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生態系最底辺の魔物に転生しましたが、平和な生活目指して全力で生き残ります 〜最弱の両生類、進化を続けて最強の龍神へと至る〜  作者: 青蛙
最終章・永久の龍神

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混沌



「ぐ、ぎぃ……!?」


 腕に伝わる柔らかい肉の感触。

 パキパキという骨の砕ける音。


 振り抜いた腕と共に鮮血があたりに飛び散り、空中でよろめくカジム。しかし、続けざまに放った左腕での二撃目が腹部を捉え、歪んだ口から血を吐きながら彼は更に空高く雲のある場所へと吹っ飛んでいく。


「お前、いつの間に」

「交代だ、テオ」

「ハッ……じゃあしっかりとカタを付けてくれよ」


 伸ばした腕にコツと彼の拳が触れ、そのままに彼は重力に従って落下してゆく。

 帰ってゆく彼を横目で見送り、広げた翼を羽ばたかせて自分はカジムを追って一直線に雲の上へと昇る。


 吹き飛んでいった彼が開けた真ん丸い雲の穴を抜け、その先は澄み切った青と白がどこまでも続く広大な平原。


 そこに彼は浮かんでいた。

 逃げも隠れもせず、賢者の力で傷付いた身体を修復して。


「なぜっ……何故、何故何故何故お前がァ……! 確かに、この手で!殺してやったはずのお前が!なぜまだ私の前に立ち塞がって邪魔をする!お前さえ居なければ……今頃私はアレを手にして……!」

「その僕をこの世界に連れてきたのもお前だろ」


 まずは賢者の石をカジムから引き剥がす。

 龍神の力ならそれが成せるはずだ。


 再び腕を振りかぶり、素早く接近して殴りかかる。流石に正面からのわかりきった攻撃には彼も対応し、腕を交差させて防いできた。


「もう一度その命断ち切ってやる」

「2度は無いぞ」


 アッパーを食らわせてガードを崩す。

 反撃とばかりに即座に撃たれた光線の雨を大量に創り出した氷の盾で防ぎ、彼の首元に掴みかかって手のひらから直接炎を発射して一瞬の間にその首を焼き斬った。


 怒りに満ちた表情の彼の首だけが雲の海へと落ちてゆく。だが、残された身体の方は変わらずその場で羽ばたき続けていた。


「……そう簡単には死なないよな」


 手を離して距離を取る。

 焼き斬ったはずの()()は既にブクブクと沸騰したように泡立ち、新しい頭が顔を覗かせようとしていた。


「ぅ゛ぁだしはァ……不死身だ!」


 ぎょろりと血走った目がこちらを睨みつける。

 ガラガラと水気混じりの声でそう叫ぶやいなや、ノーモーションから放たれた黒色のブレスが視界いっぱいを埋め尽くした。

 ビリビリと痺れるような痛みが全身を襲う。が、回復が追いつかないほどのダメージではない。


「いいや、お前は死ぬんだ!今日!ここで!」

「ぐうっ!?」


 力任せにブレスを振り切り、全身を完全に龍化させて彼の顔面に掴みかかる。

 喉元に噛みつき、噛みつかれ、しかし力の差はもはや歴然だった。


 もみくちゃになりながら空を墜ちてゆく。

 カジムに命令されたのか、自分を引き剥がそうと聖獣擬きの群れが集まってくるが、近付いた瞬間に全身から放たれる熱波に焼かれて黒焦げになって次々とその命を散らした。

 カジムも熱波にやられて焼け焦げながらも再生を続ける、グロテスクな状態になっていた。


「離、せ……! このっ……!」

「ガァァァァァァァアアァァッ!」


 力の限り彼の身体を抑えこむ。そして、巨体によって加速した2頭の身体は廃墟となったマギスタリアの街に激しく叩きつけられた。

 轟音と共にあたりには凄まじい量の粉塵が舞い上がり視界を奪う。それでもなお彼の身体を離すことは無く。


 喉の奥で、燃え上がる炎と凍てつく氷とが膨れ上がる。龍神の力は今、完全にこの身体に馴染んだ。


「終わりだ、カジム!」


 全力のブレスを彼へと叩き込んだ。






◆◆◆◆



 数分も無かった。

 ほんの数十秒程度の短い攻防。


 目にも止まらぬ速さで繰り広げられたそれは、眩い閃光と耳をつんざくような轟音と共に決着が付けられた。


「終わった、のか……?」


 セシルへと戦いのバトンを渡したあと、廃墟の上から戦いの行方を見守っていたテオは、先も見えない土煙を眺めてぼんやりと呟いた。


「あ」


 突如として土煙から飛び出した1つの影を見て、そんな音が口からこぼれる。


 玉虫色の鱗を持つ巨大な水龍。

 見紛うはずもない、龍となったセシルの姿だった。


 セシルはゆったりとした動きで空を泳ぎ、テオの近くに舞い降りると半人半龍の姿へと戻る。


「セシル!」


 人の姿がへと戻ると共に、その場に崩れ落ちて倒れた彼へと慌てて駆け寄る。しかし心配とは裏腹に、セシルはただ疲弊しただけの様子ですぐに立ち上がり、そして握り締めていたその手を開いて見せた。


「ハハ……やりましたよ」

「お前……」


 開かれた手の中にあったのは、蒼い宝石が美しく輝く銀のネックレス。


「龍神の力は『混沌の力』。破壊するための力。なら、賢者の呪いも断ち切れると思ってました」

「ったく……つまりはぶっつけ本番かよ」

「あはは、本来予定してた切り札は別にあったんですけどね……」


 龍神の力を手に入れられて居なかったらどうするつもりだったのか、呆れて思わず溜め息が漏れる。


「ともかく、これで」

「ええ、トドメは刺せた。……と思います」

「なんだ、嫌に自信なさげじゃねえか」

「まだ自分が知らない術で命を繋いできてもおかしくないので、あの人」

「あー……そりゃ、まあな」


 果たしてカジムはどうなったのか。

 薄れてゆく砂煙の先に、うごめく巨大な影を見た。


 それは到底生き物の出すものとは思えないような不気味なうめき声をあげ、手足らしきものをじたばたと動かしていた。

 肉は溶けた金属のようにドロドロに流れつつあり、白い骨が見えては再び新しい肉に覆われてを繰り返している。彼自身の再生能力はほぼ失われているようだが、周囲の聖獣擬きたちを呼び寄せては取り込み、なんとか生きながらえようとしているように見えた。


「何百か、何千年か……神代(かみよ)の昔から生きながらえてきた森人族(エルフ)の王の最期がこれか。自業自得とはいえ、惨めなもんだな」

「一度は従ってた相手でしょうに……」

「ハッ。俺だってロクな死に方出来ないだろうってのはわかってるさ。でもまあ……アイツは俺の望みすら裏切ったクソッタレだ、今くらい好きに言わせろよ」


 聖獣擬きの数も、気が付けば既に数える程度しか残されていない。

 やがて最後の一匹を彼が取り込んだ時、彼の肉体は手足すらどこに有るのか認識できない『とろけた肉の塊』としか表現しようのない物体へと変貌を遂げていた。

 その肉体ももはや維持不可能な状態であったのか、焼けた石に水を垂らした時のような音を立てながら水気を失って萎んでいく。


 最後には、干からびた黒い塊が残るだけだった。


「……終わりましたね」

「呆気ねえもんだ。あんな強かったのに」


 すっかり静かになったマギスタリアの廃墟群の中で、テオと二人ぼんやりと空を眺める。

 頭の中はこれからどう生きていこうだとか、セレスやランドは無事で居てくれているだろうかだとか、とりとめのない思考がぐるぐると回り続けている。


 ふと、地面の揺れと同時に青空が陰った。


 はっとして音のした方を見やれば、ヘズ・トラキアの巨大ゴーレムが立っていた。


「よぉ、六大聖天の。とりあえずは終わったぜ」

「……ヘズさん?」


 巨大ゴーレムの顔がゆっくりとこちらを見下ろす。

 何かがおかしい。目の前のゴーレムの動きに、拭いきれない違和感がある。

 しかし、その違和感を言葉で表すことも難しい。


 考えている間に、唐突にゴーレムの拳が握られた。


「まずい……っ!」


 咄嗟にテオの身体を掴んで飛ぼうとして、失敗した。全力で無茶をしたばかりで身体がついてこなかったのだ。


 振り下ろされる拳に今度は手のひらを向け、どうにか魔力障壁による防御だけでもと魔力を絞り出そうとした瞬間だった。


「セシル!テオ!」


 凄まじい勢いで自分たちとゴーレムの拳の間に滑り込んできたリディのヘカトンケイルが、龍脈結晶の盾を掲げて巨大ゴーレムの拳を受け止めた。


「オイッ!どういう事だ!? ヤツを倒したから俺達は()()()って事かよ!!?」


 突然の事に、ヘカトンケイルの中のリディへとテオが怒りの声をあげる。リディのおかげで難は逃れたが、突然の事に自分も理解が追いつかない。


『違う、テオ!カジムの身体が溶けたあたりから、ヘズ様のゴーレムの挙動がおかしくなった。具体的な事は言えないが、中で何かあった可能性が高い!』

「中で?まさか」


 確かにカジムは殺したはずだ。

 賢者の石も奪い取り、彼が死ぬ瞬間も見届けた。


 だが、他にこの場でヘズに危害を加えるだろう存在が思い付かない。


「っ……テオさん!」

「わかってる、中に飛ぶぞ」


 苦虫を噛み潰したような顔のまま、彼はふところから回復ポーションの瓶を取り出してぐいっと一気に飲み干す。

 次いでもう一つ瓶を取り出し、こちらに投げて寄越した。


「お前も飲んどけ。多少はマシになる」

「いただきます」


 ドロっとした舌触りと強烈な甘ったるい匂い、そして後味の痺れるような渋味。味はすこぶる良くない。

 だが飲んだ瞬間から、確かに全身に魔力が漲ってくるのを感じる。ありがたい、これでまだ戦える。


 ヘカトンケイルがヘズの巨大ゴーレムからの攻撃を防いでくれている。その間に、テオがこちらの肩を掴み、人差し指で狙いを定めた。


「動くなよ……3、2……!」


 次の瞬間、パッと目の前の景色が入れ替わる。

 巨大ゴーレムの内部へと瞬間移動したのだ。


 戻ってきた広間の中心には、周囲に魔力障壁を張り巡らせたヘズが腕をだらりと垂らして棒立ちしていた。


「ヘズさんの後頭部に……!」


 何かが張り付いている。

 よく見ると、それは人の手のように見えた。

 手首から先、腕や肩、胴体といったものは存在しない。シワだらけの指が、ヘズの後頭部にがっしりとしがみついている。


「間抜けが。なに不意打ち食らってやがる!」


 苛立つのもわからなくない。

 曲がりなりにも六大聖典筆頭、マギステアの最高戦力だった男が不意打ちで身体の自由を奪われるなど情けないにもほどがある。だが――


「あの男を仕留めたと思い込んでた()()が言えた口じゃないでしょ!」

「ハッ、それがお前の素かよ!」

「黙っててください!急いで彼を解放しますよ、テオさん!」


 手元に龍脈結晶の剣を呼び出し、テオと共にヘズの後頭部にしがみついている手を狙う。

 その瞬間、広間の壁のいたるところから現れた石の矢が射出され、避ける隙間すら無いほどに視界の全てを埋め尽くした。




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