走る国王
シュンは走っていた。
こんなに必死に疾走するのは人生で初めてだった。
視界のなかで、周囲の景色がとんでもないスピードで後ろに流れていく。国民たちもシュンを見かけるや、驚いたように振り向いてくる。
「シュン様、いかがなされましたか」
「悪ィ、後でな!」
国民たちに手を振りつつも、シュンは変わらず走り続ける。国民たちはいまや、人間・モンスター問わず立派にシュンに忠誠を誓っていた。
建国から二年。
シュロン国はまずまずの繁栄を辿っていた。その功績のほとんどが人間たちである。
まず住居。
こちらは王都ほどではないにせよ、レンガ製の瀟洒な家屋がいくつも建設された。人間・モンスターは関係なく、すべての国民にその家屋が与えられた。シュンとロニンの《王城》だけは国民のそれより大きいが。
病院や学習塾などの最低限の施設も整えられている。これにより、モンスターたちは以前よりはるかに豊かな生活を送れるようになった。彼らはもうシュンを尊敬の眼差しで見つめてくる。
また、万が一にも人間やモンスターの諍いが起きぬよう、人間にはセレスティアを、モンスターにはディストを、それぞれ相談役に命じてある。どんな些細な問題でも、二人を介してシュンに通達されるようになっている。
ーーのだが、いまのところ、さしたる争いは起きていない。シュロン国はいたって平和だった。
たかだか二年と少しでそれらを達成してしまうセレスティアの手腕は見事と言うしかない。
そして。
そのシュロン国に、新たな吉報が訪れようとしていた。
「お?」
と、シュンはひとり呟いた。
やっと到着したのだ。病院である。
シュロン国はまだ建国して間もないし、王城と病院の距離はほとんどない。けれど、いまのシュンにはそれだけの距離さえもどかしかった。
ーーはやく、はやく!
小さな病院の入り口前に立ったシュンは、そこで一呼吸置き、咳払いをして中に入った。さすがに院内では歩かねばならない。
「あ、シュン様!」
受付の女性が血相を変えて国王を出迎えた。
「はやくロニン様のところへ! シュン様をお待ちです!」
「お、おう」
シュンは堂々と受付のあとを歩く。そして案内された部屋の扉を開けたとき、シュンは思わず駆け出しそうになった。
元気な赤ん坊の声が室内に響きわたっている。
そしてその赤ん坊を、魔王ロニンが抱っこしている。
「おい……おいおいおい」
シュンはゆっくりとロニンのもとへ歩み寄った。
「やっと生まれたのか……俺たちの子が」
「うん……すっごく可愛いよ……」
そう言うロニンは産後で疲れ果てた顔をしていたが、とびきりの笑みを浮かべていた。
「元気な男の子ですよ」
看護婦がにこやかな表情で言う。
そうして妻から差し出された赤ん坊を、シュンはくしゃくしゃな笑顔とともに抱きしめるのだった。
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