食事
彼女は女子中学生。結構な美人さんである。
茶髪で肩まで伸ばした髪が透き通っていて美しかった。
しかし病人で長い事入院していた。
毎日病院食が出されるがあまり食べようとしない。
というかほとんど食べない。
1日に1食しか食べない。
さすがに心配した看護師がある時その事について話しかけた。
「あなた、さすがに食べなさすぎよ。毎日1食だなんて...まだ小さい子ならとにかく、もう中学生で大人なんだし、ちゃんと食べなきゃ」
「看護師さん、あなたは犬を飼った事がありますか?」
「は?」
彼女は驚いた。あまりにも意味不明な返答だったからだ。
サーカスで帽子から鳩が飛び出た瞬間を見た時の気持ちに近かった。
何故そんなところからそんなものが飛び出てくるのだ?
「いや...ないけど」
「犬ってね、子犬の頃は1日に3食あげるんです」
「はぁ」
「けれど、成犬になったら1日1食にするんですよ」
「えっ...どうして?
大人になったのよ?むしろ子供の頃よりたくさん食べなきゃいけないんじゃ?」
「答えは簡単です。子犬の頃は体が成長するから栄養がたくさん必要なの。
だけど、成犬になったら、体を動かすエネルギーだけあればいいから、1日1食の栄養で十分なのよ」
「...だからあなたは食べないのね」
「そういう事、ごめんね看護師さん」
彼女は半分呆れ半分感心していた。
よくもまあこんな思いつきもしない妙な理屈を言えるもんだ。
彼女の中でこの少女に対するイメージは完全に変わっていた。
病人だしご飯食べないしこの子大丈夫かな、大人になる前に下手したら病死してしまうのでは。
なんて思っていたがまあこの調子じゃ80の婆さんになってもたくましく生きてそうだ。
全く...と内心苦笑いしながらもやっぱり嬉しく感じた。
「ところであなた、犬について詳しいけど愛犬家なのね。
昔犬を飼ってたんだ?」
「ないですよ。私はないけどあなたは飼った事ありますか?って意味で言ったんです」
その時、椅子に座ってたら彼女はずり落ちていただろう。
おわり