スリーポイントシューター
1話完結。お気楽にお読みいただけます。
何なんだあいつ
こんなことってあんのか?
高くあがったボール
きれいな弧を描いてゴールへと向かうそのボールを
俺たちはただ見つめるしかなかった
シュートと同時に審判は右腕を突き上げる
その親指、人差し指、中指は伸ばされていた
ザンッ
ボールがオレンジ色のリングを潜ると同時に
審判は残されていた左腕を右腕と同じように突き上げコールした
「スリー!」
県内某所の体育館
高校バスケの試合が行われているそのコートに俺はいた
観客の声がここまで聴こえる
「ありえね~w」
「マジか、スリーポイント!」
「おいおい4連続って」
岬端高10-12木ノ城高
まだ2点差だ、十分に挽回できる
あいつ等のチームはお世辞にも強い学校じゃあない
というかこのインターハイ予選で初めてみる顔だった
それまでバスケットボール部の無かった学校に新設された
文字通りの「新顔」
実を言えばその強さも俺らには未知数だったが
それでも練習試合の結果なんかが噂となって伝わってきてた
「山高相手にボロ負け」
「河工にダブルスコア」
「海高と競ったけどやっぱ負け」
それがどうだ、勝負はやってみるまでわかんねぇって
ピ~ッ
うちのエースによる得点!
これで岬12-12木
そして相手ボールでのリスタート
ゆっくりとしたドリブル、それに合わせて動き出す両サイド
ハーフラインの少し手前からステップに緩急を付けこっちのゴールに迫ってくる
その中であのスリーポイントシューターはといえば
チームの最前、コートのほぼ真ん中に突っ立っていた
ここまでは割と普通のゲームなんだが
あのスリーくんをサイドの選手が追い越した
と同時に突っ込んでくる木高の4人
4人…
バスケットボールは1チーム5人、1人足りない
足りない1人はちんたらと最後尾から付いてきていた
そしてドリブラーからのノールックパス
それはあっさりと最後尾のスリーくんに通る
それもそのはずで、ゾーンディフェンスを敷いている俺らは
相手チームからみて「前」でディフェンスしている
大体相手ゴールにボールを運ぶ系の球技で「後ろ」にパスをするなんてのは
ボールを持って運ぶのが本分たるラグビーくらいのものだ
もちろん攻撃の糸口がつかめないとき等に
戦術的にそれを選択することはある
切り口を変えて突破口を開くってワケ
しかし奴らのバックパスはそういうのとは違う
「ナイススリー!神山」
12-15
またスリーポイントシュートが決まった
ふ~んあいつ神山ってのか
あんな凄いシューターいままでどこに隠れてたんだ?
そしてこちらの攻撃
あっさりと決まるシュート
14-15
あっさりしすぎだって
あいつら本気でディフェンスしてねえだろ
つかゴール下ガラガラじゃねえか
木高の攻撃
そしてまたバックパス
驚異のスリーポイント炸裂
14-18
またしてもざわつき出す体育館
100%の成功率を誇るスリーポイントシューター
これがどれほど異常なのか
ちょっとバスケをやったことのある奴ならすぐ分かる
ナショナル・バスケットボール・アソシエーション
(National Basketball Association)
いわゆるNBAと言われる世界最高峰のプロリーグにも成功率100%のシューターはいない
それがスリーポイントシュートともなれば尚更
先のNBAを例に挙げるならスリーポイントシュートの成功率が40%以上の選手は
スリーポイントシューターとして特別視される
もしもそれが50%を超えたならNBA史に名を残す名選手になるだろう
それが失敗なしの100%!
ここまで6本しか打ってないが十分凄い出来事だった
ザンッ
決まるレイアップ
俺の何点目かのシュートだが嬉しさは無い
それどころか焦っていた
既にゲームは最終の第4クオーター
岬端高58-84木ノ城高
木ノ城高校はその得点全てがスリーポイントだった
28本のスリーポイントシュート
我が岬高はここまでに28本のシュートを決めている
うち苦し紛れのスリーポイントが2本
そしてお互いにファールは無し
これがどういうことか分かるだろうか?
木ノ城高29回目の攻撃
「神山だ!神山に注意しろ!」
ベンチから声が飛ぶ
分かってんだよ、ンなこたぁ
すでにいろんな手をやってみた
ディフェンスをゾーンをやめてマンツーにしてみたり
神山に2人張り付けたり
木高はその辺り対策済みだった
バスケットボールには24秒ルールというものがある
チームがボールを手にしてから24秒以内にシュートしなければならないのだ
俺らもそれがあるからこそディフェンスは可能だと思っていた
しかし…
うちの得点後、ボールを拾った木ノ城高の選手は
速やかにエンドラインの外へ出てリスタートの用意をし
ボールをコートへスローイン
当然それはパスであり
エンドラインからほんの少し離れたところにいた選手はそれを受け取り
直ぐにシュート体制に入った
高くあがったボール
きれいな弧を描いてゴールへと向かうそのボールを
俺たちはただ見つめるしかなかった
なんなんだ
ゴールトゥゴール!
もう何度目かの奇跡を見せられて
観客さえも言葉を無くしていた
あんなんどうやって防ぐんだよ?
岬58-87木
そしてこちらの攻撃
木高の選手は途中までは真っ当なディフェンスを見せる
ただしファールしてまでもという程ではなく極々普通な守備
それもスリーポイントラインを超えるまでだ
その後はなおざりなディフェンス
いてもいなくてもいいようなディフェンス
どちらかといえばスリーポイントラインを越えて戻る方を警戒している
これも狙いははっきりしている
というか普通のゴールならいくらでもどうぞと言わんばかり
そうバスケの点数はごく普通のゴールならば2点にしかならない
それに対して木高は毎回3点ずつ加算していく
同じ攻撃回数掛ける2得点と3得点
時間とともに点差は開いていくのだ
バスケはこちらがゴールした後は必ず相手のボールからスタートする
そしてエンドラインのパスからすぐにシュートを打たれては手出しのしようが無い
理屈ではパサーとレシーバーに1人づつ付けて対策となるが
それではゴール下が実に心もとない
相手が本当に神山だけならそれで良かったのだが
実際にこちらがそのようなシフトを見せた時
木高は待ってましたとばかりに別の選手にパスを出した
そしてその選手もスリーポイントシュートを決めた
どうにもならなかった
その後木ノ城高校は初登場ながら県内予選を勝ち抜きインターハイに進んだ
試合を通して奴らに興味を持った俺はインターハイまで追いかけていき
そして気づけば木ノ城高校に転校していたのだった
バスケアニメ見ていて、こんな作戦はどんなん?と思いつきだけで書きました。
作者はバスケ未経験者です。ルールその他間違いがあったらご教授願います。