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生態系最底辺の魔物に転生しましたが、平和な生活目指して全力で生き残ります 〜最弱の両生類、進化を続けて最強の龍神へと至る〜  作者: 青蛙
最終章・永久の龍神

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始原の力


「テオ、裏切ったのか……貴様!」

「先に裏切ったのはアンタの方だろ、イカれヤロー。まさかマジで人間皆殺しが目的だとは思ってもなかったぜ」


 目にも止まらぬ勢いで斬り掛かったテオの刀を杖で受け止めたカジム。

 思いもよらぬ出来事による動揺もあってか、互いの力は拮抗していた。


「(どういう事だ、テオの一撃がやけに重く感じる。今更こんな雑魚相手に、この私が手こずるはずなどあり得ないはずなのに……!)」


 ギリと歯を食いしばり、力任せにテオの身体を押し飛ばす。その刹那、カジムは確かに目にした。テオの手の甲に剣の紋章が浮かび上がっている事に。


「まさか……生きていただと!? 確かにこの手で殺したはず!」


 この力の正体は知っている。

 今のその力の持ち主も。


 テオともう1人、ヘカトンケイルから現れた男の正体に気が付き、咄嗟に杖の先を向ける。

 だが、杖を向けた先に、既に男の姿は無くなっていた。


「奴め、どこに……!」

「はあぁっ!」

「上か!」


 頭上から勢いよく振り下ろされる龍脈結晶の剣。

 素早く発動させた魔力障壁がそれをすんでのところで防ぎ、互いの魔力がぶつかりあって激しく火花を散らす。


「【次元転影(ヴィジョンスネア)】」

「チィッ! しつこい」


 セシルの攻撃に気を取られた隙を突いて、四人に分身したテオが瞬時にカジムの周囲に現れて拘束した。


「こいつは俺が外に連れて行く、お前はそこで倒れてるニニィをまずどうにかしろ!」

「テオ、恩に着る!」


 次の瞬間には四人のテオごとカジムの姿がかき消え、床に降り立ったセシルは駆け足でニニィとヘズのいる場所へと駆け寄っていく。


「ニニィ!」


 呼びかける。

 返事は無い。


「残念だが、もう死んでいる」


 代わりに言葉を返したのは、ニニィの首元に指を当てて脈を測っていたヘズだった。


「あなたは…」

「ヘズだ。どういう者かは……だいたい察しもついているだろう」


 それに対してセシルは頷くのみで返答とし、変わり果てた姿のニニィの前に片膝をついた。

 息絶えた彼女のしわくちゃの頬に触れる。まだほんのりと(あたた)かい。


「死人は生き返らない。この先死体まで守っている余裕は無いぞ」

「……」

「それと……龍神だが、無力化してゴーレムに取り込んでいる」

「……わかりました」


 セシルの手首に巻き付いたネックレスが揺れて小さく音を鳴らし、紅い宝石が光を吸い込んできらりと光る。

 外傷のない遺体に、己のもとへと飛び込んできた賢者の石。ニニィの死因は明白だった。


 少し軽くなった彼女の身体を()(かか)え、壁に空いた穴を塞ぐように待機していたヘカトンケイルの元へと戻っていく。


「リディさん、彼女を頼みます」

「……遅かったか」

「早く来たとしても、こうなっていたと思います」

「そうか……俺は離脱に備えてここから少し離れた場所で待機しておく。多少バケモノ共にも絡まれるだろうが、今のこいつなら問題は無いはずだ」

「すみません、よろしくお願いします」


 ニニィの遺体をヘカトンケイルの中に寝かせ、ヘカトンケイルはヘズの巨大ゴーレムを離れて飛び立っていく。


 再度、巨大ゴーレムの壁の穴が自然に塞がっていく中、無理矢理に中へと入り込もうとした聖獣擬きを指先からの熱線で即座に始末する。


「(テオは……!)」


 カジムを捕らえて外へと瞬間移動していった彼は無事なのか、感覚を研ぎ澄まして気配を探る。

 連れて行ったのはゴーレムのすぐ外なんて事は無いはずだ、そんな近くに居たならヘカトンケイルを攻撃する余裕くらいカジムにはある。


 なら上空かと魔力探知の範囲を広げようとした瞬間だった。

 何かが高速でこちらへと落下してくる音を耳がとらえる。


「テオ!」


 凄まじい破砕音と共に広間の天井に穴があき、口から血反吐を撒き散らすテオが叩きつけられるように落下してくる。

 即座に羽を広げて飛び立ち、空中でテオの身体を受け止めて抱きかかえつつ回復魔法を流し込む。


「う……えだ! 野郎、人間じゃ、ねえ……っ!」

「上……なっ!?」


 テオに言われるままに見上げた空の先にカジムの姿はあった。だが既にその姿は見覚えのある森人族(エルフ)の男のものではなかった。


 聖獣擬きがカジムを中心に集まり、肉の塊となって溶け、カジムの新たな身体として形成されつつある。

 例えるなら、6本の脚と二対の羽を持つドラゴン。

 ただ、聖獣擬きを使っているからなのかその体表に鱗のようなものは無く、薄いピンクの肌にまばらに生えた羽毛と浮き出た青黒い血管により歪でグロテスクな見た目になっていた。


「たった一瞬で……」


 まだ強くなるのかと冷や汗が流れる。

 それでも、迷っている余裕は無い。


 動けるようになったテオをおろし、両足で床をしっかりと踏みしめて仁王立ち。


「ふぅー……スゥゥゥゥ」


 両翼を大きく広げて深く息を吸い込む。


「来るぞ!」


 同じようにカジムをじっと観察していたヘズが叫ぶ。

 それから一瞬遅れて、カジムの変化したドラゴンの口から黒色のブレスが、力を蓄えた自分の口から赫灼のブレスが吐き出される。


 一瞬の静寂。

 2つのブレスは天高くでぶつかり合い、轟音と共に凄まじい熱波と衝撃波をあたりに撒き散らした。


 衝突の余波により、近くを飛び回っていた聖獣擬きの多くは瞬時に消し炭と化し、生き残っている聖獣擬き達もギャアギャアとやかましく鳴きながら逃げるように飛び去っていく。


「ゲホッ、ゴホッ。……っハァッハァッ!」

「おいっ、大丈夫か」


 全力でのブレス。

 この身体でやるのは初めてだったからか、胸のあたりがギシギシと軋むような感覚がある。

 息苦しいし、口の中が嫌に焦げ臭い。


「大丈夫だ、テオ。それより、奴は」

「……まだピンピンしてやがる」


 まあそうだろうなと、その言葉を聞いて思わず笑みがこぼれた。

 賢者の石の力に晒されている間は、寿命はもとより疲弊とすらおさらばだ。ニニィの戦い方を目にしてきたから、そこのところは理解している。


「でも、賢者マギは殺されたんだろ」

「……?急に何の話だ」

「龍神の力さえあれば、突破は可能らしいって事だ」


 肉体から無理矢理石を引き剥がす事が出来る何かが、確かに()()

 だが、状況からしてニニィに今の龍神の力は通じず、時間切れによる決着となったのは明白。


「待て、僕は今……()()()()?」


 ニニィから離れた賢者の石の片割れは確かに己の手に収まった。だが、自分は今疲れている。

 つまり、賢者の石は誰も選んでいない。

 いや、そもそも石は(あるじ)を変えたのか?


「時間が来るまで預かってろ……って事か」


 それに思い至り、また口角が上がった。

 ニニィはまだ終わっていない。石が彼女に伝えた終わりの景色は、終わりでは無かった。


「ヘズさん、確か龍神を保護してるって話しましたよね」

「ああ、出せば良いんだな?」

「……わかりましたか?」

「お前の身体なら、それは可能だと考えている」


 次いでテオの肩に手を起き、勇者の力で出来る限りの治癒と強化を彼の身体に施した。


「だいぶマシになった……何分要る?」

「長くても一分あれば大丈夫、だと思います」

「んじゃ、それなりに長持ちするようにお祈りしとけよ」


 ブレスの連発はあちらも出来なかったようだが、代わりの追撃とばかりに頭上から撃ち下ろされる流星群。

 その尽くを、弾かれるようにして跳び上がって行ったテオが彗星の如きスピードで粉砕していく。

 チリチリと曇天の中で煌めく星の欠片が、夜空に消える花火のように儚く溶けてゆく。


「イリス……」

「どうだ。やれそうか」


 テオとカジムの戦いから視線を戻し、広間の床から押し出されるように現れた一頭のドラゴンに歩み寄り、プロテクターを剥がれたその額に手のひらを添える。


 ドラゴンはぐったりと力なく倒れ伏したまま微動だにしない。

 無理矢理な進化と自我を奪われて滅茶苦茶な戦闘を強要された結果か、以前見た時はまだ美しかったウロコには多くの生々しい傷が目立ち、呼吸も浅い。


 まだ生きてはいる。

 生きてはいるが……自分が守ることの出来なかった妹の痛々しい姿に胸が痛む。


「一人ぼっちにさせてごめんな……今、楽にしてやるから……」


 彼女の内側から確かに感じる龍脈に似た気配。

 龍神の力。


 それを吸い上げて己のものとする。

 この身は世界の始まりにあった原初の1に最も近い器だと、賢者マギの言ったことが正しいのであれば究極召喚の神の力をいくらでも束ねられるはず。


 果たして、その考えは間違っていなかったらしく、驚くほどにこの身体はイリスから吸い上げた龍神の力を受け容れ、腕には牙を模したような痣が浮かび上がった。

 それと共に龍神の力を失ったイリスの身体はみるみるうちに小さくなってゆき、40センチ程度の小型のドラゴン『水竜イリノア』にまで退化する。


 憶測でしか無いが、カジムによって無理矢理に目覚めさせられた龍神の力に耐えうるように、肉体の方が段階を飛ばした進化をせざるを得ない状態だったのだろう。それが今、本来あるべき身体の状態まで戻ったと。


「やれました。今なら勇者の力に加えて龍神の力も扱える」

「よくやった。お前の妹はこちらでもう一度預かって治療含めてやっておく」


 小さくなったイリスをヘズに預け、すぐに両足に力を込めて全力でジャンプ。

 ゴウゴウと空気を裂いていく音が耳に響き、一瞬にして遥か上空に居たカジムのすぐ目の前にまでたどり着く。


 そこではまだ耐えていたテオが刀で異形と化したカジムへと斬りかかり、カジムは鬱陶しそうに腕で防いでは振り払っていて、一瞬で現れたこちらに気付いた様子はまだ無く―――


「カジム!」


 右腕にぐっと力を込める。

 スローモーになった世界の中で驚愕の色に染まった彼の顔が振り返り。


「――目を逸らすな」


 ドラゴンと人間を混ぜたような異形のその顔面に、巨大なドラゴンの腕へと変形した拳がみしりとめり込んだ。




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