第一話 プロローグ
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第一話 プロローグ
夢から覚めて周りを見渡したが、付けていたはずのランプの灯りは消えていて、部屋の中は真っ暗闇だった。
私の自室は自分の立場上、屋敷内でも一番密閉性が高く作られており、扉の合わせ目からですら室外の明かりが差し込んでは来ない。
ふと窓のある方向に、未だ眠気で半開きの目を向けてみるが、夜明けにはだいぶ早いのだろう、陽の光の気配はなく同じく真っ暗闇だ。
「しょうがない……」
口の中でモゴモゴと独りごちると、私は左の人差し指で中空に円を描き、自分のマナ(魔法を発現させるための燃料)を少量込める。
誰でも、それこそ小間使いの農家でも使える簡単な「明かりの魔法」を呪文を口にする事なく発動させる。
当然ながら私の人差し指の先には、ロウソク一本程度のささやかな明かりが灯る。
「誰か起きているだろうか……?」
違和感は目が覚めた瞬間にあった。先程からそれはあったのだが、目覚めたばかりで頭がはっきりしていないからだとそれを意識しなかったのだが、明かりを灯したその瞬間、それは驚きを伴って一気に私に襲いかかってきた。
私は余りのことに、一気に布団を体から剥がし、ベッドに横座りして「自室」を見渡した。
「自室」は驚くほど様変わりしていた。いや、模様替えとかそう言う範疇では無い。全く違う部屋にいつの間にか移動させられたみたいだ。
まず、とにかく部屋が小さい。
横はこのベッドがギリギリ入る程度の幅しかない。体を横たえると頭の上と足の下はもうすぐに壁に当たってしまう。ベッドには天蓋はなく、木目が剥き出しの天井板が近くに見えた。天井ですら低いせいか。
縦はせいぜいその4倍と言ったところか。ベッドの真横には丸い座卓か?何やらつるりとした表面のクッションが数個周りに置かれている。座卓の上には奇妙な細工を施した真四角の水差しのような物があり、その中には乳酒だろう、白濁した液体が半分ほど入っている。
丸い座卓を挟んでその向こうには恐らく書き机だろう。木製で、その前に椅子らしき物もある。
ベッドから見て左前方、机の左隣には小さな扉がある。金属製のノブが付いているのでドアで間違いないだろう。
ドアは木製で、人が一人やっとくぐれる程の大きさしか無い。戸には何やら鞄がぶら下がっている。
壁の空いている場所には本棚もある。これもとにかく小さい。本もとにかく小さい。手のひらほどの大きさの本なんて虫眼鏡でも無い限り読めないだろう。
本棚の上や机の上、この「部屋」を見渡すと特に目に付く物がある。
騎士の甲冑の人形である。白い物、緑の物。金色に輝く物まである。
盾を持ち、恐らく魔法で作り出した剣なのだろう、桃色で半透明の刃を握っている。大きさは手のひら程の物から、小さな子供がままごとで使う玩具の人形ほどの物まで大小様々だ。
狭く窮屈な部屋ながら、見たことも無い調度品ばかりで、私は……懐かしい想いに包まれた?
懐かしい……懐かしいだと……?
私は霞かかった記憶を少しずつ掘り起こす。
そう、懐かしいのだ。懐かしいと言えばそうなのだが、時間にしては……そう、たった10年前の記憶……。
10年前、私は……いや僕は「あの世界」に転移した。
そして……またも転移したとでも言うのだろうか、「元の世界」に……。
段々とはっきりし始めた記憶が、大波のように僕に覆いかぶさってくる。
魔王討伐……勇者……王……愛する王妃……結婚……。
全てを捨てて転移した「あの世界」と、そこでの事を全て置き去りにして「元の世界」に再転移したと言うのだろうか……。
そう 世界救済の勇者で フリッツ王だ!
僕は 軟弱王 嵐山大夢だ!
僕は繋がった二つの記憶に翻弄されながら、僕はゆらゆら体を揺らして「自室」から一本外に出たのだった。
狭く暗い階下へ続く階段。いや、狭いと言う感覚がおかしいのか?恐らく普通の一戸建ての、普通の階段なのだろうけど、今の僕には地下牢へ続く作りの簡素な階段の様に思える。
一歩一歩慎重に、足が着くのを確認しながら階段を降りていく。
階段の下、右から明かりが差し込んできている。恐らく階下に誰かいて、電気照明をつけているのだろう。何やら物音は微かにするのには気付いた。
ゆっくり降りきりそちらに目をやると、寝巻き……パジャマ姿の老女性が白いシャツにアイロンを掛けている。「向こう」と違い、電気式のものなんだろうが。
「ロム……?なーに、トイレでも行くの?」
女性はそもそも僕と対面する様に床に座っていたので、僕が階段から降りてきたのにすぐに気付いてしまった。
「母上……かあさんなの……?」
「……どうしたのよ……?アンタ泣いてるの?」
言われて初めて気付いた。僕は知らない間に涙を流して泣いてしまっていた。
ゆっくり彼女の方に歩み寄る。彼女はアイロンを台座に置き、板の上に置かれた眩いばかりの純白の薄手のシャツを僕に広げて見せた。
「アンタの明日着てゆくシャツをアイロン掛けてただけよ?」
「かあさん…………!本当に母さんなんだね!」
「何よどうしたのよ?……また太ったって言いたいのかしら?」
僕がえも言われる再会の感動に涙を流すのに対し、彼女は……「普段通り」の対応をした。
当然、彼女の前に座り込みあまつさえ抱きつこうとする僕を、彼女は両の腕でしっかりと跳ね除けてくれた。
「アンタねぇ、明日から高校生なんだから。母親に抱きつくなんて恥ずかしい事はやめなさいよ?」
僕の肩をしっかりと掴み、焦った顔で我が子を睨みつける。
危ないところで僕はやっと冷静になり始めた。
「ふぅ……。高校に入学ってのが不安なのは分かるけど、アンタ16歳なのよ?今更母親に泣きつくなんて……」
そう言いつつ、彼女は正座したまま僕に近寄って来る。僕はやっと止まった涙をパジャマの裾で拭き取っている間に、今さっきまでそれを嫌がっていた彼女にぎゅっと抱きしめられてしまっていた。
へ……?と肺の中の空気が気の抜けた声と共に吐き出される。
「今回だけよ?朝になったらちゃんと高校生になるんだからね?」
10年ぶりの母との抱擁は、久々に嗅ぐ芳香剤と白髪染めのツンとくる懐かしい匂いに包まれていた。
目覚まし時計が鳴って、朝の7時を告げた。
母との再会をし、渋々ベッドに戻っては見たものの、全く眠れずにこの時間まで過ごした。
深く考えていたため、むしろ目と頭が冴えている。
この数時間でさえ色々なことが分かってきた。
第一に、「元の世界」に戻ってきたと言うことが夢では無いと言うことだ。
夢や幻では無いだろうか?と1番に疑った。魔王軍の残党勢力中には、そう言う魔法や術に長けた魔物もいるかもしれないからだ。
僕の使える魔法の中で「アンチマジック」「ディスペルマジック」がある。魔法に対する抵抗力を上げる魔法と、魔法そのものを打ち消す魔法だ。
僕程度の魔法の熟練度じゃ専門の魔法使い程の精度は無いにしろ、術に失敗した様な反応も無かったし、そもそも周囲に魔法の残り香の様な物も無い様に感じた。
ここまで来ると十中八九「魔法による幻術」の類では無いはずだ。
次に分かった事だが、今は「僕たちが異世界に転移する3年前」という事だ。
先程の母親……かあさんの話にもあった通り、今日は高校の入学式。僕たちが異世界に転移したのは「その卒業式だった」のだから。
僕の記憶に残る過去の記憶……。その通りの事が未来に起きる事なのか……。まだ今の時点では確証も予感もない。それが不安としてゆっくりと覆いかぶさってくる。
そして「以前の僕」と「現在の私」が大きく違う所……それは身体的能力と精神的成長度だ。
身体的な差異を分かりやすく話そう。
異世界転生前はインドア趣味丸出し、運動嫌いのオタク高校男子である。まぁ嫌いなだけで運動音痴とまでは言わないけど、周りはそう思っていたのでは無いだろうか?
さて現在はと言うと、転生前と同じような体付きなのだが、その体の性能を十二分に生かすことが出来る戦闘経験、勇者として向こうの世界で神や精霊から授かった様々な加護。そしてこの血肉に内包した魔法力……。
自慢するわけじゃないが、「あの世界」で僕は、魔王軍を壊滅させ、魔王を討ち、魔王城を封印するための結界都市を納めていた勇者王と呼ばれるまでになった。
今の僕の力ならば、たった一人でも一般人100人どころか戦闘のプロ集団とも素手で壊滅させる自信がある。
実際、夜にこっそり家を抜け出し、近くの公園で思いっきり垂直跳びをしたのだが、予想通りと言うか残念ながら隣の10階建てのマンションの屋上が上から丸見えのなる高さまで跳び上がってしまった。
腕力も同じで、鉄棒の横棒が右手一本で飴細工のようにグニャリと曲がってしまう。むしろ真っ直ぐに曲げ戻すのに苦労してしまった。
不安だ……。この力を不意に出してしまったらどんな惨劇が起きるのかと思うと……。
あと不安といえば……。
僕以外にもあの世界の……「双子の月の世界」から記憶と力を宿したまま元の世界……「地球」に帰還した者たちが他にもいるんじゃないだろうか……。
そうなった時に何か悪い事が起きないか。そんな僕の不安を嘲笑うように、春の朝日が生暖かく僕の部屋を照らし始めたのだった。
さぁ始まりました、新作「Rゲーム」です。
「Fゲームシリーズ」をお読みいただいた方は
不思議に思われたでしょうが、主人公や一部の中心人物は同姓同名です。
これは「スターシステム」となってます。
つまり、同じ俳優が同じ役を演じるが、全く別のお話に登場しているってやつです。
手塚治虫作品や、マーベルスーパーヒーローの映画によくあるそれです。
まぁFゲームシリーズと全く関係ないかどうかは、ナイショですが!
ともあれ、ここまでお読みいただいてありがとうございます。
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