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その日は突然に


ナリアに見せる触手の目が17本目に増えた頃、私は一つの重要課題に頭を悩ませていた。

17本、そう、もうすぐあの約束の20本になるのだ。


気がはやる私は、どうすればナリアの心がときめくような求婚ができるのか、最近はそればかり思案してしてしまっている。



「と、いう事で皆の者、今日は私の第一回作戦会議、その名も〈ときめけ! このような求婚、一生の宝物(思い出)になりますわ〉への参加をしてもらいありがとう」


「え、何言ってるんですか、普通に膝でも着いて愛してる、結婚してくれ、でいいじゃないですか」

そう若干引きながら言うのは護衛の一人、ガナライだ。


「ガナライ、私も作戦名にはドン引きだけど、旦那様のお気持ちはとても素晴らしい事よ」

「旦那様、何だかんだと大奥様そっくりですね」

…この失礼な事を言っているのがメイドのマリーネで、呆れを滲ませながら聞き捨てならない事を言うのがお馴染みのメイド長、マーサ。

…しかしどの辺りが母とそっくりなんだろうか?


「ハーヴェイ様、我々にも仕事がありまして暇ではないのですが」

サルバよ、おまえ普通に冷たいな。


「ともかく、今から私が出す案について皆の意見が聞きたい。言葉を気にせず遠慮なく述べてくれ」

「う〜ん、そうは言われましても俺、サプライズ的な事は苦手なんですよね」

「私は好きよ、楽しいじゃない」

「ナリア様なら何でもよろしいのでは?」

「仕様がありませんね、手早くお願い致します」


「うむうむ、人選を間違えたような気がするが、まあ聞いてくれ。

昨晩から考えてみたのだが、最後の触手の目を見せる場面をいつものお茶の時に見せるものとは違う、もっとこう、ナリアが喜び舞い上がる様な演出にし、そしてそのままの良い雰囲気の流れでナリアに求婚をするというものなのだが」

「ほー…例えばどのようで?」


「ねえねえメイド長、あの目を見て喜び舞い上がっていい雰囲気になる事ってあるんですか?」

「その質問はとても難しいですね。とりあえず旦那様の力の入れる所は間違っている気がしますが」



何かコソコソ聞こえるがまあいい。私のこの計画を知れば必ず協力したくなるだろう。



「例えばだな、まず 『ハーヴェイの最後の眼を探せ! ヒント:料理長の王冠″』と書いたカードをナリアの部屋へとこっそりと忍ばせ、ヒントに書かれた場所を見つけ出し、またそこでカードを見つける。

その様なやり取りの遊戯を五回程交え、最終的には庭へ出るように誘導し『ヒント:色彩豊かな香り立つ絨毯』という言葉から庭の一番大きな花壇へとナリアは足を運ぶ。

そこで花に扮した私と触手が花壇へと身を潜め、最後の触手には一際目立つリボンをつける。

当然ナリアは「わあ、可愛いお花にさらに可愛いリボンが飾ってありますわ。素敵」と言いながらその(触手)を見つめるはずだ。

そしてその時私はありがとう、と言いながらリボンがついた(触手)以外の全ての目を咲き誇るように開かせる。するとナリアが「まあ! この可愛い花達はハーヴェイ様でしたのね! 」と驚きながらも微笑み頬を染めるだろう。

そこですかさずナリアに心を込め、私の最後の目を見てくれと言い、残り一つの(触手の目)を開く。きっとナリアはそれを見て感動し、その触手に嬉々として名前を付けてくれるだろう。

そうしてその場の雰囲気、心情共々整った所で私が求婚の言葉を紡ぐ…と言うものなのだが、どうだろうか?」


うーん、我ながらロマンチックな計画が立てられたと思うのだが。



「えっ!! なにっ? どこからツッコめばいいんだ!?」

「キモい」

「坊ちゃん、そりゃダメだわ。酷い有様だね。ああ、私はナリア様が不憫でならないよ」

「マーサ、言葉遣いが素に戻っていますよ。ハーヴェイ様、仕事は出来るはずなのですが、こと恋愛に関してはこんなにもポンコツだったとは」



どうやら不評らしい。何故だ。



「いやいや、その面倒いゲームのやり取りと花はいいとしても何でそこに触手が混ざる必要があるんです!? 当主様が立ってるか、もっと普通に、ふ.つ.う に隠れてるだけじゃダメなんですか!?」

「キモい」

「ああ、でもこうして事前に相談するだけ成長してるって事を思えばいいのかね」

「さて、とにかく却下と言う事で、仕事に戻らせていただいても?」



かなりの不評らしい。泣きそうだ。

だが泣いてる暇はない、計画の改善点を聞いてみなければ。


「ま、待てっ! ならばどうすれば良いと言うのだ? 改善点を教えてくれ」


「ハーヴェイ様、改善点は全てでございます。なので一からの練り直しをお勧めいたします」

「…旦那様が、モテないのってお姿だけのせいじ「マリーネ、それは分かっても言わないであげとくれ」…分かりました」



そ、そんなにも駄目なのか…

ガックリと肩落とし触手も萎えさせて落ち込む。



「まあまあ、そんな小難しい事をせずとも、いつも通りの当主様でいいじゃないですか?」



そうだろうか?



「そうですよ旦那様! 私もサプライズも(内容によっては)楽しくて良いと思いますけど、やっぱり女性、特に人族の大半の女性は恋物語のようなベタなシチュエーションを好むと聞きますし」

「そうさね、私だったらそんな訳の分からない事されるよりは花でも渡されて、率直に言われる方が心に響くってもんだよ」

「ハーヴェイ様、外で花という案は良いと思うので、お茶の場所をいつもの室内ではなく、外の庭園にしてはいかがでしょう? 今の時期に咲いている花も多くあり、多少は雰囲気も出るものかと」



そんな単純なものでもナリアは私にときめいてくれるのか?



「サルバさん、それいいじゃないですか! いつもとは違う場所でナリア様とお茶をする。そしてこれまで通りに触手の目を見せて、その後もナリア様が大丈夫なようでしたら、こうやって…」


そう言いながら、急にガナライが私の前に颯爽と立ち、片膝をついて跪きながら私の手を取り、そして目を見つめ――



「愛している、私と結婚してくれ…なーんて…」





ドサっ!




ドサドサドサ!!



「「「「「えっ」」」」」



皆がその音の方へと顔を向けてみると、扉を開けただろう、持っていた本を落とし口を唖然として目を見開き固まっている人物が立っていた。




――――ナリアだ。







「ガナライとハーヴェイ様が、けっこん?」


ナリアの口から恐ろしい言葉が出てきた。

なんだその物凄い誤解は。


「違うぞナリア! コレはちょっと、その、練習でだな」

「そ、そうですよナリア様! 本番はきっともっと素晴らしい物になりますから!」



「ガナライが、ハーヴェイ様に、本番は先ほどよりももっと素晴らしい求婚をする?」


くぅっ! 違う!!

不味い、ナリアが身の毛もよだつような勘違いをしてしまっている。


いやいや、待て待てハーヴェイ=ランドグラッセルよ、落ち着くのだ、ナリアだぞ、今だって勘違いということは薄々気付いているはず。だとしたらこちらがしっかりと説明すれば大丈夫な…はずだ。


……て、えっ、じゃあ説明しちゃうの? さっきまでのあの事柄を? 皆んなに不評だったサプライズ考えてたのナリア本人にバレちゃうの?

……なにそれ恥ずかしい!!


「ハーヴェイ様が私と目を逸らしてもじもじしてる…ガナライの求婚が楽しみで?」


しまった!! バレることへの恥じらいがあらぬ方向へ!


「ああ坊っちゃん! 何してんだいっ!! しっかりしとくれよ!」

「ナリア様違うんです〜!ちょっと調子に乗ってしまっただけで〜」

「旦那様の結婚、儚い夢でしたね」


おい、儚い夢とか言うんじゃない!



「はあ、まったく何を言っていますか。ナリア様のことです、誤解だというのはきっと既に分かっておられますよ。

そうございますよね? ナリア様」


えっ、そうなの? と、サルバの言葉で私に喝を入れていたマーサも、あわあわとしていた元凶のガナライも、諦めの境地に入りかけていたマリーネも、私と皆は改めてナリアへと顔を振り向いてみると、




鼻を赤くし、両目からは滝のように涙が流れているナリアがいた。



サルバーーーー!? 話が違うではないかーーーー!!

皆にジロリと見られたサルバも珍しく「ナ、ナ、ナ、ナリア様!?」と慌てている。

と言うか私も慌てている。 予想外の事で言葉も出ず体も動かない。



「ハーヴェイ様は」


ナリアの口が震えながらも動き出す。



「ハーヴェイ様は」



「ナリア様落ち着いて」

「ガナライと旦那様がナリア様泣かしたー。サイテー」



「ハーヴェイ様は」



「ナリア様〜、これには訳がぁ」

「ガナライ、あなたは黙っていなさい」


ああ、ナリアが泣いている。と言うか何故泣いているんだ? 分からん! もしかして嫌われたのか? えっ、 振られる? それだけはなんとしても阻止したい!


頭の中が混乱している間にも、ナリアは無表情だが目だけは涙を流しながらも私の方へと近づいて来た。

そして隣に立ったと思えば、私の左腕をナリアは自分の胸へと抱え込み、そのまま顔を下にして埋めてしまった。


…こ、これは一体どうすればいいのだ!?

皆固唾を呑んでナリアの様子を伺っていると、ボソッと声が聞こえた。





「ハーヴェイ様――この化物は、私のなんです」



えっ? と、皆の空気が固まり、私も急な、思いもよらぬ言葉に、全ての触手が一斉にビンっと勢いよく伸びてしまった。

そんな私の状態も気づかずナリアは言葉を続ける。



「この化物は、私と一緒になりますの」



今度はカッと全ての触手の目が一斉に開く。



「化物とお似合いなのは私です。ガナライはお呼びではありません」


と、私の腕にナリアがグリグリと自分の頭を擦り付けながら言う。なにこれかわいい!



「は、はいぃい! ナリア様のおっしゃる通りですっ!! それではお、私、ガナライは、護衛の職務があります故、これにて失礼致しますぅ!」



そう言って、ガナライが脱兎のごとく逃げ出して行ってしまった。

そしてこの気を逃すまいと他の三人もガナライの後へと続く。


「坊っちゃん、後は任せましたよ。こんな可愛いお嬢さんに恥を欠かせちゃいけないよ。

…では、旦那様、私も仕事に戻らせていただきますね」

「本当に、旦那様には勿体無いけど、ちゃんと捕まえておいて下さいよー」

「やれやれ、ハーヴェイ様…とにかくまあ、あれこれ考えず、ナリア様へ素直な気持ちを伝えればよろしいかと」


それでは失礼します、と皆私がまだ固まっているのを良い事に言いたい事を言い残し、そそくさと部屋から出て行ってしまった。



残されたのは私とナリアの二人だ。




未だに私の腕にしがみ付いて頭をグリグリしている可愛いナリアの背中をあやすように手で軽く叩く。




「…ハーヴェイ様、すみません。誤解なのはちゃんと分かってはいるのです…」


「あ、ああ、分かっている。ナリア、こちらこそ嫌な思いをさせて悪かったな。その、あれらは私の相談にな、乗ってもらっていたのだ」


「相談?」


恥ずかしいなどと言っている場合ではないな。


「うむ、今ナリアへ見せる触手が17本になっていて、約束の20本までは後少しだろう? だからナリアにときめいてもらえるような演出でプロポーズをしたくてだな。

まあ、それを相談していたのだが、私の案はどうもいまいちだったらしく違う案を出していた所、その話の流れでガナライのああいう行動になった訳なのだが…」


「まあ、そうでしたの…でしたら私ったら随分と無粋な真似をしてしまいましたわ」


ナリアが鼻を啜りつつ顔を上げた。目と鼻が真っ赤に染まっている。


「いや、気にすることはない。それにおかげでナリアから嬉しい言葉も聞けたしな」


そっと頬にまだ付いている涙を親指で拭ってやり、先程の言葉を思い出す。


「あ、ああれは、なんて事を…恥ずかしいですわ。ハーヴェイ様の事も化物だ何て言ってしまって…けれど、でも、うぅ、だって…」


かわいい。頬を染め、気恥ずかしそうにごにょごにょと言っているナリアかわいい。かわいい。


しかし、気が付いているだろうか?


「なあナリア、私を見て何か思わないか?」


「え…………あっ! 触手の目が…」


そう、全て開いているのだ。

ナリアが触手共を凝視する。


「どうだろう?」


「…だい、じょうぶ、です。大丈夫ですわ!ハーヴェイ様!」


そう言い、ナリアはその喜びが抑えきれないという風に、眩しいくらいの満面の笑みを浮かべた。


ああ、もう駄目じゃないか。



「好きだ」



そんな笑顔を向けられたら、私が考えようとしていた小細工など、遥か彼方へと吹き飛び今感じている気持ちが言葉としてこぼれ落ちてしまったではないか。


「へっ」


「君のそのふと垣間見れる愛らしさ、芯の強さ、何より私を化物として認識しているにもかかわらず、私と言う人間をも見てくれようとするその度量の広さ」


「ハ、ハーヴェイ様…」


「年甲斐もなく、格好の悪い所を見せてばかりだが、どうかこの化物とこれからも一緒に過ごしてはくれないだろうか?」



見合いをして本当に良かった。

おかげでナリアと出会えることができた。




「ナリア、愛している。結婚しよう」




ナリアの顔をがみるみるうちに、泣いていた時の比ではなく耳まで赤く染まり、そこから顔は熱を帯びそのまま――――気絶してしまった。






――――えっ?











その後話を聞くと、どうやらナリアなりに色々と心情の振り幅が許容範囲超えだったらしく、感情が張ち切れてしまったらしい。


ちなみに、もし私の求婚作戦を決行したならば、はずみで一本くらいは目を潰したかも知れないと言っていた。


兎にも角にもナリアからは「喜んでお受け致します」という天にも登るような返事を貰ったので、無事、私の求婚は成立した事をここに報告しておこう。






不意の独占欲で動揺している所にハーヴェイからの愛の言葉によって脳内パンクしたナリアは何だかんだ初心な生娘ですぜ。

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