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生態系最底辺の魔物に転生しましたが、平和な生活目指して全力で生き残ります 〜最弱の両生類、進化を続けて最強の龍神へと至る〜  作者: 青蛙
最終章・永久の龍神

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龍神擬きは龍神の元へ



 カジムによって召喚された勇者は、彼から吹き込まれた『大義』の名の下に侵攻を始めた。


 その力は凄まじく、並大抵の戦士では相手にすらならず、勇名を馳せた猛者であっても小枝のように易々と斬り殺されるほど。


 彼の勇名を聞きつけて、エルフの世を築こうという考えを持った者、類稀なる才を持った召喚士による新たな世界を共に見たいと考えた召喚士達、召喚士が中心に立つ新たな世を創りたいと考えた者、あらゆる考えを持った人々がカジムの元へと集ってくる。


 その上、調和を司る神である勇者には、彼とともに戦う者に力を授けるという能力があり、それによって力を得たカジム率いるエルフの軍勢は凄まじい勢いで侵攻していった。


 だが、一つだけ。

 勇者はどれだけの戦士をその手に掛けようとも、戦う意志のない者に手を出すことだけは許さなかった。それは彼が調和の神であったからなのか。


 もし、戦う意志のない者を傷付けたり殺すようなことがあれば、味方のエルフであろうも容赦なく彼の剣の錆となる。



 カジムは、そんな勇者に苛立ちを覚えていた。

 彼が望むのは、彼から幸せと平和を奪った人類の撲滅。召喚士だけが生き残り、誰もが強きものとなれば、力を恐れて争うことなど起きなくなる。それが彼の考えだったからだ。


 ゆえに彼は戦士も、そうでない者も等しく殺したかった。だというのに、自身が召喚した勇者は必要のない情けを敵にかけて逃している。


 召喚士でもない愚かなエルフが彼に斬り殺されるのは心底どうでも良かったが、殺したい人間達を逃してしまう勇者が歯がゆくて仕方がない。


 勇者も、そんなカジムの内心に気付き始めていたのだろう。また、戦いの理由の根底には、大義でも何でもなく彼の私怨が眠っていたことにも。

 遂にヒュームの王族が待つ王都へと侵攻しようという時になって、勇者はカジムを裏切ってヒュームの側へとついてしまったのだ。



 カジム率いるエルフの軍勢、特に勇者を恐れて静観を保っていたスロゥプとドワーフの2種族は、この時こそが勝機であると同時に参戦。


 2種族の召喚士によって『聖獣』『ホムンクルス』の二柱の神が究極召喚され、勇者を含めた三柱の神を相手にすることとなったエルフの軍勢は大きな打撃を受けつつ、勝利を目前にして撤退を余儀なくされた。


 カジム達が一番最初に征服した土地。

 現代のマギステアにあたる場所まで撤退したカジム達は、最後の希望として『龍神』の召喚を行った。今度は勇者のように裏切られることが無いように、多くの召喚士達の力をもって、その心を封じ込めた状態で。


 心無い兵器として、使うことが出来るように。







「マギステアの地に要塞を気付いたカジム様は、勇者達の猛攻を抑え込む為にフランクラッド王都からマギステアまでの道程に力のある召喚士達を順々に配置しました。しかしそんな彼らの奮闘も虚しく、勇者達はマギステアに辿り着き、龍神を滅ぼしカジム様の野望を阻止したのです」


「…………『英雄セシルの伝説』か。マギステアの奴もそんな事を話していた」


 そこまで静かに聞いていたニニィが、ぽつりと呟いた。

 ニニィの呟きを耳にしたラトリアはゆっくりと頷く。


「ええ、そのとおりです。英雄セシル、彼はカジム様によって究極召喚された勇者でした。英雄セシルとその仲間たちによる怪物退治も、全て召喚士のパートナーである魔物との戦い。英雄セシルが生きながらにしてその身を大地へと捧げた事により今や全ての究極召喚が失われ、その力だけが世界に残るのみ」


「究極召喚は他の召喚士に引き継がれるんじゃあ無かったのかい?」


「はい、ですがこの世にエルフ以外の召喚士は残っていません。外の世界の記録には残されていないようですが、戦いが終わった後、たった一人で人類を滅ぼしかねない力を持った召喚士の力を恐れた人々によって、フランクラッドに残っていた全ての召喚士は滅ぼされました。歴史とは勝者のみが紡ぐもの。残っているエルフの召喚士も、争いを避けて海へと逃げ延びた紅樹の民と、隠れ里の私達ぐらいのものです」


「成る程、カジムを恐れた当の人類によって、カジムの考えが間違っていなかった事が証明された訳だ。だが、彼が殺しに走る原因となった事件については同情するが、そこから先の今へと続く奴の行いには同情しかねるね」


 ふと、彼女の傍らで獣人の少女が眉間にシワを寄せながら手元の珈琲を見つめていた。里から一人で逃げ出してきたという『龍神の巫女』の少女。おそらく珈琲の苦味にやられてあんな表情になったのだろう。


 こうして見れば、普通の少女も何ら変わりない。

 特別な力なんて、少しも持っているようには思えない。


 ニニィの手によって、獣人の少女が持っていた珈琲に角砂糖が落とされる。ぽちょんと柔らかな音を立てて落ちたそれは、銀のマドラーでくるくるとかき混ぜられて溶けていった。


「ミルクも足そうか」


「ミルク?」


「大丈夫、美味しくなるとも」


 珈琲と共に置かれていた小さな白磁の容器を指先でつまみ、そこから少女の持つ珈琲にミルクを垂らす。珈琲の渦に飲まれた白は螺旋を描きながら混ざり合っていく。


 そんな様子に目を輝かせている少女を見て、ふと隣のラトリアが目を伏せたのに気が付いた。


「そうですね………本当に」


「ラトリア殿……?」


 それは先程のニニィの言葉への返答。

 彼の目的のために、幼い少女を閉じ込め続けてきた事への後悔なのか。


「そういえば、龍神の巫女については我々も詳しくは知らないのだが。ラトリア殿はなにか知っておられるので?」


「オルステッドさん、それは」


「フゥン……私もそれは気になっていたところだね。貴女の話からすると、龍神を呼び出したのは究極召喚を持つ召喚士らしいじゃないか。なのに、何故『龍神の巫女』なんてものが必要になる? この子を拐うために随分と大切そうな手駒を二人も消費するあたり、相当に大切なのだろう?」


 私もあの場所に居た時から感じていた違和感。

 彼女の言う通り、先程までラトリア殿が話していた内容が正しいのであれば、龍神をコントロールする為には召喚士の力があれば良いだけのはずだ。

 龍神の召喚についても同様。エルフの召喚士が生き残っていながら、龍神を召喚ではなくわざわざ捕獲しに行くという事に理由がつかない。


 ニニィは真剣な眼差しでラトリアへと話し掛けた。やはりラトリアは何か知っているのか、沈痛な面持ちのまま顔を伏せる。


「正直、私は協力しても良いと思っている。今の一番の目的はセシル……君たちは龍神擬きと呼んでいたかな、彼と再会する事だが、この子が生きる未来に平和な世界を残してやりたいからね。だが、最低限の見返り……というよりは誠意として知っていることは全て教えてくれ給えよ」


「ニニィ、さん……そう、ですよね。巫女様の事も、話しておくべき、ですよね」


 ふと見下ろした先にあった彼女の指が、震えながら自身の膝あたりを叩いていた。目の前で自分を見つめる死ねずのニニィではなく、記憶の中にある何かに恐怖しているように。押さえつけるように、忙しなく。


 と、その時だった。

 自分が展開していた結界が何者かに魔力的な干渉を受けたのを感じ、咄嗟に立ち上がって殺気を感じた方向へとレイピアを抜き放った。


 殺気を感じたのは店の外。

 視線を向けたその先には、見上げるほど背の高い巨躯の騎士が1人ぽつんと道に立ち、じっと此方を見詰めている。


「………オルステッド殿、追手を撒ききれなかったのか?」


「いえ、私達には追手など差し向けられていなかったはずです。里の警備が薄くなっていた時に出てきましたから」


「だとすると……まさか!寄生体除去(バラーカ・クゾナ)!」


 突然、背後で何かが甲高い声で『ギィ!』と鳴き、ぐちゃりと潰れるような音がした。


「チィ……追跡系の魔法を解除して安心していた私が馬鹿だった。まさかセレスに魔物を寄生させて追跡していたとは……あの場に私に気付かれることなく召喚士を潜ませていたとは驚いた」


「げえ、マジかよあいつ【アイオーン】じゃん。大人しくマギステアに向かわせとけよな……なあオルステッド、敵1人だけって訳じゃないだろ?」


「私が見つけたのは……4人。既に他の【アイオーン】が二人がかりでやられてるんだ、アイオーンほどじゃ無いにしても腕の立つ奴が少なくとも10人はいるだろう。クソ、参ったな、どうにかしてやり過ごして逃げ切れないものか」


 今のところ結界が効力を発揮している為に、こうして武器を抜いていても周囲で寛いでいる人々は気付かずにいる。

 相手の騎士、『右龍腕のグレイズ』も攻撃をしてくる様子は無い。先程の殺気もあくまで此方に存在を伝える為のものであり、出てくるまで相手をするつもりは無いようだ。


「今回のは私の不注意が原因だ。私が全て片付ける」


「しかし、周囲への被害は」


「問題ない。どうせ逃げることも出来ないんだ、だったら全員潰した方が安全で早く終わる」


 額にじわりと汗が滲む。

 流石に世界最強の一角とはいえ、ヒヒイロカネ等級の冒険者にも匹敵すると言われるアイオーンの連中を二人も相手にして、ただで済むはずが無い。


 周囲の人々や龍神の巫女を守りながらどうやってこの場を離脱するか。必死に思考を巡らせていた次の瞬間――


「これ以上、私に喪わせないでくれよ」


―――景色が、弾けた。














『私は聖獣マアトの人間態、名をイリスといいます』

『そして、私はホムンクルスのマギ、と』


 白く清い布を身に纏った青い髪の女性と、魔術師のような格好をして布で顔を隠した男が静かに頭を下げる。


 ついにその顔を見ることが出来た青い髪の女性。

 その素顔には、見覚えがあった。


「(………母さんも)」


 おそらく、人間だった頃の意識は無い。

 自分もそうだった。

 この世界に生まれ落ちて、自我を得た時には過去の自分の記憶をほとんど失っていた。


 だが、その顔には確かに若い頃の母の面影があった。


『勇者セシルだ。二人共、宜しく頼む』


 こちらも、きっとまだ記憶は無い。

 イリスの顔を見てわずかに反応したが、反応したそれが何だったかまでは思考が至らなかったように見えた。


 互いに握手を交わした勇者とその仲間達。

 ふと、勇者セシルがマギへと視線を向ける。


『そういえば、君は顔を隠しているようだが』

『私ですか』


 マギはそう言うとぺらりと布をめくる。

 めくられた布の先には、のっぺりとした肌色しかなかった。


『なっ!?それは、いったい……?』

『私の依代となるべき身体は既に無く、遥か遠く未来へ』


 驚く二人を他所に、およそ人としての感情を感じさせないマギは口のない顔から音だけを発し続ける。


『始めに伝えておきましょう。此度の戦いでは決着こそ付けど、火種は消えず。我等は戦いに勝利すれど、野望には勝てず。遥か未来の一つの光に全てを託すことになると』






「―――――さん、―――さん、セシルさん!」


「ぅあっ、はい?!」


「大丈夫ですか……うなされてましたけど」


 ウィニアさんに身体を揺らされて目を覚ました。

 どうやら夢を見ていたらしい。


「大丈夫です。すみません、心配をかけて」


「大丈夫なら良かったです。ところで、そろそろ目的の村に到着するみたいですよ」


「ラタの村、ですか」


 今、自分達はレインツィアを出発して、話に聞いたラタの村へとゆく馬車に乗り込んでいた。


 ラタの村。小さなイノリだった頃の僕を助けてくれたランド少年と、妹のイリスが住んでいたかもしれない村。


 現在は盗賊団に襲われて廃村になってしまったと聞いたが、故郷の村である可能性は捨てきれず、確認のために向かうことを決めていたのだ。


 正直なところ、故郷の村ではあってほしくないというのが本音だ。当然、大切な二人には生きていて欲しい。


 カティアさんからは行くのはやめたほうが良いとは言われていたが、不安を払拭するためにも自分の目で見てどうしても確かめておきたかった。


「まもなくラタの村跡地ですよ。現在は王国兵士団が調査に立ち入ってますんで、中に入る場合は兵士団の許可を取って下さいね」


 馬車を走らせる御者が客に向けて大きな声でそう伝える。


 馬車が向かう先をじっと見つめたその先に、ボロボロになった村の門が見えてきていた。




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