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生態系最底辺の魔物に転生しましたが、平和な生活目指して全力で生き残ります 〜最弱の両生類、進化を続けて最強の龍神へと至る〜  作者: 青蛙
第二章・小さな竜と呪われた美女

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17/90

両生類、共闘する




 すっかり萎縮してしまった大男を横目に、馬車が走り始めてから数十分ほど経過した頃だった。

 先頭を走っていた馬車の方が騒がしくなり、僕らの乗っていた馬車は停止した。


「おや、こりゃついてないね。せっかく治安の良い方のルートを選んだのに、これじゃあ変わらないじゃないか」

『何が起きたの?』

「『盗賊』さ。他人から奪うことでしか生きていけない、迷惑者の集まりだよ。害獣みたいなもんさ。ここ50年くらいでめっきり減ったと思ってたんだけどね」

「ごじゅっ!? お嬢ちゃ、いや、アンタ何歳なんだ!?」


 びくびくしながらもこちらの様子はずっと気にしていたのか、ニニィの言葉を聞いて大男の口から素っ頓狂な声が飛び出す。

 だがそんな彼の叫びも気にせず、ニニィはのっそりとした動きで馬車から降りた。彼女がヒョイヒョイと手招きするので、僕も馬車を降りて彼女の肩にしがみつく。


「たぶん助けなんていらないだろうけど、キミの特訓にもなるだろう」

『え、もしかして、()()()?』

「盗賊なんざ生かしておくだけ迷惑極まりないからな。他に被害者出る前に皆殺しにするのが鉄則なんだよ」

『え、でも僕』

()()()()とは言わせないぞぉ? せっかく覚えた魔法なんだ、ちゃんと使ってくれなきゃあ困る」


 ハッキリ言わずともわかる。

 一台目の馬車の方を見ると既に乱戦になっており、馬車の御者と客の旅人や冒険者達が協力して盗賊達を殺していた。盗賊達の人数はかなりのものだが、戦いの腕はこちら側の方が高いのか戦況は拮抗している。


「あんたの年齢の事とか魔物と会話出来るとかは置いとくけど、盗賊って言ったよな」

「うん? お前も行くのか」

「俺も手伝うぜ。悪い奴らを見つけて見てみぬふりは、俺の信条に反する」


 おまけに先程までニニィにビクついていた大男まで馬車から降りてきて、人間の子供くらいの大きさはあるだろう大鉈を背負っていた。


 気が付くと他にも馬車から乗客たちが飛び出してきており、盗賊達に容赦なく襲い掛かっている。盗賊達の腕や首が飛び、鮮血舞い散る光景は見ていて気持ちの良いものではない。


「ああっと、今回の盗賊共は運が悪かったねえ。馬車の客はほとんど経験のある冒険者だった訳だ」

「さっさとやって、道あけねえとな!」


 うおおおお!と声を上げながら大男が大鉈を振り回して突っ込んでいく。呆然とする僕をよそにニニィはゆったりと歩き、一人の冒険者と牽制しあっている盗賊の男を指差して言った。


「アレを炎魔法で殺してみてくれ」

『いや、でも』

「旅をするんだろう。これも一つの『生きるための殺し』だ。わかっているなら、腹を括るといい」

『……わかったよ』


 ニニィの言葉は今までの様子からは想像もつかないほどの冷たさを纏い、ぞっとする程の寒気が全身を駆け抜けた。

 昨日キミも言っていただろうと。魔物も人も、必要ならばそうしなければならないだろうと。言外に責められているような雰囲気を感じた。


 僕も頭ではわかっている。

 僕の生きていたあの国と、この世界の常識はまったくの別物。

 自分の常識では受け容れられない事も、いつか受け容れなければならないだろうと思っていた。


 今が、その時だ。


『【四頭(ヘカテ)――】』


 僕は、人を殺す。


『【――炎弾(マグメア)】!!』


 ガパリと開かれた口から魔力が流れ出し、宙にバスケットボール大の高熱の塊を形成していく。

 溜まりきったエネルギーの塊は狙い定めた方向へと、凄まじい勢いで発射された。


「っ! なん!?」


 魔法の接近に気が付いた盗賊の男は、持っていた剣を盾にして身を守ろうとしたが、直撃する寸前で塊は四方に分散して男の構えた剣は空を切る。


「しまっ!」


 二度目の防御は、もう追い付かない。

 上空から2つ、足元から2つ。分散したエネルギーの塊は盗賊の身体に直撃し、激しい爆発を起こす。あとには燃えつきなかった剣と骨の一部だけが残り、地面に散らばった。


「良いよ、その調子だ」

『ぅ、ぅうわぁぁああぁぁぁ!』

「さて、私達も本格的に参戦しようか。キミ、色々と思うところはあるだろうけど、今は考えすぎない事だよ」


 彼女の落ち着いたような声が耳から脳にじんわりと響く。

 人を殺めたという感覚がワンテンポ遅れてやってきて、感情がぐちゃぐちゃになる。


『(人を、殺した! 人を殺した!人を殺した!人を殺した!)』


 もう、頭の中はそれでいっぱいになっていた。

 だが、次の瞬間、僕の思考は真っ白に塗りつぶされる。


「おちついて、セシル」


 ニニィが僕の身体を抱え、耳元で静かに囁く。

 魔法でも使ったのか、その瞬間、感情も思考も全てが空白と化した。


「キミが一人殺したぶん、殺されるかもしれなかった何人もの命が今救われたんだ。いいかい、これは悲劇じゃないよ。相手は思想犯や正義ある人間じゃない、ただの欲望に塗れた魔物に過ぎないんだ。食欲の限りに暴れまわる魔物と同じさ。キミはそんな相手と、何度も戦ってきた。そうだろう?」


 先程までの冷たい声色とは違い、優しい声で、勇気付けるように。


「ありえない話だけど、もし私が誰かに殺されそうになったとき、キミは戦うだろう? きっと、キミはそういう人だ」

『………そうだね、取り乱した。僕の生きていたところじゃ、人殺しはぜったいにやったらいけない事だったから』

「それでも、この世界で生きるなら慣れなきゃいけないよ。……行こう!」


 ニニィの腕から飛び出し、全身に魔力を滾らせて4本の脚で走り出す。すぐ隣をニニィが駆け、僕とニニィは乱戦のさなかに飛び込んだ。


「【氷刃錬成(ジェネレイド・キオ)】」


 ニニィがそう呟くと共に手のひらから氷の刀が形作られ、半透明のそれを彼女は片手で軽く握り、もう一方の手を添えた。


『【炎刃錬成(ジェネレイド・マグナ)】!』


 同時に僕も彼女と同じ魔法を使い、尻尾を元にして炎の刀を作り出す。


「今回は軽く行こう。私に合わせ給えよ」

『任せて……!』


 新たな敵の出現に舌打ちする盗賊達へと、二人同時に切りかかる。

 ニニィが楽に倒すことが出来るよう、僕は盗賊達の足元を駆け回りながら身体を回転させて尻尾を振り回し、行動を阻害していく。すると、体勢の崩れた盗賊達をニニィはしなやかな動きで盗賊達の剣をいなしながら次々と斬り捨てていった。


「強え。な、なんだ、あの女ァ!」

「ひいっ、駄目だ、死にたくねえっ」

「なんだあの魔物、水竜の癖に炎使いやがる!」


 盗賊達の剣をものともせず、次々と斬り殺していくニニィに一部の盗賊達は戦意を喪失し、散り散りに逃げ始めていく。しかし、そうした盗賊達も冒険者達の魔法を背中からもろに受けて殺されていく。

 さきほど駆けていった大男も、豪快に大男を振り回して盗賊の胴体を吹き飛ばしていた。


「く、くそっ、お前らぁ!あの女の四肢斬り落として連れてこい!顔は絶対傷付けんじゃねえぞ!」


 だが、馬車から一番離れた場所で戦っていた盗賊の頭らしき男だけは、戦意を喪失するどころかニニィを見付けると下卑た感情を隠すことなく喚き散らし始めた。


 彼の叫びに感化されたのか、特に血の気の多そうな一部の盗賊達がニニィ目掛けて迫ってくる。


「全く、これだから盗賊は嫌いなんだ」

『ニニィ!』

「おっと、構わないよ。【四頭炎弾(ヘカテマグメア)】」


 しかしニニィは慌てない。

 彼女が最初に僕が使ったものと同じ魔法を唱えると、僕が使った時の数倍の大きさのエネルギーの塊が生成され、4つに分散すると広範囲を焼き尽くすように殺到する。


「じゃあね」


―――ドッ、ゴオォォォァァ!


 轟音が響き、大地が抉れる。

 魔法によって発生した爆発は襲い掛かってきた盗賊達だけでなく盗賊の頭まで巻き込んで焼き尽くし、あとには灰すらも残らなかった。

 僕の時は4つの弾を全て合わせても剣や骨の燃えにくいものが残ったというのに、彼女の【四頭炎弾】は弾の一つずつだけでそれすらも全て焼き尽くしてしまった。


 同じ【魔法】で消費する【魔力】は、誰が使っても差は無い。故に差がつくのは、魔法の完成度の部分になる。

 これが【魔術】の差だと言うのか。まったく同じ魔法で、これだけ火力に差が出てくるとは。


 全ての盗賊の討伐は終わったが、あまりの威力にまわりの冒険者達も唖然とした表情で彼女の方を眺めていた。


「ンフ、弱いね」

『………すご』

「キミも初陣の割にはいい動きだったよ。さて、席に戻ろうかね」


 彼女は僕を拾い上げて抱えると、スッキリしたような表情でそう言った。




【盗賊】

 この世界における、ならず者の総称。徒党を組んで町の外で生活し、旅人や馬車、小規模な村を襲って略奪を繰り返す事で生きている。強盗・殺人・誘拐・強姦など好き勝手に生きるためなら何でもする。そのため、彼らは基本的に人としては扱われず、魔物と同様に殺害しても罪に問われる事はなく、それどころか冒険者の討伐対象として依頼にのることすらある。




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