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死亡志願者は最強で不老不死  作者: ウエハル
8/16

ヘビー級はベーシック

 



「俺が奴を引きつける。シュウは後方の鱗の無い部分を射てくれ」


「分かった!」


 シュウは狙いを定めつつ意気揚々と後方へ下がる。

 正直なところ一人でも十分すぎるくらいなのだが、ここは一人でやるよりかは区立ギルトのシュウと協力したということにすれば面倒は少しは省かれるだろう。

 白蛇はこちらに興味を示し、じっと見つめられている。その麗しい瞳からは考えられない殺気を放ち、さっきまでやる気満々だったハンター達も怖じ気づいている。


「バルルァァァァァァァア!!!!」


 顎が外れそうなほどに口を開き、バンを飲み込もうと向かってきた。


「オラァッ!」


 目にも止まらぬ速さで右フックを繰り出してみると、いい音が鳴った。ゴムパッチンがケツに衝突したみたいに気持ちの良い音。

 シュウは目を点にして驚いている。

 白蛇は目の辺りにクレーターのような痕をつけて、口を大きく開けたまま転がった。

 そしてその絶好の隙を逃さず、シュウの矢が放たれ、見事舌に突き刺さった。


「即効性のある毒矢だ!十秒もすれば動けなくなる!」


 パンチの余韻か毒が回ったのか、白蛇は未だ動かない。


「これで終わり……なわけないか」


「シャァァ……!」


 突然起き上がった白蛇は、首を上げてバンを見下げた。天高く睨みつける姿は勇ましいが、やがて毒が回るだろう。


「バルルルルァァァァァァア!!!」


 白蛇はバンに向かって再び突進してきた。低脳蛇め、と思いきや直前で首を丸めて地面に潜った。砂埃が巻き上がる中、震動から位置を見極める。

 奴の地中の潜行速度は尋常ではない。この距離なら、いつものだらけ気味のバンよりも少し速いかもしれないし、彼女が避ける時間もない。


 一瞬バンは焦り、地面を蹴った。白蛇は一直線で向かっている。どうやら頭は良いらしい。


「ハルッ!」


 まだ無力であるハルに向かって叫んだとほぼ同時に、ハルの足元が青白く光り輝いた。土砂だとというのにサファイアのように輝く地面は鮮やかで戦慄的。

 奴は蒼炎を吐きながら出てくるつもりだ。そうなると、生身の人間は耐えることができない。そして蘇生魔法はおそらくハルの体では耐えられない。


 このバンがそんなことをさせるわけがない。この速度でいけば余裕でハルを助け出せる。


「待つんだ少年ッ!ここは私がッ!」


 わざとなのか、本気なのか。突如横から全身に純白の鎧を身に纏った男がバンの行く手を塞いだ。

 ギルドってのは心底頭のイカれた団体だ。腹が立つよりも先に、男の無駄な素早さに驚いた。


「はァッ!?」


 急すぎて避けることができず、バンはその男に衝突した。腹は立てたが、意味は無くバランスを崩して一瞬停止してしまった。

 この一瞬が命取り。


「ガルアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 白蛇は回避しようとしたハルを的確に察知し、真下から呑み込んだ。軌跡にハルは見えず、完全に呑み込まれた証拠だった。

 白蛇はその巨躯を地面に打ちつけ着地する。何食わぬ顔で生きている。


「ゲフッ……」


「な……こんなのアリかよ……」


 バンは今までの自信が崩されたためか、開いた口が塞がらない。こんなあっさりと、しかも短期間とは。

 今まで生きていて旅の仲間を失ったのは初めてだった。魔法も何も使わずに脚力のみで余裕こいていたが故の失態。


「毒も効いていない……そんなバカな…」


 シュウもバンも色を失う。

 あの巨体ならば毒が効かなそうな風格はあったためなんとなく予想はできた。しかし、まさかの出来事に足が踏み出せない。


「バルッ………ギャガルルル………!!」


 突然咽を呻らせ、白蛇が苦しがっている。体全体をくねらせ、駄々をこねる子供のように転がっている。

 そして微妙に、咽物が膨らんできている。


「ガルァァアァァァァァアァァア!!!!」


 パァンッ!!!──風船のように白蛇の首元が破裂し、白蛇は頭と胴体で真っ二つになった。何が起こったのか理解ができず、突拍子もないためただ希望を胸に抱く。

 やはり中からは、青白い球体状の防護壁に守られたハルが出てきた。


「やりましたよ!バンさん!」


 満面の笑みで、ハルは一つの金色に輝く小さなペンダントを前にかざした。見覚えあるそのペンダントは、昨日ハルに保険として預けておいた、自動的に防護壁を発動されるペンダントだった。防護壁は決して割れず、主を守ってくれる。

 内部で防護壁が発動したおかげで白蛇の咽が破裂したのだろう。


「あぁ…そういやペンダント返して貰うの忘れてたわ……神に感謝」


 返してもらっていたら今頃ハルは亡くなっていただろう。ただの小さな物忘れが命を救うとは思いもしなかった。

 それよりも、あの白騎士には怒りが湧いてくる。

 バンは顔を後ろに向け、まだそこに唖然として立っている白騎士を睨む。顔は見えないため、反省しているのか分からない。


「テメェマジ焦らせんなよォォーッ!アァン!?」


「………」


「結果的には助かったけどよォー!ギルドってのはトチ狂った奴しかいないのかよォー!」


 なぜか徐々に怒りの矛先を失い、頭をかきむしる。白騎士は黙っている。欲に駆られた人間は恐ろしや。



「……はぁ……父と聞いて期待してみたら………こんなに若くて貧弱な男だったとは………呆れた…」


 白騎士は項垂れて、腰に手を置く。

 急になんだこの男は。確かに不老不死の片鱗を見せたわけではないが、初対面で仲間を殺しかけたというのに貧弱とは何事だ。そんなことより気になったのは


「は?…父ィ?俺がァァー?」


「ヴァン・オリゴ・テンプス。天に立たぬ我らの父よ」



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