表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死亡志願者は最強で不老不死  作者: ウエハル
3/16

母性と父性

 



「この子は私が預からせてもらおう!!」


「はぁ……こりゃあ何言っても通じなさそうだな」


 ルキナ・ナツ・ビルビア。かなりイカれた女だ。ハルは依然ポカーンとしている。

 政府の手先ではなさそうだし、殺すなんてことはしないが、障壁となるなら相手をしてやろう。


「はァァァァア!!!」


 ナツはかなりのスピードでスタートダッシュを決め、一気にバンに迫ってくる。そしてバンの目の前で大きく跳び上がり、体を捻らせて両手に持ったタガーで攻撃してきた。


 勿論当たるわけもかく、最低限の動きでバンは躱す。ナツの着地を狩ることもなく、余裕気に睨み合う。


「なかなかやるではないか……」


「あぁ……ども」


「しかーし!今のが全力だとでも思ったかヘボ野郎め!次は本気で貴様を葬り去ってやろう!!喰らえ!「ボルト・ノヴァ」!」


 かなり痛々しい魔法名を唱えると、ナツの体が星のように青白く光り輝き、モーター音のような音が鳴り響く。


 ウサイン・ボルトなんていう脚の速い男が昔いたな、なんて事を思い浮かべながら、ナツの行く末を追っていると、先程とは比べものにならない程の高速のスピードでバンの背後に回っていた。



「初めて見る魔法だ。後で調べとこ」


 カンッ!!!──高速の一撃を繰り出したはずのナツのタガーを、バンの持つ剣が受け止めた。目覚めてからこんなにも早くこの剣を出すことになるとは思ってもいなかった。

 純白の刃に葉脈のように広がる黄金色の模様。鍔部分は円形で、横ではなく縦で剣と繋がっている。その他はシンプルで、麗しい見た目をしている。


「何ッ!?」


 ナツは一驚を喫する。


「はぁはぁ…はぁ……視線を変えずに私のボルト・ノヴァを受け止めるとは……はぁ…はぁっ……褒めて…やろう………」


「マジかお前」


「しかーし!こんなもので終わると思うなよ!私はまだまだ本気ではないわ!!私としたことが貴様の技量を──」



「………オイ待てよ……!……アイツって幼女にわいせつな行為をする例の常習犯じゃないか!?」


「あぁっ!!ホントだ!おい!ここで逃したらもうこんな機会はやってこないぞ!怯まずに二人を捕らえよォーーッ!!!」


「ウオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 何故か突如として、怖じ気づいていた兵士達が血気盛んになって突撃してきた。幼女にわいせつな行為をする常習犯って言葉が聞こえたが、きっと聞き間違いだろう。

 しょうがない……全員倒してしまうか。


「フハハハハハハハ!!!この子は貰っていく!!さらばッ!!」


 いつの間にか、ナツがハルを抱えて逃げていた。

 なんて抜け目の無い変態。ハルのペンダントによる防護壁が発動しないのは、ハルがナツを敵と思っていないからだろう。つくづく使えん道具だ。

 しかしいつまでハルはポカーンとしているんだ。


「あッ!おい待て!そこの女ァッ!!!」



 バンは姿の見えなくなったナツを追い、林を駆け抜ける。

 あの女、遂にハルを誘拐しやがった。ただじゃあおかない。

 ちなみに何故元奴隷なんかを仲間にするのかというと、心が病むのを防ぐためだ。かつて孤独に旅をしていたとき、五十年程経ったところで精神が病んでしまい、数十年を無駄にしたことがある、そのため、一人でも、老若男女誰でもいいので旅のお供をつけている。



「おっと、危ない。しっかしあのアマ……どこに行きやがった…」


 全速力で林を抜けた先は、断崖絶壁たった。

 攻撃系と回復系の魔法ばかり覚えているせいか、探知系等の魔法は全く覚えていない。あろうことか全速力で真っ直ぐ走ってきたため、見失ってしまった。


「…………」


 断崖絶壁の下には水平線へと続く海の端があるが、何気なく見つめた水平線の先に何も無いことが、少し気になった。視力が常人と全く比べものにならないほど高いこともあってか、魔法と掛け合わせることで地球の裏側までは見ることができるのだが、どこまで見ても何も無い。

 これもまた、何か裏があるはず。


「それは後回しにしといて……ったく、ホントにどこだよ……」


 右を見ても左を見ても崖が曲線状に続いている。まるで、何かに抉られたように。

 自らの膨大すぎる記憶を探り、何か使えるものがないかと希望を抱く。


「そうだ、ハルと持っているペンダントを追えばいいな」


 警察犬が手がかりを匂いで見つけるように、ペンダントにあるバン自身の残留思念を感じ取ればいい。これは魔法なんかではなく、意識さえすれば使える、人体の能力の延長にあるいつ覚えたのかも分からない能力。第六感とでも言うのだろうか。やっとあのペンダントが役に立つ。



「場所は……真下か………真下!?」


 ナツも林を一直線で走り抜けて、崖を下ったのだろうか。真下ということは、どこかにそこへと続く道があるはず。それはおそらく……。


「ほっ」


 一切の迷いなどなく、バンは崖を飛び降りて下の水面から顔を出す岩の上に着地する。

 すると思った通り、崖の岩壁に大きめの穴が開いていた。ナツのアジトか何かだろうか、神秘的な雰囲気で、ロマンがある。



 バンは大きく跳び、洞窟に足を踏み入れる。

 するとすぐ遠くに、ハルが見えた。地面に座っている。ナツはいないようだが、どうでもいい。さっさとハルを救って帰ろう。


「来ちゃダメです!逃げてください!そこは──」


「我らのアジトなり!」


 聞き慣れない男の声が聞こえたその瞬間、バンの頭が鋭利な槍によって貫かれた。脳天から突き刺さったその槍は、確実にバンを仕留めており、致命傷では済まない一撃。つまりはバンを殺すための容赦ない一撃であり、バンはその場に棒のように倒れる。


 洞窟にはハルの嘆く悲鳴と、見たことのない黒装束の男達の笑い声が木霊する。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ