2 学校
ときどき、青春ってどんなものなのだろうか、と思考をめぐらすことがあった。僕の考えていた、少なくとも中学に入学するまでに思っていた青春とは、数多くの友人や先生に囲まれた楽しくもほろ苦い、そんな小説の中そのまんまの世界だと信じていた。
しかし実際に中学に入学してみると、それがどれほど非現実的な考えであったかということがいやというほどわかった。
くだらない授業、不必要な行事、低レベルな会話、陰湿なイジメ、バカな教師、バカな生徒。
そしていつのまにか僕は、そんな学校を蔑み、距離を置いていた。このままいたところで、自分の罪は癒されず、むしろ肥大していくばかりだと悟ったからだ。
いてはいけない場所だったのだ。厚い雲が広がってきた空に不穏な空気を感じながら、僕は思う。決して良いことはないのだから。だから、家でそれについてとくに何も言われなかったことは、僕にとっては幸いだった。共働きで忙しい両親は、僕が時間を重ねるにつれ「こいつに構っている暇などない」と言うかのように、どんどんと不干渉になっていった。そのおかげなのか、最初のうち「学校に行きなさい」と形ばかりの渋面をつくっていた父も、無視しているうちにすぐ諦めの表情へと変わり、何も言わなくなった。そうして僕は人生に一時の平穏を手に入れた。いまこそ自分の罪を見つめなおし、はっきりと自覚するときだと、そう感じた。
そんな日々に終わりを告げたのは中二の夏のことだった。
その日久しぶりに登校した薄暗い教室に、一人、死体が転がっていたのだ。
――ハエがたかっている。そう思った。黒い塊たちが五月蠅い羽音を立てながら、教室内を縦横無尽に駆け回っていた。その中心に見えるゴミ。赤褐色の絵の具に、黒い油を飛び散らせたような液体にまみれたそれは、じっと僕を見ている気がした。それはやがて羽音がやんで、ハエたちが家に帰されるまでずっと、僕の脳裏を離れなかった。そうしてそのゴミは、腐臭と汚れを残して、救急隊員の手で運ばれていった。
その晩、僕は何人かの同級生とともに警察に呼ばれ、脅し口調と物腰柔らかな警察官二人に聴取を取られた。
「何も知らない」
それが僕の答えだった。