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死亡志願者は最強で不老不死  作者: ウエハル
2/16

その名はバン

 



「おっ、お前!ただで済むと思うなよこの露出狂!すぐに政府の役人を呼んできてやる!!!」


 禿げ男は呆れる捨て台詞吐き、猛スピードで走り去って行った。

 人類はまた一から始めたたのか、それとも寝ている間に何かが世界を衰退させたのか、見た限りでは全く近代的ではなさそうだ。一つ前の時代ではピッカピカのビル街ばかりだったが、今回はやりやすそう。


「お嬢ちゃん、どうか恐がらないでくれ。これは…あれだ……そう…ドッキリだよ」


 男は少女へと歩み寄り、優しげな声で話しかける。

 少女から畏怖の眼差しは消え去り、元の透き通るような瞳に戻っていた。仲間探しは面倒なもので、一度チャンスを逃すとそこから至極時間がかかってしまう。


「ドッ……キリ…?」


 首をかしげ、愛らしい眼を向けてくる。

 ドッキリなんて文化も無いのか、少女は本当に分からない様子。まあ誤解が解けたのならばこれ以上は深入りしない。それはそうと、早く服を新調しないと、気分か乗らない。


「つまりは噓ってことだ。自己紹介をしよう。俺はバン、気になる事情は後で説明する。ただ、君の味方だということたけは覚えておいてくれ」


「バン……バン………私……私は、レギナ…ハル・アクィトス」


「レギナ・ハル・アキ………アカ……アクィトス?どこで呼べばいいのか分からんな。何て呼べばいい?」


 今までには無い名前だ。特にアクィトスなんて、言いづらすぎるだろ。一体どこの国なのか。


「レギナはお父さんの名前で…ハルは私の名前……アクィトスは区名……」


「じゃあ、ハルでいいか」


 区名…やはりさっきの禿げ男が言っていたビルビア区といい、今の世界は区域というものが重要になっているのだろう。父の名、自分の名、出身区名で構成される名前ということか。


「突然すぎて分からないかもだけどハル、少しおつかいを頼んでもいいか?」


「…うん!」


 パッと顔が明るく眩くなり、笑顔を向けてくる。

 おつかいというのは、服の新調とその他旅のための物品の購入のため。全裸だから店に入れるはずもなく、ハルに頼むしかないというわけだ。一応は、透明化して付いていく。

 ハルは今までの奴隷生活のせいか、バンの優しさに惚れ込んでいる様子。



 ビルビア区中心部。古代ローマのような統一感のある精巧な設計の建物が並ぶ街。人がギュウギュウに詰め、鉄砲水のように人が流れる。


 カランカラン──と、入店のベルが鳴り、無愛想な店員が無言で目を向けてくる。


「………」


 店員はいつまでも無言のままで、店内をオロオロとしているハルを睨む。バンが無駄口を叩かないように口を塞いでいるから喋れないだけだが。




 ハルが店を出ると、店の裏で着替えを始める。

 ちなみに眠りから目覚めた後はこれが通例なので慣れている。


「Oh………いいセンスだよ。この切り絵みたいな細かいマントなんか特に…ハハ」


 黒く五つに枝分かれした片掛のショート丈のマントを靡かせ、全体的に中世西欧のような衣服。所々メタリックな装甲に似た部分が光を反射する。ハルの向ける煌めく眼差しが痛い。


「とても格好いいです!すっごい格好いいです!」


 打って変わってハルは肩を出している以外はいたってシンプルな薄紫色や灰色を基調としたチャイナドレスのような服装。少し体のラインが少し出ているのがあざとい。元々痩せ細っていたのもあってか背が小さく見えていたのかもしれない。今は150ちょいはある。


「まあいっか…」


 そういう世界なのかもしれない。これ以上ハルに任せると空恐ろしい事になりそうなので、付き添いは大切だ。


 その時、ガチャガチャとした金属の擦れ合う音が近づいてくる。



「こっちだ!こっちにいるぞ!」


 暖かい気分に浸っていたそのとき、若々しい声が聞こえる。視線を向けると、そこには鎧を身に纏った衛兵がおり、仲間を手招きしていた。遠くからも鎧が擦れ合う音がゾロゾロと迫って来ている。


「あの禿げジジイ……面倒くさい事を……腕ならしでもするか」


 バンは準備体操を始める。

 衛兵ぐらいなら殺しても支障ないだろう。


「ダメです!バンさん!あれは政府の兵士なんです!世界政府を敵に回したらダメなんです!」


「世界…政府…?やっぱそうなるのォ~?」


 ハルがバンの腕を掴む。

 区が重要というのは分かっていたが、世界政府とは闇が深い。この広い地球を統一する政府、それを敵に回すということは世界を敵に回すということだろう。


「ハル、俺を信じろ。通報された事実を消すこたぁ出来ねぇが、あの兵士達の記憶を消すことぐらいはできる」


「え…?」


「言っておくがハル、君を決して傷つかせはしない。事情は後で、飯屋にでも行って話そう」


 ハルの目の前に、既にバンはいなかった。

 手にはバンの腕の温もりと、小さなペンダントが握られていた。



「よし!あそこにいる奴を……あ、あれ!?確かにあそのに男と女のゴブハァッ!!」


 始めにバン達を見つけた衛兵をハイキックで吹っ飛ばし、隙を与えず次の兵士を殴り飛ばす。殴って殴って蹴って殴っての繰り返して、一騎当千。

 魔法を使う必要もない、体術だけでも十二分だ。


「オイ!増援を呼んでこい!はっ、速く行アグァッ!!!」 


 バッタバッタと、反撃の間を作らずに兵士達をぶっ飛ばしていく。兵士は逃げる者と挑む者に分かれ、町衆も何かのショーかとワラワラ集まってくる。


「魔術部隊が来たぞ!全員後退しろ!」


 兵士達は攻撃を止め、道を空ける。バンも何かと思い攻撃をやめて道の先を見ると、十一人程の律儀に横一列に並んだ男達がやってくる。全員ローブを纏って、杖を持った典型的な魔法使いのような格好だ。

 現代にも魔法を扱える者が生きているとは、しかしこんなすぐに援軍が来るものなのだろうか。計画的すぎて怪しい。


「全員ッ!「フレア」用意ッ!!」


 真ん中の男が号砲を放ち、十一人の男が一気に杖をかざす。すると何かブツブツと唱え、杖の先が光り輝いてくる。杖の中にLEDでも内蔵されているかのような内部からの光は徐々に外に現れ、火球が姿を現した。


「放てェェエーーーッ!!!」


 その合図によって杖の先に溜められた火球が一斉に放たれ、尾を引いてバンに向かっていく。

 この時代の魔法とやらはどんなものか。今まで受けてきた魔法でもバンを殺せるものは無かった。バンはピクリとも避けず、火球に正面を向ける。


 火球がぶつかり、火炎が分散する。


 だがしかし、こんな生温い火の一撃如きでやられるはずもなく、黒煙が消え去った後に現れたのは、青白い透明な防護壁に護られるバンだった。近未来感の溢れる丸くバンを包み込む防護壁は、あのフレアという魔法なんぞでは割れはしない。


「なッ…!?そんなはずは…!そんなの偶然だ!!ぜ、全員!もう一度だ!気を抜くなよ!」


「……ハルが折角選んだ服が燃えちゃあ申し訳ないから、仕方なく使わせてもらった。死にたいなら好きなだけやればいいさ」


 バンは超絶的な雰囲気を出し、歩き出す。

 何ものも寄せ付けないようなオーラに怯んでも、魔術部隊は逃げ出さず、杖の先にエネルギーを溜める。

 何故逃げないのか。敗北は明確だというのに。


「世界政府…後で調べておこ」


「放てェェェーーッ!!!!」


 再び十一個の火球が放出され、一直線でバンに命中する。

 しかし命中したのは六つだけで、もう五つは、バンを通過して後方に飛んでいった。

 その先には、ハルがいた。


「バカめ!自分の仲間を忘れたのか!!」


「………」


 バンは一切動かない。あのペンダントがハルを守ってくれるから。あのペンダントにはさっきと同じ防護壁が現れて自動的にガードしてくれる能力がある。だから傷つくことはない。それに関しては、きっとハルも分かってくれているだろう。



 バッ!──突然、木の隙間から、人影が飛び出した。


「ハッ!」


 その人影はハルの前に立ちはだかると、飛んでくる火球を華麗な体術で全て跳ね返した。体全体を縦横無尽に使った動きと、魔法での耐性付加を掛け合わせた技により、ハルへの火球命中は免れた。そんなことしなくても大丈夫だったというのに…。


「貴様ッ!自らの仲間を見捨てる気か!恥を知れ!」


 宝石のような艶があり、蒼く後ろで結んだ髪をたなびかせ、豊満な胸を揺らして颯爽と現れた女。目つきは男らしく、シャープな顔立ちをしている。両手には燦めくタガーを握り、かなりの軽装で肌の露出が激しい。

 バンを睨みつけ、ハルの前から離れない。



 そんなことをしている内に、魔術部隊は既にボコボコにされていた。幸いもう他の兵士達は竦んで立ち向かってこない。

 バンはハルの方向に顔を向けると、おかしな女がいるもので、顔をしかめる。


「どちら様で…?」


「我が名はルキナ・ナツ・ビルビア!!!こんなに可愛……じゃなくて幼くってエロ……じゃなくてか弱い少女を見捨てるその腐りきった性根を叩き直してやるッ!」


「仲間の募集はしてないんですけど……」



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