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生態系最底辺の魔物に転生しましたが、平和な生活目指して全力で生き残ります 〜最弱の両生類、進化を続けて最強の龍神へと至る〜  作者: 青蛙
最終章・永久の龍神

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英雄セシルとの邂逅



 宣言通りウィニアさんは神殿に寝泊まりするらしく、必要最低限の寝具を二人分運び込んできた。


 鼻歌交じりに僕の為の薬も続々と運び込んできて、なんとも楽しそうな様子だ。


 やけに機嫌が良いのは彼女だけじゃない。

 村のエルフの人々もまた、僕がここに居ると聞いてか、沢山の魚や肉、果物などを捧げ物だと言って嬉しそうに持ってきた。


 せっかく色々と貰ったのに、何も返すものが無くて困っていたのだが、ふと、あるものを思い出す。


 この身体、両生類と爬虫類の中間のようなものなのか、時々脱皮を繰り返して成長しているのだが、そのさいに脱皮殻が出来るのだ。しかも脱皮殻というよりは鱗っぽいやつが。

 これが中々に硬く、しかも見た目も虹色に光を反射させる藍色で綺麗だったので記念に取っておいたのだが、いかんせん量が多くて荷物入れのブローチに結構な数があった。


 いろいろな物を貰ったお返しにと、その脱皮殻の鱗をあげてみると、これが大変喜ばれた。

 龍神様のありがたい鱗だと彼らは大喜びし、結構な量があった脱皮殻もだいぶ減った。

 途中、ウィニアも物欲しそうに見ていたので、彼女にもあげると、その鱗を両手で捧げ持ちながら大喜び。


 そんなもので良かったのかと思う反面、喜んでくれた事が僕もとても嬉しく思った。




 一方、妹のメルゥちゃんはと言うと、パートナーのイノリと水辺で戯れていた。


 そんなわけで、僕は今、そんなメルゥちゃんが足でも滑らせて溺れたらいけないと思い、神殿内の海水の池につかり、その様子を見守っている。


『(気持ちいいな、この水)』


 この神殿の池。

 僕が浸かっていると、自然と魔力が体内に流れ込んできて身体を癒やしてくれている。


 感覚としては、僕がマギステアの地で急成長をしたあの二回の瞬間とよく似ている。


 やはり龍脈の力が関係していそうなのだが、どうにも引っかかる点もあるのだ。


 それは、魔力の量があれらと比べるとかなり薄く、少ないと言うこと。

 魔力の質自体はとても似ているのだけど、その点で龍脈と関係はあっても、直接繋がっているわけではなさそうだと考える。


 もし、龍脈の力が過去、英雄セシルと戦ったという龍神アイオーンに由来するものだったのであれば、もしかしたら。





『それにしても、お姉ちゃんは龍神様が好きなんだね』

「……龍神様が、それを言うの?」

『はは……あんまり自覚なくてね』


 メルゥちゃんとも、少しずつ打ち解けてきた。


 恐る恐るといった彼女の様子は変わらないが、こちらから話しかければ彼女もちゃんと返事をしてくれる。

 まあまあ良い傾向だ。


「……お姉ちゃんは、龍神様にあこがれてるの」

『憧れてる?』

「うん。だから、私がこの子を召喚したとき、すごく喜んでくれた」


 彼女がそう言うと、ぴちゃぴちゃと水面を優雅に泳いでいた彼女のイノリがこちらを見上げた。


 昔の自分はあんなにも小さかったのだなと、しみじみと感じる。

 弟妹たちと共に、厳しくも暖かい自然界で暮らしていた頃が、ふと懐かしくなった。


『でも、僕は龍神は悪いものだと聞いたんだ』

「そう、龍神様は悪いことをしたよ。……でも龍神様はわるくないの。わるいのは、龍神様を騙した魔王なの」

『魔王が、龍神を騙した?』


 それは初耳だ。

 龍神アイオーンは、魔王によって召喚され、そして英雄セシルと戦ったと……。


『(待て、魔王によって()()()()()?)』


 ふと、気がついた。

 あの物語には、龍神アイオーンは魔王によって召喚されたと書かれていた事に。


『魔王は、召喚士だったのか』

「……? よくわからない。けど、お姉ちゃんは、わたしたち召喚士を守ろうとしてくれた龍神様に、あこがれてる。自分も、いつか強くなって龍神様のようにだれかを守れるようになりたいって」

『ウィニアさんが……』


 ふと、彼女の方を見ると、彼女もこちらの視線に気が付いてニコニコと笑顔を振りまきながら手を振ってきた。


 太陽のような笑顔が目に眩しい。


 僕は、彼女とも話がしたいと思い、ウィニアさんの方へと泳いで、話し掛けた。


「龍神様、何かご用で?」

『いや、ただ話したいだけだよ。ウィニアさんの事を知りたくて』

「私の事ですか? えへへ……私のこと聞いたって、面白くないですよ」

『僕が聞きたいと思ったんです』

「……仕方ないですねえ。少しだけですよ?」


 そう言って、彼女は恥ずかしそうに笑う。

 彼女のような明るい女性に出会うのは、この世界に転生してから初めてだ。


 だから、そんな仕草の一つ一つが新鮮に感じられた。


『ウィニアさんは、龍神様に憧れていると聞いたのですけど……どうして、憧れるようになったんです?』

「龍神様にそれを聞かれるのって、不思議な気分ですね。まあでも、話しましょう」


 彼女は池のへりに腰をおろして、足を水に浸からせた。

 そして、ふと神殿の天井。その先を見上げながら口を開く。


「私のパートナーは、鳥の魔物だったんです。大空を自由に飛べる鳥。小さい頃、私はパートナーの足につかまって、空を飛び回っていたんです。でも、そんなある日、森の中に私とパートナーは落っこちてしまいました」

『子供が森で一人きり。魔物の仲間が居ても、危ないですね』

「そう!案の定、私は魔物に襲われたんですよ。あの時はホントに死ぬかと思いました。でも村長のオルドランドが来てくれて助けられて……そのあと、村長から龍神様の話を聞いたんです。ずっと昔、自分の命も顧みずに人々を守るために戦った龍神様の話を」


 空に向けて手をのばす彼女。

 それは、今日死んでしまったパートナーを探しているようで……


「今日、あの子との絆は途切れました。だから、私はまた新しいパートナーを召喚をする。でも、私とあの子の目指した理想は潰えたんです」

『間に合わなくて、ごめん……』

「いやいや、龍神様。龍神様のおかげで私と妹は助かったんですから。今度は、私があの子の夢を新しいパートナーと引き継いでいくんです。一人と一匹の夢が、一人と二匹の夢になるんですよ。しかも、貴方という新しい龍神様に出会えた」

『僕は……』


 本当は龍神なんかじゃない。

 中身が人間だと言うだけの魔物なんだと言おうとして、やっぱり、やめた。


『僕も、君に出会えて良かった』

「へへへ、そうですか? もっと言ってください!」

『うん。君に出会えて本当に良かった。君のおかげで、僕が進むべき選択がはっきりしたよ』


 やることは、きっと何も変わらない。


 僕は魔物として、人として、大切な人を守り、そしてできる範囲で人々を理不尽な死から守る。


 形だけのまがい物でもいい。

 やっと、僕は龍神になろうと、そう思った。









「龍神様、おやすみなさい!」

「おやすみ、なさい……」


『ふたりとも、おやすみ』


 夜、寝る時間になり、姉妹は寝袋にすぽんと収まった。


 あれから、ウィニアにオラクルの戦いの傷が残っていたところに薬を塗ってもらったり、また变化魔法の特訓をしたりしていた。


 小さくなったり大きくなったりを繰り返す僕を見て、ウィニアが何をしているのかと聞いてきたので「人に化けられる魔法の練習をしている」と言えば、「人の姿をとってまで、人と共にあろうとするのですね!さすが龍神様です!」と謎に褒められてしまった。


 結局のところ、变化魔法も自分の為でしかないのだから、褒められるような点なんて無いはずなのだが。


『僕も寝るか……』


 池に身体を浮かべ、ぐるりと身体を丸める。

 流れ込む魔力に身を委ねながら、僕は暗い意識の海に落ちていった。







 ここは、どこだろう?


 気付いたときには、見知らぬ場所に僕はいた。


 爽やかな草原の丘。


 ベンチに誰か腰掛けている。


 ぼんやりとした意識の中、誰かが「ひさしぶり」なんて言いながら手を振っている。


「父さん……?」


「ああ。久し振り、(なぎさ)。今は父さんと同じで、セシルだったかな」


 英雄セシル。


 ずっと昔に死んだはずの父さんが、そこに居た。




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