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生態系最底辺の魔物に転生しましたが、平和な生活目指して全力で生き残ります 〜最弱の両生類、進化を続けて最強の龍神へと至る〜  作者: 青蛙
最終章・永久の龍神

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52/90

溟渤龍、央海をゆく

最終章だけど新キャラは出ます




◆◆◆◆◆



 水面はそよぐ木々の如く揺れ動き、陽の光は網目状の影に割かれながらこの水中に降り注ぐ。


 小魚が群れを成して色とりどりのサンゴ礁を泳いでゆき、岩陰からはゴムのような皮膚をしたウツボが恐る恐るといった様子で顔を覗かせていた。


『のどかだな』


 久方ぶりの水中暮らし。

 いつまでも陸上にいては目立つだろうと水に潜ったが、これはこれでやはり落ち着く。


 仲間が誰一人としていない寂しさはつのるが、この美しい景色を眺め続けているのも悪くはない。そんな気分だった。


 とはいえ、自分には帰るべき場所がある。

 はるか遠くになってしまった故郷。ずっと西へと進み、陸へと上がった更に先にある懐かしの水田。


 僕は、妹のイリスが待つあの村に帰らなければならない。

 否、帰りたかった。


 あの戦いでニニィとセレスの二人とも離れ離れになってしまい、彼女たちが今どこにいるのか、どこへ行こうとしているのかもわからない。


 けれど、もしかしたら最初の予定通りに僕の故郷を探してフランクラッド王国へと入るのではないかという考えもあった。


 だから、あの村に帰ればもしかしたら妹だけでなく彼女達に再開できるかもしれないという、淡い希望が自分の中にあったのだ。


『あと、少しなんだ。そうしたら僕も陸で、一人で旅を続けられる』


 ニニィから貰った魔法の本。

 道具をしまっておけるブローチの中に入っていたそれで、僕は一人になったあとも魔法を学び続けていた。


 学ぶのは、戦いには一切関係ない『变化魔法』。

 この魔法を覚えて人の姿をとることが出来るようになれば、たとえ人の街に出ても魔物だと怖がられることも、襲われる危険もなくなる。


 一人で旅を続けるなら、必須の魔法だった。


 昨日、陸で練習していた時には、身体が少しずつ小さくなり始めたところまでは行ったのだ。


 だが、どうしても人の形を取ることが出来ない。自分は人だったのだから、人の身体がどういうものであったかはよく知っているはずなのに、なぜだか身体の形成をする事が出来ないのだ。


『とりあえず、そろそろ移動を始めたほうが良いかな』


 今はまだ人の姿になることは出来ない。


 だけど、出来るまでここでのんびりしていたら、ニニィ達と再会出来なくなってしまうかもしれない。


 それに、ドラゴンになった僕はともかく、イノリのままだろう妹の事を思うと、寿命だってそう長くはないだろう事が考えられて、早く彼女の元に戻りたい気持ちもある。



 海底からむくりと起き上がれば、白い砂が煙のようにぶわりと巻き上がる。


 周囲を揺蕩っていたクラゲや、僕の鱗をつついていた魚達、大きな魚から守ってもらおうとしてか集まってきていた小魚の群れが散り散りになって離れていく。


 そうして、この央海からフランクラッドの地を目指して移動を始めようとしたその時だった。


『ん、なんだ……?』


 僕の聴覚が、異音を察知した。


 ボートが走っているような音。

 少女のような泣き声。

 大人の女性の叫ぶ声。


 そして、地の底から這い出してきたような不気味な重低音。



 少女と大人の女性という組み合わせが、ニニィとセレスの二人を連想させたからかもしれない。


 僕はいったん自分の目的を中止して、その音がきこえた方向へと一直線に泳ぎだした。







◆◆◆◆◆




「P.P.P……oooOOooOoo!!?!」


 機械音声を混ぜ合わせ、不気味に編集しなおしたような奇妙な鳴き声。


 巨大な半透明の影が、海面を裂きながら恐ろしいほどのスピードで小舟を追い掛けていた。


「くっ!なんでこんな近海に()()がいる!?」

「うえぇえぇ!ひっく……ひっ……」

「泣くなメルゥ!村の近くまで行けば、長老の『死水龍オルドランド』が助けてくれる!」

「お、おねえぢゃ……うう、ひっく」


 小舟を駆るのは、小麦色の肌をした背の高い女性。

 身体つきはいくらかがっしりとしたものだったが、その細く長い耳が、彼女がエルフである事を示していた。



「ooOOONNoM……P.PPp.P.P!!」


 彼女の水魔法によって小舟はかなりのスピードが出ていたが、それでも背後から迫る巨大な魔物のスピードには勝てず、段々とその距離を詰められていく。


 水面から顔を出しつつあるその半透明の魔物は、顔のように見える体内の発光体を激しく明滅させて、獲物と定めた二人を威嚇していた。


 村までゆけば助けを求められるが、このままでは村に到着する前に追い付かれ、二人共喰い殺されてしまうだろう。


 エルフの女性はそれでも最後まで諦めないつもりだったが、その顔には僅かな諦めの色が浮かんできていた。出力を限界まで上げて小舟を走らせていた事で、彼女の魔力も限界に近付きつつあるのだ。



 あと少しで追い付かれてしまう、その時だった。



 突如として、魔物の背後の海がざっくりと裂けた。


「……なっ、あれは!?」


 青色の蛍光色を光を放ちながら現れるのは、玉虫色にその身を変色させた巨大なドラゴン。


「フルルゥ゛……オオォォオ゛オ゛ッッッ!!」


「P.P.PpPppppppppp!?」


 ドラゴンは二人を守るように、半透明の魔物へと襲い掛かった。



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