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生態系最底辺の魔物に転生しましたが、平和な生活目指して全力で生き残ります 〜最弱の両生類、進化を続けて最強の龍神へと至る〜  作者: 青蛙
第二章・小さな竜と呪われた美女

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24/90

両生類、かみさま扱いされる






『え、なんて』

「かみさま………だ!」


 困惑していると、彼女はきらきらと目を輝かせ始めた。

 ただの魔物でしかない僕に対して、彼女はなんてことを言うのだろうか。


 だが、状況は僕にそんな事を考え続ける余裕を与えなかった。背後でガチャガチャと鎧の擦れる音がして急いで振り返ると、聖堂騎士二人が魔法で炎を弾き飛ばしたところだった。

 つい先程、炎の弾をもろに食らわせてやったばかりだと言うのに、ほとんど堪えた様子もなく平気な様子で立ち上がってくる。


『あぁ、くそ。【個体検査(ルオーラ)】!』





レオナルド・ディグリス 24歳 ♂

 種族:人間

 体長:175

 状態:右肩に火傷

 生命力 2840

 魔力 900

 筋力 1808

 防御 540

 速度 2560

 魔術 1854

 技能:身体強化、個体検査、光魔法系統合




アルト・ギーソン 34歳 ♂

 種族:人間

 体長:177

 状態:健康

 生命力 4510

 魔力 850

 筋力 2466

 防御 1624

 速度 3880

 魔術 1643

 技能:身体強化、個体検査、光魔法系統合、水魔法系統合





 騎士はどちらも男。

 二人共ラバルトより少し弱いぐらいの能力だが、たいして強くもない僕からすると二人共かなりの強敵だ。

 特に、先程の攻撃で若い方は火傷を負ったのに対して、年上の方は未だに無傷。能力以上に、戦い慣れしているのが恐ろしい。


「何なのだこの魔物は、邪魔をしおって……」

「アルトさん、魔物は僕が片付けますので、薄汚い獣の処理を頼みます」

「わざわざ分担する程でも無さそうだがな。早く片付けるぞ。あの邪魔者のせいで、ただでさえ時間がかかっているのだ、セレシア様も大層お怒りだ」


 そう言って、二人はぬらりと鞘から直剣を引き抜いた。

 飾り気のない、実戦に向いた無骨な剣だ。ギラリと光を反射したその銀色に、背後でヒュッと息を飲んだような声がした。


 子供相手に血も涙もない。

 それほどまでに亜人を憎む理由など僕にはまるで想像もつかないが、相手が殺意を向けてくるのなら戦わなければならない。


 正直、彼等の相手をやりきれるとも思えないが。


『そこでじっとしていてね。守りきれるか、わからないけど』

「か、かみさま……」


 怯える彼女を背に、二人の聖堂騎士と対峙する。

 ニニィが来るまでの時間、持ちこたえればいいのだ。

 彼女の事だからたいして時間もかからないだろうが、問題はその短時間僕がちゃんと耐えていられるかどうか。


「水竜イリノアか……【光属性解放(フォース・ヘリオス)】!」

『【炎刃錬成(ジェネレイド・マグナ)】』


 若い方の聖堂騎士がその手に持った剣に光属性の力を纏わせる。同時にこちらも尻尾を炎の刃へと変化させた。

 どれだけ打ち合えるかはわからないが、僕だって多少は成長しているはず。二人共、ここで抑え込んで見せる。


 そう気合いを入れて身構えた瞬間だった。

 年上の方の聖堂騎士の、こちらを見る様子が変化した。


「この魔物……俺たち二人を相手にするつもりらしい」

「アルトさん……?」

「前言撤回だ。こいつはここで、今殺さなきゃならん」

「しかし獣人族(スロゥプ)の方は」

「今は構わない。罰は俺だけで受けてやるから、気合入れろ」


 なんだかよくわからないが、向こうが僕一匹に集中してくれるならありがたい。全力を出せば出すほどこちらに釣られてくれるのだから、少女の守りに割く意識を減らしておける。


『先手必勝、【四頭炎弾(ヘカテ・マグメア)】!』


 口から魔力を放出し、炎の球体を生成する。

 下手に溜め続けている時間もない。発動可能な状態まで魔力が圧縮された時点で即座にその弾を発射した。


「っ、さっきの炎魔法か!」

「違う!先程よりも強いぞ、気を付けろ!」


 4つに分裂した炎の弾は2発ずつ二人を追尾し、身体のすぐ側までついた瞬間に凄まじい爆発を起こした。若い方の身体は爆炎に飲み込まれ、剣を盾にするように構えた彼の姿を最後に見えなくなる。

 しかし、もう一方の騎士は寸前で軽くバックステップを入れて爆炎の直撃を回避し、そのうえ足元から水の渦を創り出して飛び上がり、剣を大きく振り上げていた。


「うぐ、がぁっ!」

「レオ! ちぃっ、この野郎ッッ!」


 彼はそう言って舌打ちをしながら力強く剣を振り下ろしてくる。ゴウッと空を裂く鈍い音が響き、振り下ろされた剣を僕は身体を回転させながら放った尻尾で受け止めた。


―――ギィンッッ!



 金属と炎がぶつかりあい、高熱をまともに受けた直剣の刀身が赤熟し始める。

 互いに触れ合えるほどの距離まで接近した事で、彼の瞳が兜の隙間から僅かに見えた。


「ぬうっ!? 斬れ、ねえ、だとっ!??」

『ううううぐぐぐぐぐぅぅ!!?』


 僅かに、彼の剣の方が強い。

 炎の刃と化した尻尾に僅かに刺さっていた直剣の刃が、それを僕に実感させた。


「やっぱりテメェ、ただのイリノアじゃねえな! なおさらテメぇを殺さなきゃあならなくなった訳だ!」

『どういう意味か知らないが、ただで殺されてやるものか!』


 一撃では斬れないと判断したのか、彼は競り合いを中断して別方向から更に剣撃を幾度となく撃ち込んでくる。咄嗟に爪の方にも炎を纏わせながらその剣撃を受け流していくが、短時間でダメージは確かに蓄積されていく。


『う、ぐぅ』

「ただの魔物が、これだけやり合えるものか。ここで俺が殺さなきゃお前は本当に神になる、そうだろう!」

『知、るか……よ!』

「魔物に言っても……まあわからんか、ぉおらあッ!」

『あ、ぎゃっ!』


 尻尾で彼の剣を受け止めた直後だった。

 先程までの鍔迫り合いをしていた剣は、目にもとまらぬ速さでスライドし、そうして打ち込まれた剣の腹は僕の身体をしたたかに打ち付けた。


 まるで予想もしなかった攻撃。回避をする余裕どころか、意識をさく余裕すらなく、予想だにしていなかった強烈な打撃を受けた僕はボールのように吹っ飛んでいく。


「かみさま!」


「悪いが、テメェにもテメェの()()()()にも死んでもらう。【水槍射出(オルタ・スペルビア)】!」


 少女の悲痛な叫び声がきこえる。

 容赦なく僕に止めを刺そうと魔法を唱える男の声も。


 痛みにより明滅する視界の端で、いくつもの水の槍がこちらを狙って射出されたのが見えた。


「かみさま、負けないで!」


 少女の叫びが路地裏に木霊する。

 そこ時だった。先程の一撃で大きく傷付いた僕の身体が、驚くべき早さで治癒し始めたのだ。


『これ、は……まさか、あの子が!?』


 ちらりと一瞬彼女の方を見やるが、特に変わった様子もなく、縮こまって両手をぎゅっと握り締めているだけ。


『いや、今はいい。まだ戦えるなら立ち上がれ!』


 戦いによる緊張と痛みとで、若干ハイになりかけてきている頭を落ち着かせるように息を吐く。水の槍はすぐ目の前にまで迫ってきていたが、僕の頭は至極冷静になっていた。


『【炎槍射出(マグナ・スペルビア)】!』


 彼が放った水の槍と同じ本数。合計6本の炎の槍が僕を中心として空中に生成され、迫りくる水の槍へと向けてそれらを射出した。

 鋭い水の槍と、燃え盛る炎の槍は空中で激突し、互いに互いを崩壊させながら弾け飛び、あたりに温かな湯の雨を降らせる。


「土壇場での、急激な成長っっ!? やはりこの魔物――ッッ!」


 騎士の男がそんな焦ったような声を漏らした、その瞬間だった。

 先程放った炎の弾によって出来た煙の向こう側から、もう一人の聖堂騎士の影がゆらりと現れた。


『もう一人……!』

「っ、レオか!」


 だが、煙の中から現れたのは、聖堂騎士ではなかった。

 いや、正確には聖堂騎士だけではなかった。


「れ、レオ………?」


 聖堂騎士の男がそんな言葉を漏らして絶句する。

 煙の向こうから現れたのは確かに聖堂騎士の彼だったが、その胸から血の滴る刀を生やし、ぐったりと力なく吊るされていたのだ。


「よく耐えたねぇセシル。私が来たからには、もう大丈夫さ」

『ニニィ!』


 きっと何人もの騎士を斬って、ここまでやってきたのだろう。返り血を浴びてスプラッタ映画のような見た目になっていた彼女だったが、それでもやはり彼女は美しかった。




森人族エルフ

 不老長寿で、基本的に魔法の扱いに長けた種族。基人族の寿命が長くても80程度だとして、森人族は500まで生きる。森人族は住んでいる地域によって更に細かく種族が分かれている人種でもあり、主な種族としてはフランクラッド王国の『樹海の民』、遥か北の大地の『樹氷の民』、央海の群島に住む『紅樹の民』などが存在しており、それぞれ身体的特徴に違いがある。





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