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Fragile Color  作者: 暫定とは
1/12

prologue:記録史上最高気温

「珍しいわね」

 彼女は静かな目でそう言った。そして続ける。

「あなたがそんなに、あからさまに、心配して欲しそうに、真剣に、物思いに耽るなんて、アカバ? 槍でも降らすつもりなのかしら」

「他人を普段から何も考えていない奴みたいに言うな」

「あら、違って?」

「お言葉ですが、悩み多き青春に今にもくたばりそうな程、俺は日頃から物思いに耽っているよ、城之内(じょうのうち)。あと、別に心配して欲しい訳じゃない」

 じりじりじりじりじりじりじりじり。

「そう、じゃあ聞かないわ」

「いや……そこは一応聞いておけよ」

 スローモーションの沈黙が流れる。城之内はゆっくりと、こちらを向いた。

「……――心配して、欲しい?」

 みーんみんみんみんみんみんみんみん。

「敢えて言おう、心配して欲しいとな!」

 城之内美鶴(みつる)は、そう、と言って背の高い広葉樹を見上げた。ストレートの黒髪がそれに呼応するように揺らぐ。綺麗だ。

「それで、何をそんなに考えていたのかしら。アカバ? 私の体重の(おおよ)なら、あなたは知っている筈よ」

「ああ……そうだな」

 ツッコむのも面倒だ。

 ()だるような暑さに、汗が滲む。

「夏だな、と思ってさ」

「ああ、知っているわ――夏厨(なつちゅう)、という奴ね」

 思わず顔を逸らした俺の後頭部にグサリ、と突き立てるように、城之内はそう言った。グサリ。

「違うよ。夏厨は、いつもと同じ夏が来るから騒ぐだろ? 俺はいつもと違う夏が来ているから、改めて、夏だな、と実感しているだけだよ」

「ふうん」

 何がふうん、だ。分かったような顔をしやがって。

「例えば?」

 心底苛付いているような表情で、城之内はこちらを見た。黒い瞳に映る俺の姿も、陽炎(かげろう)に燃え尽きそうだ。

「と、いうと?」

「例えばどんな事象が、いつもの夏とは違う、というのかしら。アカバ?」

 炎天の光線は植物園のガラス製の屋根を屈折しながら透過して、俺たちの脳天に突き刺さってくる。頭は溶けそうになりながらも、次の言葉を探す。

「そりゃ、気温とかだろ。城之内もいるしな」

「そう」

 癖のついた橙がかった赤の髪、濃い茶の瞳、一七一センチ五九キロ、十六歳、高校二年生。

「そうだ。気温とかな」

 俺、赤羽俊介(あかばしゅんすけ)の夏が始まる。高校生活、二度目の夏が。

「同じことを二度言わないで。時間の無駄よ。同じことを二度言っていいのは私と、私があなたに望んだ時だけよ。次は殴るわ、アカバ?」

「へいへい」

 左頬に、鈍痛。

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