8.検索
朱里さんと別れた後、オレは電車に揺られながら稲塾大学の岡田教授について検索した。
しかし、研究者データの中にある情報くらいしか引っかからず、有益なものはなかった。過去に発表された論文は、石の産状や性質を研究したものがほとんどで、オルダに関するものは一切なかった。ついでに、論文サイトでオルダに関する論文を検索したが、検索結果はゼロであった。
そもそも、オルダに関する情報はインターネット上には一切現れない。オークションでの契約のせいでもあるが、落札した人はSNSには一切上げない。オルダは知る人ぞ知る虫であり、だからこそ希少価値が高くなっている。
「行くか…」
思わず呟いてしまった。
隣に座っていた女性が怪訝そうな顔でオレの方をチラリと見た。
オレは「すみません」と軽く頭を下げた。
次に、オーナーからのヒントとしてもらったメモに書かれた<根音村>について検索した。
<こんおん>と読むのかと思っていたが、<ねおと>であった。静岡県に属しているが、場所は山梨県の中ある飛地の村であるようだった。人口は約400名ほどで、鉄道は通っておらず、見延線井出駅に繋がる一日2往復のコミュニティバスが唯一の交通手段のようである。コミュニティバスの時刻表のようなものは見つからないが、おそらく通勤や通学の時間帯のである朝と夕方なのだろう。
見延線井出駅の時刻表を確認すると、富士方面、甲府方面共に1時間に1本だけである。コミュニティバスが7時台の電車向けだと想定すると、甲府駅あるいは富士駅を5時台の始発で乗る必要がありそうである。コミュニティバスを使うのは諦めた方が良さそうである。
運転免許証を持っていないのが非常に悔やまれる。オーナーから再三自動車教習所に行けと言われていたが、若い時の学科試験全敗のトラウマで、いまだに尻込みしてしまう。運転はできるのだ。学科試験の引っかけ問題が嫌いなだけだ。運転免許証がなくても、東京に暮らしている限り不便はなかった。少々遠出をする際にはタクシーを使えばよいだけだ。
そうだ、タクシーだ!と井出駅の画像検索をした。しかし、タクシーが常駐している雰囲気は一切なかった。しかし、呼べば来てくれそうではある。今日の収益は1週間以内に入るとオーナー言ってたな。オレは無意識に1週間後の富士駅前のホテルを予約していた。