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生態系最底辺の魔物に転生しましたが、平和な生活目指して全力で生き残ります 〜最弱の両生類、進化を続けて最強の龍神へと至る〜  作者: 青蛙
最終章・永久の龍神

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新・六大聖天



◆◆◆◆



 イヴリースがマギステアに対して始めた戦争は、数ヶ月で終結した。世界中に深く大きな爪痕を残して。


 イヴリースは指導者が不在になった上に大半の国民が聖獣擬き化、もしくはそれらの被害を受けたことで国家としての機能を完全に失い、地図からその名を消す事に。

 マギステアもまた指導者を失い主力のヘカトンケイルの大半と六大聖天を2人失った事で大きく弱体化。しかし教会が主導した国民の迅速な避難が幸いしてか、聖獣擬きによる国民への被害はあったものの致命的なダメージは逃れた。


 単なる二国間の戦争に収まらなかったこの戦いは、後に『災厄戦』と呼ばれる事になる。





「ふん。1年そこらじゃあそうそう元には戻らないか」


 数日ぶりに帰ってきたマギスタリアの景色は不思議と新鮮に映り、自然と口からそんな言葉が漏れた。

 戦争の爪痕は深い。戦争……というよりは、カジムと聖獣擬きの群れが散々暴れ回った跡、というのが正確だろうが。


 未だに首都マギスタリアの街並みには廃墟が残されたままの土地や、建築途中の建物が目立つ。道路の舗装も遅れており、壊れたタイルの穴埋めには雑に砂が使われている。


 これでも4、5、6と少し前まで序列下位だった六大聖天はよく仕事を果たしたと感じる。イヴリースから溢れ出した聖獣擬きの群れを聖堂騎士団を率いて抑え込み、避難していたマギステアの民を守り切った。

 結局、国の形を成すのは民だ。イヴリースと違い民が残っていたからこそ、こうして復興が進められている。


「(ああいう光景も、ちょっと前までじゃあ考えられなかったな)」


 街を行き交う人々の中には、基人族(ヒューム)以外にも森人族(エルフ)獣人族(スロゥプ)といった者の姿もちらほらと見える。

 以前までのマギステアではあり得ない光景だ。亜人族がマギステアに入り込もうものなら、聖堂騎士団によって捕らえられるかその場で殺されるかが常であった。無論、マギステアが掲げていた信仰から、暮らしている人々からの亜人族に対するイメージも良いとは言えない。


 まあ、今こうして歩いていても胡乱げな目でこちらをコソコソと観察している人間も居なくは無いが。


 聖なる龍神、今はそう呼ばれているセシルの事だが……あいつが黒いドロドロと世界中で発生した聖獣擬きを消し去った時、このマギステアの大地を蝕んでいた龍脈もまた消し去っていたらしい。

 戦後、聖堂騎士団がマギスタリアの大聖堂の地下空間を調査したが、ドラゴンのミイラは跡形もなく無くなっており、またヘズによれば龍脈の魔力の気配も完全に消えたとの事だった。


 それで今は、隣国のフランクラッドが復興支援として送り込んできている人材の中には亜人族も結構な割合で含まれている。彼らの支援で生活が出来ている人々も多いから、最初の頃と比べるといくらか亜人族に対する抵抗は薄れてきているようにも感じるが。


「(一応聖堂騎士団は連中にも目を光らせているが……怪しい動きは特に見られていない。おそらく彼らがマギステアに定着することも無いだろう。マギステアに対して恩を売っておくという側面が強いか)」


 戦争の最終盤、フランクラッド兵がマギスタリアまで進軍してきた事についてだが、代々マギステアの教皇とフランクラッド王の間に龍脈についての盟約が交わされてきた事によると後になってヘズに聞かされた。

 カジムが表舞台に再び現れ活動を始めたことについて、マギステアとフランクラッドは共に調査を進めていたようで、その中でカジム側の召喚士からも寝返る者が何人か出ていたようだ。自分も結局は奴から寝返った側の人間だが、思い返せばなんとも人望のない男だ。

 詰まるところ、奴は負けるべくして負けたと言う事だ。大義を掲げ、個人的な復讐に大勢を巻き込んで死んだ男。それに対して――


「アイツは……何だったんだろうな」


 なぜセシルの元には、産まれも育ちも見ている方向も別々の者が集まって、付き合いも浅いのに互いに協力して奴に立ち向かうことが出来たのか。

 ただ力にひれ伏すだけなら、あいつじゃなくても良い。カリスマが有るかと言えば、小市民的な性格のアレにそんなものは全く感じられない。

 そんな奴がカジムと戦おうとなっていたから、自分達も最期まで付き合ってやろうと乗ったのかもしれない。


「全く、あいつから甘ったれを移されたかな」


 気がつけば、マギスタリアの大聖堂の前にまでやってきていた。


 あちこちが崩れて修復作業も間に合っておらず、以前までのような荘厳さは感じられない。戦争が終わってから暫くしてヘズが人々の心の拠り所になるようにとホムンクルスの権能を使って建て直そうとしたのだが、今までエネルギー源となっていた龍脈の消失と戦いでの消耗が災いして大聖堂を完璧な状態に戻すことは叶わなかった。


 しかしあれだけの戦いがあって尚、大聖堂が無傷のまま建っているというのも不自然だろうと言う事で、今の状態になっている。

 残った修復箇所は、これからマギステア人間たちで少しずつ直していけば良い。皆での話し合いの結果、そういう事に決まった。


 ふと、門番をしていた騎士の1人と目が合う。


「! テオ殿、もう戻られていたのですか」

「ああ、あまり長い間離れているのも良くないと思ってな。ここ数日間、何か変わりはあったか?」

「いえ、何も。こんな状態ではありますが、随分平和なものです。ただ、真実を知らされてから、国民からは少し活気が失われたようにも感じますが」

「ヤケ起こさないならそれで良いさ。ま、その辺りの心情のバランスを取るためにも俺がこの国に残ってるわけだしな」

「テオ殿には皆感謝しています。あなたが居てくれたおかげで、戦後の混乱を抑えられたと」

「ハッ、そうかい」


 内心、未だに彼らに対して燻っているものはある。

 本当に、自分が選ぶべき道はこちらで正解だったのかと、らしくもなく物思いにふける事もある。

 今、こうして笑顔で会話をしている彼等だって、マギステアの聖堂騎士である以上はおそらく――


「テオ殿……?」

「やめだやめだ。何でもねえよ」


 昔は昔。今は今だ。

 だいたい、自分だって人にどうこう言えた義理じゃない。


 ひらひらと手を振りながら彼等に別れを告げ、大聖堂へと足を踏み入れた。礼拝堂の中には神へと祈りを捧げているマギステアの民の姿も多い。

 が、自分が用があるのは更に先だ。


 祈りを捧げる彼等を横目に部屋の隅を通り過ぎて狭い通路へと入っていく。いくつかの廊下と階段を通り、やがて円卓が中心に据えられた大広間へ。


「おや、第5聖天どの、随分早いお帰りで」

「なんだ妙に(うやうや)しい」


 冗談には苦笑いで返す。

 出迎えたのは絢爛(けんらん)な鎧に身を包んだリディだった。部屋にいるのは彼1人のようで、他に人の気配もない。

 円卓の隅に広げられた地図から、次の作戦について1人で思案でもしていたのだろう。


 戦争が終結したあと、自分は六大聖天の第5聖天に、リディは第6聖天に任命された。生き残った他の六大聖天はそれぞれ繰り上がる形だ。


「お前は相変わらずその鎧が似合わないなリディ」

「元々こういうガラじゃあ無いんだよ。だいたい、俺だけ実力も見合ってない」

「だが今あのヘカトンケイルを動かせるのはお前しか居ないからな。世界から失われた龍脈の力を唯一操ることが出来るマギステアの隠し玉」

「勘弁してくれ全く。あいつは何を考えて俺にあのヘカトンケイルを残したんだか……」

「必要だと思ったんだろ。なんせあいつは()()()()だからな」


 空いている席に腰掛け、荷物の中から買っていた土産物をリディに渡す。それが意外だったようで、少し驚いた顔をされたあと軽く礼を返される。


「しかし……何というか……本当に丸くなったな、お前」

「何か不満でもあるか?」

「いいや全く。それよりどうだった、レインツィアは」


 ここ数日、(いとま)を貰ってフランクラッドのレインツィアまで行っていた。

 やっとそれぐらいの余裕が出てきたといったところだが、その貴重な休みでわざわざレインツィアに行ってきた理由といえばセシルが以前話していた事が原因だった。


 俺の姉かもしれない獣人族(スロゥプ)にレインツィアで世話になったと。

 ただ同姓同名なだけの別人である可能性の方がずっと高かったが、確かめずにはいられなかった。その女性は冒険者酒場を切り盛りしていて、同じく冒険者をやっているラバルトという男と結婚していると。果たして、その結果は――


「間違いなく、俺の姉だったよ。あちらはあちらで、旦那の方がずっと俺の事を探してくれていたらしい。来年にはガキも産まれるそうだ」

「……!そうか、それは良かったな!だったら尚更こんな早く帰ってこなくても良かったんじゃないか。もう少しくらいは席を空けていても構わないとヘズも言っていた」

「まあな。姉にも義兄(あにき)にも、もう少しゆっくりして行かないかとは言われたが断った」

「何故」


 少し言葉に詰まる。理由は、色々だ。

 自分がマギステアに居なければ、今は困る人間も多く居る。それに、己がしでかしてきた今までの行いについて、後悔している事も多くある。償いは、行動で示していかねばならない。

 それに、今の幸せそうな姉の家庭に、血に塗れた自分が混ざるのが許せなかった。


「ま、国に残ってんのがお前みたいなのだけじゃあ心配にもなるだろ?」

「なんだと貴様」


 リディは怒ったように顔をしかめるが、声色は笑い交じりだ。自分が何を考えているのかは何となく察していて、冗談に付き合ってくれているのだろう。その心遣いが有難かった。


「ああ、それともう一つ。こっちは()()にとって重要なんだ」

「何だ?」


 一呼吸置いて、広げられていた地図の1点を指差す。


「セシルの居場所がわかった」



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