問題児現る
てな訳で、私とコウメイは霞に謝るべく、あいつに話しかけようと思ったんだけど、霞は授業が終わる度に、どこかに行ってるらしくって、昼休みになった直後もそそくさと教室を出て行った。
私達も必死に後を追おうとしたけど、生徒でごった返す廊下で、霞を追跡することはできず、結局見失ってしまった。
「あーもう! 霞の奴どこ行ったの!?」
「こうも人が多いと、探すのも一苦労だね。臭いで辿ることもできそうにないし」
どうしたらいいんだろう? 手詰まりに等しい状況に、私達は頭を抱える。
すると、そんな私達にある人が声をかけてきてくれた。
「む? おぬしら。霞を探しておるのか?」
「ん? 龍じぃ!」
驚いた私がそう呼んだこの人の名前は、応老龍。
応龍っていうすごい龍の一族出身の龍で、みんなから親しみを込めて龍じぃって呼ばれてる校長先生。
普段は花壇に水やりしてるか、お茶啜ってるか、学校を散策してるだけのおじいちゃんなんだけど、記憶力や知能が桁外れで、この学校はおろか、町の人の顔とか名前とかを全部記憶してるすごい人だったりする。
「ちょうどよかった! 龍じぃ、霞がどこにいるか知らない?」
「もちろん知っとるとも。この時間なら学食で飯を食っておる頃じゃろう。席は確か……厠のすぐ側だったはずじゃ」
「トイレの側……ありがとう龍じぃ!」
私は龍じぃに礼を言うと、急いで学食に向かった。
うちの学食はフードコートみたいにとにかく広くって、各店が色んな国や種族の料理を安く提供している。
一応、購買もあって、そこでパンを買って食べる生徒もいるにはいるけど、最近万引きが横行してるせいで品揃えも少ないし、そうでなくても、そもそものメニューのクオリティーとレパートリーが段違いだから、昼ご飯目的で購買に行く人はほとんどいない。
だから昼休みになると、7~8割の生徒がここに来てご飯を食べることになり、廊下の比じゃないぐらい混雑してしまう。
この中から霞を見つけ出すなんて、普通は厳しいけど、龍じぃから場所を聞いてたおかげで、すぐに見つけることができた。
「いた! かす……」
私はそう言いながら霞のところに行こうとした。
けど、そこに割り込むように、古いタイプのヤンキー集団が現れ、あっという間に霞を取り囲んだ。
一発文句言ってやりたかったけど、あいつらは私が怒鳴るより先に、霞が食べてた牛丼を取り上げて、頭にぶちまけた。
「霞!」
「………………」
「死臭臭ぇんだよゾンビが。こんなとこで飯なんか食ってんじゃねぇ」
番長らしき魔族の一種・オークの不良がそう言うと、子分のスケルトン共がケタケタと笑い出す。
それでも、霞はまるで何事も無かったかのように、頭や肩に乗っかった牛丼を払った。
その態度が気に入らなかったんだと思う。今度は番長の相棒っぽい男子が、霞の胸ぐらを掴んで脅しにかかった。
「おい。死体の分際で無視してんじゃねぇぞ。それとも何か? 今夜こそ俺に食われてぇか? え?」
「待て待てヴォルグ。こんな奴食ったって腹壊すだけだ。お前も嫌だよなぁ?」
そう聞かれて、霞は頷く。
「じゃあ、許してやる。その代わり、金出せよ。俺らへの慰謝料としてな。つーか、どうせ金なんていらねぇだろ? 死体なんだから」
そう言ってオークはブヒヒと下品な笑いを浮かべる。その様子と要求に、拳を握り締めるぐらい霞がムカついていたのが、遠くにいた私からでもわかった。
霞は、ずっとあいつらにいじめられてたんだ。そう思うと、あいつらを思いっきりぶん殴りたくて仕方なかった。
そう思ってると、教頭先生達がすごい剣幕で学食に来た。どうやら生徒か誰かの知らせを受けて、不良共を叱りに来たみたい。
分が悪いと判断したヴォルグ達は逃げてったみたいだけど、そのどさくさに紛れて気付いたら霞もいなくなってた。
いじめの影響で、霞はゾンビであることを気にしてるのかもしれない。だから、みんなに気を使われないように、距離をとってるんじゃ……私は、そんな状態になってるかもしれない霞を心配した。