヘラテナ・ユーズ。義父母と義兄と義姉に可愛がられて参りました。元は義母の弟の再婚相手の連れ子という、複雑かつユーズ家とは血縁も無い男爵家の娘でした。
実父は、没落した男爵位を継ぎまして実母と政略結婚。実母の持参金目当てなのは確かですが、実父の両親が病に罹り、その薬代を支払うための結婚でした。実母は子爵家の長女で少しだけ裕福だったのです。
ですが、実父の両親は実父が結婚した事に安堵したかのように相次いで他界したそうで。実父は両親を看取ると共に爵位返上して平民に。実母は、嫁いだから、と実父と共に平民として暮らしていましたが。わたくしが生まれた頃に実父も病に罹り他界しました。
実母は、実家にわたくしを連れて帰り、子爵家でわたくしを育てていましたが、実母の弟……つまり叔父が結婚しますと、肩身が狭くなったようで。わたくしを連れて実家を出ました。平民として働きながらわたくしを育てていた矢先に義母の実家の次男(つまり義母の弟)で有る継父と知り合い、子連れ再婚をして幸せに暮らしておりました。
ですが、それもわたくしが7歳まで。実母は疲労からかある日突然他界。気落ちした継父も他界。わたくし、7歳で天涯孤独になり孤児院行き。……となる所で、継父がこっそりと義母(つまり継父の姉)を頼っていたらしく。
わたくしはユーズ家に引き取られたのでございます。
さて。わたくしの半生をザッとご理解頂けましたでしょうか。……まだまだ足りない? そうでございますか。では、現状のご報告をさせて頂いてから、続きを。
「平凡顔のデブ……。そうか。君はそう思っているんだね」
悲しそうな表情を浮かべる目の前のお方は、王家の命にて婚約を結ばれたゼウデス様。モンバル侯爵・ユーズ家よりも爵位の高い公爵家のお方です。エレメ領主で有る事からエレメ公爵・キッドル家のご嫡男様でして、つまりは次期公爵様であらせられます。
普段は凛々しいお顔で皆と適切な距離を保ちながら丁寧に接しておられて、次期公爵に相応しい立ち居振る舞いではないでしょうか。
「ええ、そうですわ! 仕方なくこの公爵家に来てあげたんですのよ! わたくしくらいしかあなたと結婚なんて出来ないでしょうけどね! あなたとなんて暮らしたくないので、わたくしは公爵家の別邸に住まわせてもらいますわ!」
あ。先程から申しているのは、もちろんわたくし、ヘラテナでございます。
えっ?
口調と内心の口調が別、ですか?
……さぁ、何のことやら。
「でも、ね。ヘラテナ」
「呼び捨てなんて許してませんわっ!」
「ごめん。ヘラテナ嬢。君は私と王命による婚約で結ばれたから。私を拒絶することは、王命に背くという事だよ」
悲しそうな表情のまま、わたくしを穏やかに諭そうとされるゼウデス様は、王命で結ばれただけのわたくしに、こんなに優しく丁寧です。
「ですから! 仕方なく、仕方なく! 婚約者でおりますのよ! 王命に逆らう事なんて有り得ませんわ!」
王命に逆らえば、わたくしだけでなくユーズ家の家族にも迷惑がかかりますからね。
「……そう。それなら分かった。別邸を準備させるから別邸で暮らしてくれる? でも、公爵夫人の教育は」
悲しそうな顔から諦めに変わられましたわ。
「受けますわ。王命に逆らう気はない、と申し上げましたでしょ!」
「うん、分かった。じゃあ、明日から教育は受けてね」
わたくしが公爵夫人教育を受けると言えば、安堵された表情を浮かべるゼウデス様は、本当に心優しいお方。
「あと、侍女も執事もいりませんわ! 公爵家に忠誠を誓ってる使用人を信用なんて出来ませんもの!」
「でも、そうしたら君はどうするんだい?」
まぁ。先程から無礼で淑女に有るまじき暴言を吐くわたくしの心配を、ありがとうございます。
「わたくしのことなど構わずとも、結構です!」
「……そう。分かった。朝と晩の食事は……」
「わたくしは別邸で摂りますわ! 社交と教育以外は別邸で暮らさせて頂きます!」
「……うん、分かった」
ようやっと、ゼウデス様は諦めてご納得され、引き下がって下さいました。本当に、こんな暴言吐きの性格の悪いわたくしを、きちんと婚約者として扱って下さる優しいお方ですね。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
あまり長くならない予定です。
ヒロイン・ヘラテナの名前はギリシャ神話のヘラとアテナを混ぜました。(なんも思い浮かばなかったので)
婚約者のゼウデスの名前はギリシャ神話のゼウスとハデスを混ぜました。(ヘラの夫がゼウスなので)