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生態系最底辺の魔物に転生しましたが、平和な生活目指して全力で生き残ります 〜最弱の両生類、進化を続けて最強の龍神へと至る〜  作者: 青蛙
第三章・聖なる獣と邪なる龍の伝説

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第四聖天、出陣





「私を雇うのか。一応言っておくが、ハッキリと相手の決まった内容じゃなく、傭兵として雇うって言うのなら私は高くつくぞ。それでも良いのか?」

「構わねえ。今、明日一日あんたを雇う為に800万セリオン用意してある。相手の規模も強さもわからないから頼んでるんだぜ。大枚はたいたって、安全と確実性を取りたいんだ。他の仲間にもあんたを雇おうと考えてるって事は伝えてあるから、大丈夫だ」

「ふぅん……」


 覚悟の決まった目でそう言った彼に、ニニィは軽く頷くと思案を始めた。

 こちらとて、既に彼の依頼に巻き込まれるような形になっているのだ。少女の事は色々とまたラバルトと話し合わなければならなそうだが。


『どうする、ニニィ?』

『どう……とは言え、なあ。()()()の事もあるだろう。正直、ラバルトの言っていた冒険者と獣人族の団体に預けるのも私はやめたほうが良いと考えている』

『この子を一人にはしたくないよね……今は僕らがいるから落ち着いているけど、一人にしたらどうなるものか』

『キミの言うとおりだよ。私もこの子を一人にしたくは無い。だが、それで拐われた子たちを見捨てるというのも、あまりねぇ』

『ニニィ……』


 前から思っていたが、彼女は人付き合いが苦手な癖に、人に優しくあろうとする。彼女の事を見ていればわかる。元来、善良な性格をしているのだろう。

 まあ、よほどの物好きで、世話焼きでなければ僕の事なんて気にもしないだろうとは思っていたからわかってはいたが。



 僕は、彼女の目をじっと見つめた。

 彼女のガーネットの瞳の奥に、僕の姿が小さく映る。


『ニニィ、彼女の事は僕に任せて。何かあっても、僕がどうにかするから』

『キミに……? 頼んでも、いいのかい?』


 少し驚いたように、彼女の目が見開かれる。


 まさか僕がそんな事を言い出すとは、などと思っていたのか、彼女が動揺した様子を僕に見せたのは初めてだった。


『いや、まさか……セシル、キミに助けて貰うなんて考えは思い浮かばなかった。そうか、キミも一人で戦えるようになっていたか』

『ニニィは強いからね。僕なんか、ニニィの足元にも届かない。だけど、僕もニニィの力になりたいんだ』

『……ンフフ。ンフフフ……そうか、そうかそうか。私も耄碌したかもしれないねぇ。だけど、そうだね、頼んでも良いのならキミに任せても良いかい?』

『ああ、任せて!』


 僕は彼女に力強く頷いた。

 彼女の口角が僅かに上がり、頬がほんのりと赤く染まった。


『良いね。こういうやり取りも』


 彼女のそんな心の呟きが、繋がりあった魔力を通って伝わってくる。


「良いだろう。ラバルト・ヘルムート、その依頼受けよう。明日の朝一に下の受付で私を傭兵に雇う申請を出すと良い」

「っ、本当か! ありがたい、あんたが居れば安心だ!」

「正式に依頼を受けるんだ、明日は最初から最後まで本気でやらせて貰うよ」


 テーブルを挟んで、二人の間で握手が交わされる。

 この瞬間、オラクルに潜んでいるグリセントファミリーの構成員達の命運は、完全に尽きた。








◆◆◆◆◆◆◆




 マギステア聖国、首都『マギスタリア』。

 この国を動かしている中枢たる中央教会は、街のシンボルとして中央に高くそびえ立っていた。


 その中央教会の大広間。

 国のトップである教皇との謁見の場に、6人の騎士が集められていた。


「シェアト聖下。六大聖天、総員参上しました」


 六大聖天。

 聖堂騎士団をまとめる6人の騎士であり、同時にマギステアで最強の6人の戦士でもある。一人一人が一騎当千の力を持ち、特定の隊を率いる事は無く個々で任務にあたっている戦闘のエキスパート。


 その内の一人、翼の紋章が描かれたマントを羽織った騎士がそう言うと同時に他の5人の騎士も深く礼をする。

 6人の騎士の先には、複雑な装飾があしらわれた祭服を身に纏った老人が一本の杖を片手に立っていた。


「皆の者、此度は緊急の招集だったにも関わらず、よくぞ集まってくれた。それぞれ重要な任務にあたってくれていた所、呼び戻したのには訳がある。事は急を要するのだ」


 老人はそう言うと、持っていた杖で床をドンと強く叩く。すると、6人の騎士と老人との間の頭上に、一匹の魔物と一人の人間の姿が光で立体的に映し出される。


 魔物は『水竜イリノア』。大きめの個体で、魔物だというのにその顔は何処か人間のような知性を感じさせる。

 そして人間の方は、若く美しい女性。一見すると、争いとはまるで関わりなど無いような姿をしているが、戦いの世界にある程度携わっている者ならばそれが誰か知っている。


「『死ねずのニニィ』!?……なぜマギステアに」


 頭上に映し出されたそれを見て、牙の紋章が描かれたマントを羽織った騎士は思わず声をあげた。彼女以外の騎士の何人かからも動揺の声が漏れる。


「先日、ラパストレにグリセントファミリーの検挙で派遣された第8隊から報告があった。『炎を操る水竜』が現れた、と。件の水竜はヒヒイロカネ等級の冒険者、ニニィ・エレオノーラと行動を共にしており、通常の戦力では討伐は不可能」


「ニニィ・エレオノーラと行動を……? 彼女が気紛れに飼った魔物に魔法を覚えさせただけの可能性は」


「無論、その可能性もある。だが、この水竜が獣人族の子供を守ろうとするような動きを見せたとの報告もある。本来『水魔法』以外は使えぬはずの水竜イリノアが、教育を施しただけで炎魔法を使えるようになったというのも考えにくい。そうであろう」


「ジハード殿。魔物に魔法を覚えさせた前例は存在するが、その数も少なく、その線では考え難いのだ」

「むう、そうであったか。シェアト聖下、愚かな発言をお許し頂きたい」


「良い、構わぬとも」


 失言に頭を下げる騎士の一人に、老人は気にしないというように手を振り、そして再び口を開く。


「『炎を操る水竜』。そなたらであれば知っていよう。邪なる龍神へと成りうる存在であると。これは我が国だけでなく、世界全ての存亡がかかった危機であるのだ。あやつがもしその力を目覚めさせ、邪なる龍神と成ったならば、この世の全ては灼き尽くされ、海に呑み込まれることだろう。そなたらには破滅の未来を防ぐべく、ニニィ・エレオノーラの守りを突破して水竜イリノアを殺してもらわなければならぬ」


 そこで老人は一息つき、杖で二度床を強く叩いた。

 ドンドンという鈍い音が響き、空中に投影されていたものが変化していく。


「だが、いくらニニィ・エレオノーラが相手にいるとはいえ、水竜イリノア一匹を討伐する為だけに全員が招集されるのは過剰だと思っていた者も居るであろう。問題はこれだけでは無いのだ」


 空中に映し出されていた光はその形を変え、一人の男の姿に変化する。

 背の高いその男は端正な顔立ちをしており、その耳は長く先は尖っていた。そう、一般的な森人族の特徴である長耳だ。森人族はこの長い耳によって聴覚に優れ、音の響きにくい森の中でも僅かな音から音源の場所を探し当てられるほどなのだ。


 この男を目にした騎士たちは、険しい表情になる者と、何者かと不思議そうな表情をする者とに別れた。主に国内での任務を担当している者は馴染みのない顔であったが、国外での任務も担当している者にとってはそれなりに有名な男だ。


「北の樹氷の民の国『イヴリース』の『ムジカ・ニグ・デアロウーサ』。現在、某国では次の指導者を決める選挙が行われておる。それに出馬している候補の一人が彼なのだが、潜入させている騎士から彼に怪しい動きが見られるとの情報が入った。だが、その直後に騎士との連絡がつかなくなったのだ」


 老人は険しい表情になり、再び床をドンと叩く。

 男の映像は今度はマギステア聖国を中心においた世界地図へと形を変え、その各地に一つずつ、合計6つの点が表示された。

 


「よって、そなたらに任務の変更を伝える。第一から第三聖天までは首都マギスタリアの防御を固めよ。そして第五聖天『ウルド・バーンズ』、第六聖天『ボリス・ディアント』の両名はイヴリースへと潜入し、現在潜入中の騎士の救出及び情報収集を命ずる。そして――」


 老人の金色の瞳が、最後の騎士の姿を捉えた。


「第四聖天『オルキス・トラヴァース』。そなたは第8隊と合流した後、『奇跡』を使用した騎士と協力し、ニニィ・エレオノーラを突破して水竜イリノアを討伐するのだ」





【六大聖天】

 マギステア聖国が誇る聖堂騎士団を纏める6人の騎士。それぞれが一騎当千の力を持ち、下手な軍隊なら一人で全滅させられる程と言われている。マギステア聖国のトップである教皇に最も近い存在でもある。6人にも序列があり、数字が小さい程強い。それぞれ、マギステアに伝わる伝説に登場する聖なる獣の身体の各部分を示している。




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