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生態系最底辺の魔物に転生しましたが、平和な生活目指して全力で生き残ります 〜最弱の両生類、進化を続けて最強の龍神へと至る〜  作者: 青蛙
第一章・産まれ落ちた小さな命

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平和、崩壊

本日2回目の投稿です





 しばらくの間、僕が狩りをして兄妹たちの生活をつないでいくような暮らしをしていた。一応自分と同じぐらいに成長している弟妹の一部が狩りを手伝ってくれたりしているが、天敵に襲われる不安もあり活動は消極的だ。


 やはりと言うか、自分たちの種族はとても弱いようなのだ。


 あの巻き貝の電撃のようなこれといった武器もなく、皮膚は柔らかく動きもとろい。それなりに身体が大きく、強い生き物からすれば格好の餌だ。


『でも、平和だな』


 小さかった弟妹たちも成長してきたが、未だにみんなで集まって過ごしていることが多い。弟妹たちとはずいぶん長く一緒に過ごしてきたから、人相手ではないとはいえだいぶ愛着も湧いている。


 こうして集まって身体を寄せ合っていると、互いの心音が水を通して伝わり合って安心してくる。


 人じゃなくても、言葉が通じなくても、やっぱり家族なんだなと実感する。

 イモリのような謎生物になってしまってから暫く経ったが、命の危険はありつつもささやかな幸せを感じてきていた。


『ふわぁ……今日はゆっくり休むかな』


 葉と葉の隙間からわずかに射し込む陽の光を浴びながら、ぼんやりと水中を眺める。昨日は結構な量の餌にありつけたから、今日一日ぐらいは休んでいても平気だろう。


 上を見れば、水草の葉に大きな影もできている。


 いつもの電気を放つ巻き貝だ。時折こうして近くまでやってくる事があり、彼が来ていると大型の魚も寄ってきにくくなるので安心していられる。


『平和、だなぁ』


 肌を撫でる水の流れも心地良く、水面から射し込む光は水晶のよう。


 厳しい自然界の最中にいると言うのに、そんな光景を見ていると穏やかな気持ちになってくる。


 ぼうっと景色を眺めていると、隣で寝ていた妹(少し観察してみたが、おそらくメスだと思われる)がピクリと身じろぎした。普段はおとなしい性格で、あまり自分から動くような事がない子だから、少し気になってそちらを見た。


『どうしたの? 何かあった?』


 妹はどうにも落ち着かないようで、そわそわとあたりを見渡している。他の弟妹もそうなのかと周囲の様子を確認してみたが、そわそわと動いているのは妹だけだ。


『もしかして、何かに気付いたの?』


 ちょいちょいと身体をつついてみるが、相変わらず落ち着かない様子であたりを見回している。どうにも心ここにあらずといった雰囲気だ。


 明らかにおかしい。

 普段はこんな事は無いのに。


 ピリリと全身に緊張が走る。


 他の弟妹達に変わった様子はないが、警戒するに越したことは無いはずだ。一旦弟妹たちの団子から抜け出し、水草の茎を伝って上へと登り様子を伺う。


 水草の上の方は影で見たとおりに電撃巻き貝が葉の上で休んでおり、水は穏やかな流れを見せている。


 ただ、少し普段よりも小魚の泳いでいる数が少ないように感じる。いつもなら水面近くを群れを成して泳いでいるメダカのような小魚の群れが見当たらないのだ。


『逃げたのか? それとも、まさか』


 嫌な予感に身体がぶるりと震える。

 つい先程まで穏やかだったのに、今は身体の芯まで冷えるような気持ちだった。


 あたりはしんと静まり返り、ただ水の流れる音だけが鼓膜を震わせる。不安で縮こまった胸の奥を震わせるように、水音が通り抜けてゆく。





 ()()が訪れたのは、あまりにも唐突だった。


 自分を覆い尽くす影。

 悠々と、我が物顔で泳ぐその巨大な魚は、今までこの辺りでは見たことがなかった。


『な、なんだあいつ』


 例えるなら、デボン紀の硬骨魚類の見た目が一番近い。


 おそらく、体長は自分の6倍はある。


 エラのあたりから頭部にかけて覆うように甲殻があり、そのアゴはどんなに硬いものでも噛み砕けるように大きく発達している。


 口の隙間からのぞく歯は分厚く、そしてクチバシのように鋭かった。


『まずい、こっちにくる!』


 ぐるりと泳ぐ方向を変え、こちらに向けて一直線に突進してくる魚。とっさの判断で葉の上を転がり回避するが、あたりには血の匂いが舞っていた。


『電撃巻き貝さん!』


 襲われたのは僕ではなかった。

 すぐ近くの葉の上にいた巻き貝の姿は消えて、かわりにあたりには砕かれた貝殻の破片と体液が漂っていた。


 素早く周囲を確認すれば、あの魚が口元から電撃を迸らせながら巻き貝を噛み砕いているところだった。


 なんという生き物だ。魚一匹、簡単に丸焦げに出来るほどの威力を持つ巻き貝の電撃を、まるで効いていない様子でバリバリと噛み砕いている。


『つよ、すぎる……』


 一瞬、頭の中が真っ白になる。


 こんな時、どうすればいい?

 もう自分は助からないんじゃないか?


 絶望的な状況に、悪い予感は浮かんできても解決策を考える余裕が無くなっていた。


 そうこうしている内に、魚はあっと言う間に巻き貝を喰らい尽くし、こちらにその大きな目玉をぎょろりと向けてきた。


『……あ、あ』


 ただ、後ずさることしかできない。

 今、命の危機に晒されているという恐怖がなによりも大きな感情の波となり、他の思考や感情を全て打ち消してしまっていた。



 だが、魚はこちらからふいと視線を外した。



 魚は視線を少し下に向け、ゆったりと方向転換を行う。

 わけがわからない。なぜ目の前に獲物がいるのに、わざわざ注意をそらすような事をするのか。


『……は、しまった!』


 生命の危機から一瞬開放された事で出来た心の余裕が、僕を冷静にさせた。視線の先にあるのは、間違いない、僕の弟妹たちだ。大切な、家族だ。


 それが今、狙われている。


『さ、させるかっ!』


 家族たちへと向けて突進を始める魚。

 危機に気が付いているのはあの妹だけだ。


 今、自分が立ち向かったところで意味なんてない。簡単に負けて、すぐに食べられるだけ。

 だけど、それで家族の命を少しでも助けられるなら、迷いは無かった。


―――ゴボッ!ゴボボッ!


『うおおおっ!』


 水面をはたき、激しく泡立てながら突っ込んでくる魚の横っ腹に向けて、全力の体当たりをおみまいしてやる。


 その瞬間、全身に力が漲り、身体が肥大化していくような生命の滾りを感じる。


―――ドンッ!


「!? !!」

『負けるかあああっ!』


 僅かに、しかし確かに魚の軌道がずれた。

 驚愕したような奴の瞳に自分の姿が映る。


 その姿は、今までの自分の姿とは大きく変化していた。


 黒く柔らかかった皮膚は、若干青みがかったウロコ状に。

 肉球のようにやわらかく、頼りなかった手の指先には小さいながらも鋭い爪が。

 そして身体の大きさもかなり大きくなり、他の兄妹たちと比べて1.5倍ほどの大きさに成長していた。


『進化、した!? でも、これなら!』


 泳ぐスピードも上がっている。

 今までの自分であれば出来なかったが、今なら少しは奴に対抗することも出来るはず。家族たちのもとへとは行かせないようにと、魚へと踊りかかった。


「●■▲!!!◆◆▶!?」

『い、かせる、かぁああぁぁ!』


 比較的皮膚の薄いだろう胴体に組み付き、両手の爪を深く突き刺す。短い爪だが、しっかり突き刺せば傷にならないこともない。


 突き刺した状態で暴れまわる魚にしがみつき、ひっかき傷をのばして傷口を広げていく。


 強くなったとはいえ、僕には電撃を出したりなんて特別な力はない。だけど、家族のため、帰る場所を守るために必死にくらいつく。


 ここで自分が負けたら、みんな死んでしまうから。


『みんな、逃げてくれえぇ!』


 必死に叫んだって、人間の言葉は出てこない。

 口から声にならない叫びが零れ出るだけだ。


 けれどその声にならない叫びは確かに届いた。

 妹をはじめとして、危機に気づいた弟妹たちから散り散りに逃げ始めたのだ。


 きっと僕はこの化け物を抑えきれない。だから、弟妹たち全員を守ることはきっと出来ない。


 だけどあのように分散して逃げてくれれば、生き残ってくれる弟妹は必ずいるはずだ。


「▲▲▶■ッッ!!」

『う、あっ』


 魚の抵抗は激しさを増し、水中は魚の傷口から溢れ出てきた血で赤黒く濁り始めた。

 それなりに出血しているだろうに、魚の体力は底をつくどころか力強さを増していく。


「●●■◆ッッ!」

『ぐ、ぎゃあっ!』


 そして、遂に引っ掛けていた爪も外れ、耐えきれなくなって吹き飛ばされてしまった。


 魚の暴走はそれでも止まらず、力強い尾びれに全身をはたかれた僕は小石のように吹き飛ばされて水底へと沈んでいく。


 あまりにも、強すぎる。

 今の一撃を受けただけで骨が数本逝った気がする。


 これまで感じたことのないほどの激痛が全身を包み、手足・尾全てに力が入らなくなってしまった。


『みん、な』


 ぼんやりと靄のかかった視界に暴れまわる魚の影が見える。


 散り散りになった家族達が、水底に潜んでいたカエル達に襲われていた。


 そして、血が、水を濁らせる。


 頼む、生き残ってくれ。

 僕の闘いを無駄にしないでくれ。


『………』

『あれ……だ、れ』


 動けなくなって水底に横たわっていた僕に誰かが近付いてくる。

 それは、いつも僕の隣りにいてくれた妹だった。こんな時まで、ずいぶんと兄のことを気にかけてくれる。心優しい妹だ。


 でも、僕の方に来ちゃいけない。

 視界の端に見えた。あの化け物が、僕を食い殺そうと向かってきている。


『逃げて、くれ。頼むか、ら』

『………』


 そう頼むけれど。言葉は相変わらず通じない。

 妹は何か反応する事もなく、静かに僕に寄り添った。


 あの化け物が迫ってきている。

 短かったけど、これで僕の二度目の命も終わりかと目を瞑る。


 けど、家族と共に終われるならそれも一つの幸せだろうかと、なんとなく諦めのような気持ちすら湧いてきた。


 そして遂に食べられようという、その瞬間だった。


――ザバッッ!


 水面から巨大な人間の手が伸びてきて、僕と妹をゆっくりと拾い上げた。


 少し熱かったが、その手付きは優しく、水から引き揚げられるとすぐにまた冷たい水の中へと降ろされる。


「『イノリ』、捕まえた!」





【ニグレオビス】

 今回主人公達を襲った、頭部が頑丈な甲殻で覆われた魚類の魔物。体長はおよそ48センチ。見た目は『こちら側の世界』における『ダンクルオステウス』を小さくしたような姿をしており、自分より小さな生き物ならなんでも食べる。魔力には乏しいが、魔法への高い耐性を持ち、大変頑健。ちなみに、本来は主人公の住んでいる地域には生息していない魔物である。

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