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廃墟街の恋空 -情-

作者: アルケミー

これはありふれた恋心のお話


此処は、産まれる前に死んだ街、未完成な街

いわゆる一つのゴーストタウン

そんな街の中心には街のシンボルして聳える32階の巨大なビル

…になるはずだった二階建ての箱の城

なに一つ…そう民家一つ完成せぬまま死んだ、この街に相応しい出来損ないのお城

そんな猫さえ寄り付かぬお城に住まうは、幼なじみの少年と少女の二人きり


そう、二人以外はなにもいない

兄弟も姉妹も、両親さえも

何故なら皆、死んでしまったから

最初に亡くなったのは少女の家族だった

少女の家族は幼い頃に少女を残して車を棺桶にして燃えて消えた

それ以来少女は少年の家族として生活してきたけれど

ついこないだ少年の家族が亡くなった

長く二人で一緒に暮らして来たけど

ふたりきりはまだ1ヶ月位

おかげで少年はずっとドキドキしていた

自分の親を殺した時よりずっとドキドキしていた

なにせ少女と初めてのふたりきりの生活だ

ドキドキしないはずがなかった

けれど少年はドキドキしながらずっと寂しかった

もう1ヶ月もたつのに少女まだ少年を視ていない

視る気配もない

無感動な瞳はずっと彼方を見つめていて

一番古い少女との記憶と同じ…まるで物心ついたころからずっとその視線は固定されてるかのようで

それは少年がここには居ないような錯覚を覚える程に澄んでくすんだ瞳だった

それが少年にとって、こんな死んだ街にずっと独りでいるより寂しくて

ふたりでいるのにずっと孤独だった…





……



…―


―朝、お腹の辺りがスウスウする感覚で、私は起きた

どうやら服が捲れているみたい

しかし服を直そうとお腹を見ると、お腹からたくさんの血が流れていた

そしてなにやらピンクのブニブニした物で繋がれていて、その先に少年が横たわっている

そのピンクのブニブニを首に巻いて…

自分のお腹に手を当てて、

[嗚呼これ、私の内臓なんだ]

なんて呟きながらそのピンクのブニブニ…私の内臓をプニプニと弄ぶ、そんな自分が少しおかしかった

とりあえず、このままじゃお手洗いにもいけないので、少年から内臓を外そうとする

けれど内臓は絡まってしまっていて解けない

どうしたものかと悩んでいると少年の手にナイフが握られていることに気付いた

きっと私のお腹を切り裂いたナイフだろう

…しょうがないなぁ

そう呟きながら少年からナイフを取る

…が、取ろうとしたナイフは握りしめられていてなかなか離れそうにない

仕方ないのでそのまま少年の腕ごと動かして私は私の内臓を切り離した


残った内臓をお腹の中に戻して捲れてた服をただす

…お腹が開きっぱなしのせいか裾から内臓がはみ出ている

まぁここには誰もいないし誰もこないし…いいよね?

そうひとりごちりながらはみ出た内臓をそのままにその場に座る


そしていつも通り時間だけが流れていく

[今日もきっと良い天気]

そうつぶやいて私はいつも通り空を眺めて…


それから七度ほど寝起きしたある日の事

「おや、こんな所でも人はいるらしいね」

そんな声が背中聞こえた

普段の私なら振り返る事も無かったのだろう

そして後に彼が呟いたように、もう死んでいるモノだと思い彼も気にする事なく彼は此処で死んでいただろう

でも私は振り返ってしまった

それは私にしては珍しく機嫌が悪かったから

もう眠るぞぉ、って時に声をかけられれば誰だって機嫌くらい悪くなる、私だってそう

だから私は機嫌が悪かった

機嫌が悪かったからこのイライラを視線でぶつけたくなるのも仕方ない


…今にして思えばアノ時私は眠ってなくて、起きていなくて良かったと思う

あんな状態でなければ私は振り向かず、彼はそのまま死んでいただろうから

だから、こうして私は彼に出逢った

彼は所謂イケメンに部類されるべき人なのだろう

優しい表情にスラッとした出で立ち

でもきっと彼はイケメンなんてよばれる事はなかっただろう

そのお腹から生えている三つ目の腕のせいで‐


「やぁ、おはよう」

明くる日、また彼は此処を訪れてきた

[もう夕方ですよ]

もう夕方、おはようの時間ではないし、ましてや私が起きたのだって随分前だ

「それでも、まずその人との1日の始まりはおはようで始めるものだよ」

そう言って彼は再びおはようと繰り返した

[…おはようございます]

あまり理解はできなかったけど彼曰わく、それが社会ってものだから、らしい

「しかし残念だなぁ…こんなにも夕日が綺麗な日だから、今日は死ぬには良い日だ、と思ったのだけどね」

彼が此処に来る理由

[それは誠に残念でしたね]

それは…

「嗚呼…本当に…」


此処で死ぬためだった


彼はずっと死ぬ場所を探して旅してきたらしい

死ぬ理由は勿論、お腹の腕、指の向きからして左手だろうか

人は両肩に一本ずつの計二本、これが普通の人だから

それなりの苦難なんかがあったらしい

世界をずっと見ていない私には良くわからないけど

そういえば私も少年だったモノも腕は二本だ

ただ彼にとって人生なんて゛ままならない゛モノが当たり前だから苦難なんかは別にいいらしい

ただ人生も゛ままならない゛なら三つ目の腕も゛ままならない゛から、せめて死に場所、時間位我が儘に生きていたいんだそうで

だからずっと死に場所を探していたらしい

らしいというのはもう探してないから

どうやら彼は此処が気に入ったみたいで、此処で誰にも見られる事なく死にたいと言っていた

だから彼は私が居なくなるまで此処に通い続けるんだと

それは気の長い話だと思う

確かに私はそのうち出て行くとは言ったけど、いつになるかなんて言ってはいない

それに私は、彼のお腹の腕を

‐カッコイい‐

と思ってしまったから

だから、彼には悪いけど私が死ぬまでは、生きてもらおう

多分これは…

一目惚れ

なんだって思う




‐次の日へ‐

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