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かつての淫夢

 夜。

 急拵きゅうごしらえで作った木製のテーブルに、さまざまな料理が並べられていた。鳥の唐揚げやサラダ、フルーツ……それはもう色とりどりで、国民たちの腹をおおいに鳴らした。


 これら豪勢な料理をつくったのはロニンと、そしてセレスティアだ。


「むう……」

 手際よく鉄板で肉を焼くセレスティアを、ロニンは見惚れたように眺めている。ちなみに調理器具もセレスティアが調達してくれた。

「す、すごいねセレスティアさん。お上手……」

「あら、そうでもないわよ? あなただってその胸にしてはすごく手際がいいわ」

「胸……?」


 ロニンは訳がわからないといったふうに首をかしげるが、数秒後、調理具を両手に持ち、セレスティアの隣に並ぶ。


「わ、私に料理を教えてください……セレスティアさんっ」

 セレスティアはしばらく目を瞬かせるも、やがてにっこり微笑んで言った。

「まさか魔王に料理教室を開くことになるとはね。ーーいいわ。あと、私のことはセレスティアでいい」

「うん!」

 ロニンも笑顔で応じる。


 かつて人間の調理を学びたいと願ったことがあったが、まさかこんな形で叶うことになろうとは。ロニンにとっては考えてもいなかった。

 





 そうして丹念につくられた品々を、国民たちは無心で頬張り続けた。そこに人間もモンスターも関係ない。美味しく食事をするときの幸福感は、種族を問わないのである。

 気分がよくなったのか、人間とモンスターが気兼ねなく話している様子もそこかしこに見られる。俺の物理ステータスはどうだ、とか、平気で個人の情報をさらけ出している者もいる。


 ーーこれが、本来のあるべき姿だよな。

 ひときわ豪勢な椅子に座りながら、シュンは国民たちの姿を眺めていた。ちなみに彼はお誕生席に着席している。


 幸せそうに食事をする姿は、人間もモンスターも関係ない。互いが一歩を踏み出せば、こうしてわかりあえるはずなのだ。


 感慨にふけるシュンに、ふと話しかける者がいた。


「シュン様……」

「おわっ!」

 オークだった。かつての最悪な淫夢が脳裏に蘇る。

「覚えてます? ほら、あんとき無礼にもシュン様を監禁してた俺ですよ」

「お、おう、覚えてるぜ」


 というより、忘れられない。


「俺ゃ人間を誤解してたみたいです。こんなに楽しい連中とは思いもしませんでした。それに……」

「んお?」

「俺たちゃ、こんなにうめえ飯を食ったのは久々なんでさ。シュン様にはもうなんとお礼を言ったらいいか……」


 若干の泣き顔で迫ってくるオーク。

 シュンはそんな彼を押しつけて言った。


「ま、まあそう思うなら、明日からちゃんと働いてくれや。あとこれ以上近寄るな」

「へい、頑張りやす!」

 オークは最後にシュンに頭を下げると、宴会の輪に戻っていった。

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