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背伸びしたくなる気持ち

 数分ほど歩いたところで、シュンは足を止めた。


 孤児院。

 白を基調としたレンガ作りの建物。

 小さな庭も備え付けられており、滑り台やブランコなどの遊具が設置されている。ここで子どもたちは不自由なく遊び、生活することができる。正直なところ、王都の孤児院よりもよほど豪勢だ。


 おそらく、ここにセレスティアがいる。

 扉をノックしようと、シュンが手をあげたとき。


 ガチャーーと。

 先に内部から扉が開かれた。

 顔を出したのは、まだ十歳にも満たない小さな女の子だ。

 女の子はシュンを見上げるなり、ぱあっと顔を輝かせた。


「あ、王様だ!」

「おう。元気か?」

「うん!」

「セレスティアはいるか?」

「うん! こっちだよ!」


 女の子はシュンの手を掴むなり、室内へと誘導していく。

 気軽に王の手を引くあたり、さすがは恐れを知らない子どもということか。シュンは苦笑いを浮かべながらも、好意に甘えて案内してもらうことにした。女の子にかなり好意的な目を向けられるのも、国王になったおかげか。


 ほどなくして、シュンはとある部屋を案内されたのだがーー


「ああんっ」

「お姉ちゃんの、小さくない?」

「あ……や、やめてよ!」

「私のほうが大きいって絶対!」


 なにやら、ドアの向こうからいかがわしい声が聞こえる。想像するに、互いの胸でもちちくりあっているのだろう。

 紳士たる者、ここは気を使っていったん退散するべきだなーー

 と思っていたのだが、恐れを知らない案内役の女の子が、さっとドアを開けてしまう。


「あ」

「あ」

 その場にいた大人二人が、呆然とした声をあげた。


 シュンは見てしまった。

 セレスティアの、あまりにもぺったんこな胸を。

「うきゃあああああああ!」

 セレスティアは両手で胸を隠し、大仰に叫び出した。





「だ、誰にも言わないでくださるかしら! 私の胸が小さいこと!」

「……そこかよ」

 シュンはため息をつき、テーブルに頬杖をついた。


 食堂のテーブル。そこでシュンとセレスティアは向かい合っていた。シュンは彼女の貧乳を見にきたわけではなく、真面目な話をしにきたのである。


「……それと」

 言いながら、シュンはセレスティアの隣でちょこんと座っている女の子に声をかけた。


 さきほどセレスティアの胸をさわっていた女の子だ。歳は十代の前半で、水色の髪をツインテールでまとめている。丸っこく人懐こそうな瞳が印象的だ。セレスティアを貧乳呼ばわりするだけあって、たしかに胸は大きい。まだ幼いのに。

「……たしか、ミュウちゃんといったか。久しぶりだな」


 ミュウと呼ばれた女の子は、大きく目を輝かせた。

「はい! 覚えていてくださったんですね!」

「まあ、そりゃね」

 狭い国だ、ひとりひとりの名前くらい覚えられる。

「これから大事な話があるんでね。お前さんにはちと退屈だぜ?」


「いいんです! 私、シュロン国の将来のために、え……と、頑張らないといけないんです!」

「へえ?」

「そのために大人の話にもいちはやく慣れないといけないんです!」


 それを聞き、セレスティアは苦笑いしながら言った。

「まあ、こういう子なのよ。気持ちはわかるけどね」

 ちょっと背伸びをしている子ども……ということか。

「ま、いっか」

 シュンも頭を切り替え、セレスティアに話を切り出した。

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